初めての嘘が日本を震撼させ世界を救う?!
エイプリルフールなので。
俺、真島真也(高一)は嘘をついたことが無い。
嘘が嫌いではなく、嘘をつきたくないわけでもなく、ただ嘘を言う機会が無かったからでもなく、
「真也くん、絶対に嘘は言ったらダメよ」
「うん!分かったよお母さん!」
自分を女手ひとつで育ててくれたお母さんにそう言われて嘘をつかなかったのだ。
「エイプリルフールに嘘をつくと面白いのかな?」
周りのみんながたわいも無い嘘で盛り上がっているのを見ていると、エイプリルフールくらい嘘をついてもいいかなって気持ちになる。
お母さんを裏切ることになるからダメだよな⋯。
そう思っていた所にやってきたのは親友の高杉誠。
「どうした真也?」
「あっ、誠」
「浮かない顔をしてるけど、何かあったのか?」
「ち、違うよ。ちょっと考え事していたからさ」
「そうか?もし困ったことがあるなら言えよ。長い付き合いなんだしさ」
俺と誠は隣の家に住んでおり、物心ついた頃から一緒に遊んでいた仲だ。
そうだ!
親友の誠になら嘘をついてもすぐに見抜いてくれるだろう。
それなら俺の嘘で大事になったりしないはず。
でも万が一のために、なるべくわかりやすい嘘にしようと決めた俺は誠に向き直る。
「ねえ誠」
「なんだい?」
「今日の昼くらいに地球が滅ぶらしいよ」
「ふーん」
反応が薄い⋯壮大な嘘すぎて、スルーされたのかな?
せめてつっこみくらいして欲しかったのに。
「ふうん、地球がねえ⋯」
「滅ぶ?地球が?」
「今日の昼過ぎに滅ぶ?ははっ⋯」
誠はそう呟くと口を開けたまま固まってしまう。
「ごめん誠。ほら今日はエイプ⋯」
「大変だあああっ!」
大慌てでスマホを取り出すとどこかに連絡をしている誠。
そうか!
俺の嘘を見抜いて、大騒ぎしているフリをしているんだな?
「真也!今から父さんの所に行くぞ!」
「えっ?もう授業が始まるよ?」
「いいからついてこい!」
俺は誠に引っ張られるように学校の外に出ると、そこには高級そうな車が止まっていた。
これってセレブが乗る車だよね?
乗っていいの?乗るんだ。
うわっ、座席のクッション性最高すぎる。
もしやヨギボ○なのか?
しばらく走るとどこかに停車したので名残惜しいけど誠と一緒に降りる。
⋯って、ここがお父さんの仕事先なの?
『首相官邸』
なるほど!エイプリルフールだからか!
俺の地球が滅ぶという壮大な嘘に負けないように、授業をサボってこんな所に連れて来るなんて凄いな。
「うわあおどろいたー。ここが誠の本当のお父さんの仕事場所だったのかあー」
「ああ、黙っていてごめん。でも俺が総理の息子だと知られたら、遊んでくれなくなる気がしてさ」
「そんな事ないよ。誠は誠だからな」
「ありがとう、真也」
そう言って照れる誠を見てちょっとドキッとする。
誠の顔の作りとか中性的で整っているから、もし女の子だったら惚れてたかもね!
と考えているところに、門の前の警備員が声をかけてきた。
「お疲れ様です、誠さま」
どういうこと?なんで誠が挨拶されてるの?
「お父さんは?」
「応接室でお待ちです」
「分かった。すぐに会うよ」
そして誠は俺の手を握ると首相官邸の中に入っていく。
「え?え?え?」
会う人が皆、誠に向けて頭を下げている。
これはもしかすると⋯
モニタ○ングか!
俺を驚かせるためにやってるんだな?
そういえば、誠の両親には会ったことはないけどいつもテレビ局の仕事でほとんど家に帰れないっていってたもんなあ。
そのコネを使って壮大なドッキリを仕掛けてくれたんだ!
つまりこの首相官邸は偽物で、居る人はみんな役者さんやエキストラなんだな?
