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死刑までの恋する時間まで………。

二人の兵士に囲まれながら、少年は独房に続く通路を歩いていた。独房についた少年は手錠から解かれ、独房の中に入れられた。

その監視役として私が選ばれた。

「今日から死刑までの間、その少年を見張れ。不可解な行動を見せた時は報告しろ」

そう告げた兵士たちは来た道を戻っていった。

少年は独房をキョロキョロすると、私に話しかけてきた。

「食事の時間って何時なの?」と。

囚人と喋ることは禁止されていたので、無視するほかなかった。それなのに少年は楽しそうに話しかけてくる。

「どうして話しないの?仕事上だから、オレが大罪人だから」

どれだけ話しかけても、私は全て無視した。

そして、食事の知らせるベルが鳴り、少年の独房にも食事が運ばれた。少年は子供のように喜びながら、食事を食べる。

少年が食べ終えた食器を片付ければ、今日の仕事はおしまい。

少年はニコニコ顔で「また明日会えるかな!」とはしゃぐ子供みたいに聞いてきた。

私は少年のことなど見ることなく、牢獄室から出ていった。

正直言って、最低な人間だ。あれだけど多くの人を殺しといて、あんなに楽しそうにする。正気じゃないよ、あの少年はーー。

自宅に着いた私を彼氏が出迎えてくれた。すると彼氏は後ろからハグをしてきた。

「今日の仕事はどうだった。なんか臭いよ、ドブのあるところで仕事してるのかい」

「そうよ。臭い人は嫌いなの?」

「君の匂いとドブが混じって、案外好きかもしれないな」

「変態さんだ♡」

彼氏は私の首筋にキスをするが、そんな気はなかった私は、彼氏に言われたのもあって風呂に入ることにした。

それから楽しい食事を楽しむなか、私は少年の話を持ち出し、少年がいかにやばいのかを彼氏に聞いてほしかった。

それを聞いた彼氏は「君が心配だ。そんな野蛮な奴と一緒に居ると聞いただけで寒気がする。正義の鉄槌を下さないとな」

と言ってくれた。

楽しい時間は瞬く間に過ぎていき、次の日の朝を迎えた。

今日も少年の監視をするため、牢獄室の扉に向かっていると、何人かの兵士がテンション高めで牢獄室から出てきた。

私は軽めの挨拶をしながら兵士たちの横を通り過ぎていく。牢獄室に通じる階段を降りていき、少年がいる独房の前に立つと、少年の顔と体に複数のアザがあった。

少年は確かに大罪人だ。多くの人を残忍に殺しといて、死刑の日までのうのうと生きている。私は別にいいと思った。それだけのことを少年はしたのだから……。

少年は私の存在に気づくやいなや手を振りながら「おはよう」と笑顔でいうが、少年は腹部を抑えて苦痛の表情になる。

少年は苦痛に悶え苦しむが、何も発しない。ただただ耐え凌ぐ少年を見てるだけの自分に、人としての何かを見失いそうになった私は、先生を呼ぶ事にした。

少年をベッドに寝かせると、先生の診察がはいる。先生が少年の肋部分を触ると、少年の顔が苦痛の表情になった。先生は最低限の手当てを済ませて独房から出てきた。

「彼はもうじきこの世界からいなくなる。それまで人としての尊厳を与えてあげなさい」

そう言って先生は牢獄室から出て行く。

少年は天井を見つめて「助けてくれて、ありがとう……」とささやいた。

少年は安心したのかそのまま眠りについた。

時おり少年はうめき声をあげる。私は少年のことが気になり、少年の寝顔を見ている自分がいた。食事の時間になっても少年は起きることがなかったので、そのまま食事を独房に入れたまま私は帰ることにした。

私は心配してないけれども、いろいろ考えてしまう、少年のことを。起きられただろうか?食事は食べられただろうか?また暴力を振るわれてはいないだろうかと。

そうこうしている間に自宅に着いていた。玄関の扉を開けると彼氏が「おかえり」と出迎えてくれた。今日の私は疲れていたのを彼氏に見抜かれて、心配の声をかけてくれた。

食事はあまり進まず、考え事をしてしまう。

「少年に何かされたのか?」

と聞いてくる彼氏だったが、私は首を横に振って「大丈夫」と

曖昧な返事で返した。

次の日私はいつもよりも早く出勤していた。心配はしてないけれども体は正直だった。いつの間に足は早歩きになっていた。

しかし職場ではゆっくりと歩きながら牢獄室の扉を開けて、少年の居る独房を除いて見ると、少年は壁に寄りかかっていて「おはよう」と言って手を振った。

私ホッとし笑みをこぼした。それを見て少年は「初めて笑ってくれた。ねえ!もっと笑ってよ」と言ってくる。

私は直ぐに仕事の顔に戻り、見張りをすることした。少年は相変わらず楽しそうに話しかけてくる。

「海って見たことある?こことは違ってすごい綺麗なんだろうなぁ。一度でもいいから見てみたいな」

少年の話を聞いていると、急に視界がぼやけてきた。立っていられないほどの立ちくらみにあい、私はとうとう倒れ込んだ。

少年はゆっくりと私の方に近づき、独房の鍵に手を伸ばした。そして少年はその鍵を使い独房の柵を開けたところで、私は気を失った。

次に私が目を覚ましたのは病室のベッドの上だった。横には看護師がちょうど点滴のチェックをしているところだった。

ふと私は少年のことを思い出し、看護師に少年のことを尋ねた。看護師さん曰く。少年は私のことを担いだあと病棟まで運んでくれた。すごい慌てた様子で、物すごく心配していたらしいと教えてもらった。