よし、とりあえず騙されたフリをしておこう。
ネタばらしのあとに『実はこれ、モニタ○ングです!』と言われたらすごく驚かないと。
番組のゲストは誰なのかなあ?
今一番人気の女優ユカリンだったらいいんだけど。
俺たちは豪華なつくりの応接室に通される。
「父上、遅くなりました」
「うむ、そこに座れ」
うわあ、この人総理にそっくりだ!
でも本物より少し老けて見えるなあ。
声も似ている気がするけど、そもそも総理のことなんてあんまり知らないし⋯。
それに『父上』だって?
誠の話し方が丁寧になってるし⋯いかんいかん、ここで吹き出したら台無しだ。
平常心、平常心と。
「君が真也くんだね?誠がお世話になっている」
そう言って総理のそっくりさんが頭を下げてきたので、俺も慌てて頭を下げる。
「それで誠が電話で話していた件だが⋯」
「はい、『地球が滅ぶ』のは嘘をついたことがない真也が言うのだから間違いありません」
何その理論?!
じゃあ俺が異世界に行ってきたとか言っても信じるってこと?
「では、真也くん。地球はどうやって滅ぶのかね?」
え?具体的に言うの?
そっか。嘘だってすぐに言ったら面白くないよね?番組的にも。
「実は世界中の核爆弾が共鳴して一気に誘爆するんです!」
「なんだって?!」
ガタンと音を立てて立ち上がる総理の(以下略)。
「それに宇宙から巨大隕石が来ます!」
「なんだとおおおっ?!」
凄いこの人!迫真の演技だ!
「あとは異世界からの侵略があります」
「これはいかんっ!すぐにアメリカにホットラインを!」
慌てて部屋から出ていく総理(略)。
で、この後はどうなるんだろ?
「あとはお父さんに任せるしかないな」
「う、うん。そうだね」
出されたお茶とお菓子を食べて待っていること2時間。
モニタ○ングの撮影ってこんなに時間かけてやるんだ。
きっとエイプリルフールだからだね!
ガチャリ
ドアを開けて総理略が戻ってきた。
「ありがとう真也くん!これで世界は救われるよ!」
「え?あ?そ、そうですか?」
2時間で何かできたって事かな?
「まず核爆弾の件だが、アメリカに問い合せたところ、少し前から爆弾全てに謎の振動が起こっていたらしい。他の同盟国に聞いたところやはり同様のことが起こっていて、共鳴でミサイルが自壊する可能性があったそうだ」
「そ、そうですか」
「そこで同盟国ではない国にもその情報を流すことが出来た」
2時間でシナリオ考えてきたのかな?なかなかリアルだな。
「次に、巨大隕石は確かに地球に接近していた。さらに地球の各地にある異世界へのゲートの向こう側に異世界の侵略軍が集結していることがわかった!」
「ゲートってどこにあるんです?」
「まだ一般には知らせてなかったが、月の裏にあるのだ」
なるほど、そこならあってもおかしくないかもね。
でも月の裏に出ても酸素無いよね?
それとも異世界のすごい科学力や魔法の力があって平気なのかな?
「そこで世界中の核爆弾を巨大隕石と異世界のゲートに向けて発射し、それらを完全破壊することになった」
おお、適当に言ったことが上手くつながってるじゃないか!番組の放送作家さん凄い!
「あとは結果待ちだが⋯多分ここからでも見えるだろうな」
「何がです?」
「月の裏は多分見えないが、隕石を吹き飛ばすところは見えるだろう。それはちょうど日本に向かっていたらしいからね」
「父上、どうして今までそんな大きな隕石に気づかなかったんです?」
「それが謎なんだが⋯」
「異世界の魔法使いが『メテオ』の魔法を使ったとか」
「「なにっ?!」」
同時に俺の方を見てくる二人。
それにしてもこの二人は本当の親子と思えるほどそっくりだなあ。
⋯⋯あれ?
今の総理の名前って、高杉恭二だよな?
高杉って⋯⋯まさか⋯⋯
「つかぬ事をお伺いしますが、ここは本当の首相官邸ですか?」
「真也くん、いったい何を言っているんだ?」
「まさかこの首相官邸が偽物とでもいうの?」
まさかこれって本当に⋯⋯
ズドドドドゴゴゴゴーーーーンッ!!
ものすごい轟音がして、慌ててテラスに出て上を見上げる総理。
俺達もテラスに出て上を見ると、空の彼方で何かが激しく明滅している。
「頼むぞ!跡形もなく粉々になってくれ!」
あれって巨大隕石が核爆弾で砕かれているのか?⋯⋯きっとドローンに花火つけているんだよね?ね?
「あっ、真也!あれを見ろ!」
誠が指し示した方向には半月が浮かんでいたが、その周りが丸く輝いてる。
あれが月の裏のゲートを吹き飛ばしている光なのか?
「総理!」
やってきたのは防衛大臣他の閣僚たち。
みんなそっくりさんどころか本人にしか見えないんだけど!
そして閣僚たちは次々に報告をしてくる。
「隕石は無事破壊され、破片の殆どは空気中で燃え尽きるそうです。僅かにひとつふたつ大きい破片が残ったそうですが、確率的に人がいるところには落ちないでしょうし、被害があっても家ひとつ吹き飛ぶ程度かと」
「異世界へのゲートは無事に破壊できたそうです!」
「残った核爆弾は全て分解するそうです!これで世界から核爆弾が無くなります!」
「そうか、良かった良かった。ふう」
部屋に戻ってどっかりと椅子に座る総理。
「ありがとう!全ては真也くんのおかげだ!」
俺の両手を握ってがっちり握手してくる総理。
「やったな真也!」
「う、うん」
誠とハイタッチするが⋯⋯これどういうこと?
俺のついた嘘が、嘘じゃなくてたまたま本当だったってこと?
それとも⋯⋯俺が言ったことって全部本当になるって事?
「うちに隕石の欠片が落ちたりして」
「「え?」」
「「「「ええっ?!」」」」
みんながテラスに出ていき、隕石があった方角を見つめる。
流れ星?
違う、あれは隕石の破片だ!
ドドーン!
落ちたっ!それに、あっちは俺の家の方向だ!
「総理!総理の家の隣の家が隕石で粉々になったそうです!総理の家も衝撃でガラスが割れています」
「「「なんだって?!」」」
俺と誠と総理はハモリながら驚くと、ここへ来た車に乗って家まで送ってもらった。
「そん⋯な⋯」
火事にはならなかったが家は隕石の欠片で木っ端微塵だ。
周りの家もその破片や衝撃波で被害が出ている。
「真也!無事だったのね!」
駆け寄ってきたのは俺のお母さん。
仕事に出ていて助かったのか!
ああ、良かった。
それにしても⋯⋯俺が嘘をつくと本当になるってことか?
そしてその晩は誠と二人でホテルに泊まることになった。
「真也のお母さんは泊まらないんだな」
「夜も仕事があるらしいから」
女手ひとつで家族を養っていくから大変なんだよな。
「真也、お風呂先に入るからな」
「ああ」
「一緒に入るか?」
「馬鹿野郎」
そう言いつつもドキッとしてしまう俺。
やっぱり誠の顔立ちは女の子っぽいし、髪伸ばしただけで美少女になるだろうな。
⋯⋯これ、実は誠が女の子だったって言ったらそうなるのか?
「なあ誠」
俺は風呂に入っている誠に声をかける。
「何?」
「実は誠って女の子なんだろ?」
「え?どういう意味?」
「いや、誠が本当は女の子だから俺と付き合って欲しいなって」
「本当?!本当に私と付き合ってくれるの?!」
ドアが開いて俺に抱きついてくる誠。
体がベタベタなんだけど⋯
むにゅん
こ、この柔らかい感触は⋯
「うふ、当ててんの♡」
そう言って微笑む誠。
誠が本当に女の子になってるううううっ?!
それから俺たちは恋人同士になった。
そしてそれ以降、俺は嘘をついていない。
この能力が怖すぎるからだ。
翌年4月1日。
俺は誠と一緒に喫茶店に来ていた。
すると、まさか!