そのあと私は先生に「1日休めば問題ないだろう」と言われたので、今日は早退きすることにした。

ちょっとだけ牢獄室を覗こうとしたが、考えてみたら他の見張りがいるので、大人しく帰ることにした。

家に着いた私は先生に言われた通り寝室で休もうとした。しかし寝室の声から彼氏の声が楽しそうに誰かと話していた。私は疑問に思いながらも寝室の扉ドアを開けてみると、そこには彼氏と見知らぬ女が楽しくやっているところだった。

すると私の存在に気付いた二人はめちゃくちゃ驚いて、三人して固まっていた。彼氏は何か言いたげそうだったが、私は何も言わず寝室のドアを閉めて家を出ていった。

とりあえず宿屋に向かってチェックインして、何も考えず私はベッドで横になった。そのまま寝続けて深夜3時ごろに目を覚ました。今日のことを思い出しながら私は呆然と壁を見つめる。私は体を丸めて自分の衣服を強く引っ張るが、少年のことを思い出していたら自然と落ち着きを取り戻していて、いつの間にかまた寝ていた。

それから二日後。

私は元気を取り戻し、少年に会いた一心で職場に向かった。

少年がいる独房を除いて見ると、少年はつまらなそうに窓の外を見ていた。私は禁止と知りながらも少年に「おはよう」と話しかけてしまった。

すると少年は私の方を振り向き、嬉しそうな顔をして私の方にきた。心配そうに話しかけてくる少年に「運んでくれて、ありがとう」と感謝の気持ちを伝えた。

少年は照れくさそうなそぶりを見せたあと、今日も少年は楽しそうに話した。

私もっと少年の話を近くで聞きたくて、独房の柵を開けて中に入った。

私の意外な行動を見て少年は慌てふためいた。そんな少年に「後ろを向いて」っと言って、少年に背中を向かせた。

そして私は隠して置いたクシを取り出して、少年の髪を梳かしてあげる。

ふと少年が柵の方に目をやると、柵が半開きの状態で空いていることに気づき、それを私に教えてくれた。

「いいの開けっぱなしで、このまま逃げちゃうよ」と冗談混じりの言い方をする少年の背中に頭をくっつけて「いいよ」と言ってしまった。

それに対して少年は優しい声で「そんなことしたら君が怒られちゃうよ。君の落ち込んだ顔なんて僕は見たくないな」と言ってくれた。

その少年のあまり優しさに、私が甘えていることを口に出して言う。

「最初の私はあなたことを最低の人間だと思っていた。だけど一緒に居るうちに、あなたのことがわからなくなった。本当にあなたが大罪人なのか?本当に殺戮者なのか?考えれば考えるほど頭が混乱した。二日前私浮気されたのーー付き合っていた彼氏に。自分でもわかっている本当に最低なのはあなたじゃない、本当に最低なのはこの私だ。それでも私があなたを好きになったことに変わりない}

沈黙の時間がほんの少し流れた後、少年は口を開いた。

「ほんと……最低な人間だ。なら、一つお願いを聞いてもらっていい」

「・・・・・」

「君のキスしてみたい」と言い出した。

すると交代を知らせる鐘の音が鳴り。このままだと少年に被害が及ぶとして、私は独房から出ようとすると、少年は私の腕を引っ張り、お互い見つめあった。

そして私たちはお互いの唇を重ね合わせて、互いの吐息が激しく聞こえるほど濃厚なキスを交わし続けるのであった。

それから三日後の午前11時24分。少年の居る独房に二人の兵士が中に入り、少年に手錠をかけた。

少年は前の兵士の後をついて行くと、数週間ぶりの外に出る。

外には絞首刑を囲むようにして民衆が集まり、少年に向けて罵倒する者や物を投げる者、ただ見ている者の中に私はいた。

兵士は絞首刑に取り付けてある輪っかのロープを少年の首に通した。少年は私の存在に気づくと、いつもと変わらない笑顔を見せてくれた。だから私もとびきりの笑顔を見せると、死刑執行が開始されて、少年の姿はもうどこにもなく、一本のロープだけがぶら下がっていた。

私は荷物を抱え何度も列車を乗り継いだ。少年が見たいと言っていた海を一望出来る崖上にいた。

しばらく海を眺めて、少年からもらった手紙を読むことにした。手紙の内容はいくつかの質問だった。

{今あなたはどこにいますか?}

「ひとりで海を見に来ました」

{その場所は綺麗なですか?}

「忘れられないほど綺麗な海です」

{最後に、もう僕のことは忘れてください。こんな人殺しの大罪人を好きになってくれて、ほんとうにありがとう。あなたの幸せを心より祈っています}

「全部、知ってるんだらね。あなたは誰一人殺してなんていない。あなたは誰かを守るためにーー守るために………」 

少年の無邪気な笑顔を思い出していると、私の目から涙がこぼれ落ちた。

   

そして私が最後に聞いた音は、打ち付ける波の音だった。

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