大好きな女優であるユカリンがそこにやってきたのだ!
「あっ、電話だ。外でかけてくるね」
そう言って誠は喫茶店の外に出ていく。
「ユカリンが話しかけてくれないかな?」
そう言いつつユカリンの方を見ていると目が合った。
「ねえ、あなたさっきから私のこと見てるけど、何か用?」
「あ、あのっ、ファンなんです!ごめんなさいっ!」
「ふふ。そうなの?なら謝らなくていいわ」
そう言って俺の目の前の席に座るユカリン。
なんでここに座るの?!
「さっきの子、恋人?」
「あ、はい」
「ふうん⋯⋯ねえ、私があなたの恋人になってあげるから別れなさい」
「は?」
「は?じゃないわよ。だから、あの子と別れて私と付き合いなさいよ」
な、何が起こっているんだ?!
もしかして無意識にユカリンと付き合いたいって言ってたのか?!
いやいや、そんなはずは無い。
言葉にはいつも気をつけているからな。
「ねえ、いいでしょ?私、あなたに一目惚れしたんだから」
「う、う、嬉しいけどダメです」
「どうして?」
「誠のことが大好きなので」
そこに誠が戻ってくる。
「あっ、どうしてボクの席にユカリンが居るの?」
「なんか、勝手に座られ⋯」
「ふふっ、私たち付き合うことになったのよ」
「お、おいっ!」
「そんなあっ!」
誠の顔が絶望に歪む。
「この浮気者!」
「ち、違うんだ!話を聞いてくれ!」
「もう知らないっ!」
駄目だ!このままだと本当に誠と別れてしまう!
そうだ!俺が言うことが全部真実になるなら⋯⋯
「わかった!これってモニタ○ングだな?きっとそうだよ!」
するとドタドタドタとプラカードとカメラを持った人達が入ってくる。
「そうでーす!モニタ○ングでしたあ!」
「うわあ、おどろいたなあ!」
とりあえず驚いたふりをしながらも内心安堵する俺。
「どこで気づきました?」
「誠が『もう知らない』って言った時です。俺の言うことを信じない時点でおかしいなと思って」
「じゃあ最初は分からなかったんですね?」
「ええ」
「他にもおかしなことありませんでした?」
「え?」
「ほら、実は性別が違ってとか⋯」
「?!」
ま、まさか誠が女の子になったのもモニタ○ングだったのか?!
でも誠は本当に女の子だし⋯⋯色々確認してるからね。
「こんな長期間のモニタ○ングなんて初めてですからね。分からないのも無理ないですよ」
「一体いつからやっていたんですか?」
「あなたが物心ついた頃からです」
つまりその頃から誠は俺を騙すために女の子の振りをしていたのか!
「ごめーぇん。今まで騙していてえ」
そこで喫茶店に入ってきたのは俺のお母さん。
ううん、違う。
お母さんはこんなオネエみたいな話し方はしなかったはずだ。
「実はぁ、私ぃ、」
「あなたの『お母さん』じゃなくて『お父さん』でしたぁん!」
「ええええええええええええっ?!」
俺が生まれて直ぐにお母さんが死に、お父さんはお母さん代わりになろうとして女装し、昼は会社、夜はオネエバーで働いていたそうだ。
これってどうリアクションしていいか分からないよ。
「隕石とか異世界の話もモニタ○ングだったんだね」
「え?なんの事?」
「「「???」」」
ポカンとするお母さんとユカリンとスタッフたち。
「な、なんでもないです!真也!ちょっとこっち来て!」
俺は誠に物陰に引っ張っていかれる。
「それは国家機密だから言ったらダメでしょ?」
「え?」
そっちはマジなの?!
じゃあ、俺がついた嘘が本当になるって言う能力は⋯⋯本当なの?嘘なの?どっち?
試すしかないか。
絶対に起こりえなくて、本当になっても迷惑のかからない嘘って⋯⋯
よし、これだ!
俺は意を決してこう言った。
「今日から戦争が無くなるみたいだよ」
そして世界に平和が訪れた。
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