表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/83

それを人はフラグと言う


「ありがとうございました~」


 目当ての品を抱えた客が店を出て行く。

 私はそれを笑顔で見送った。

 実家の店番。

 私は今日も元気にもはや恒例となった実家へと帰ってきていた。


◇◇◇


 国王と王妃が呪いに倒れるという前代未聞の事件が片付いてからひと月が経った。

 カタリーナ様の調子も戻り、いつも通りの日々を過ごしている。

 キャシーとは時々ふたりでお茶をしている。

 気の置けない友人とのお喋りは楽しく、知らないうちに溜まっていたストレスの良い発散の場となっていた。

 彼女の体調もすっかり元通りだ。それは国王も同じで、変な後遺症などはないということ。

 それは本当に良かったと思う。

 呪いが解けても後遺症に苦しむことは少なくないのだから。

 いや、もしキャシーに後遺症など出れば、速攻で私が治すのだけれど。

 親友に後遺症など許せるはずないではないか。

 そうして戻ってきた穏やかな日々。

 私は相変わらず駄目な聖女候補を演じつつ、時々実家に帰るという生活を続けていた。

 心に迷いはあるけれど。

 本当にこのままで良いのか。彼らを見捨てる結果になっても、それは自分の選択だと胸を張れるのか、いつか後悔することにならないのかと、色々疑問ではあるけれど、まだ答えは出ないから、とりあえずは当初の予定通りに行動している。


「答えなんて出るわけないよね」


 誰もいないカウンターに頬杖をつき、呟く。

 父は裏の倉庫に薬を取りにいっているのだ。ひとりでの留守番は慣れたものだけれど、ひとりになると、どうしてもこれからの自分について考え込んでしまう。


「あの人も何を考えているのかよくわからないし」


 あの人とはもちろんノア王子のことだ。

 正直彼が一番謎である。

 彼とは、あの呪いの一件以降顔を合わせてはいないが、忙しくしているのはキャシーに聞いているから知っている。

 なんでも王都の近くに強い魔物が他にもいないか、騎士団を引き連れて自ら調べ、倒して回っているのだとか。

 ひとりで良いと傲岸不遜に笑っていた彼を知っているだけに、騎士団を連れていると聞いた時は驚いたが、今回の事件は彼なりに思うところがあったらしい。

 自分でも気づかないところで奢っていたのではないか。

 今回の件を重く受け止めた彼は、今まで何度言われても付けなかった、専任の護衛騎士を付けることをついに受け入れたらしい。

 多分、彼なりに反省した結果なのではないかとキャシーは笑っていた。

 護衛騎士を付けることをこれまで強く求めていたのはキャシーだったらしいので。

 迷惑を掛けた母に対するお詫びの気持ちもあるのだろうと彼女は言っていた。

 私からすれば、そんな殊勝なことをあの男が考えるか? と思うのだけれど、母親が言うのだ。私よりも彼については詳しいだろうと考え直し、余計なことを言うのは止めておいた。

 早速、誰を護衛騎士に付けるか、選考を始めたと言っていたが、あのノア王子の護衛騎士など務まる騎士がいるのだろうか。それだけは疑問だ。


「レティ。店番ご苦労様」


 ぼんやりしていると、薬瓶を抱えた父が倉庫から戻ってきた。薬棚の定められた場所に薬瓶を一本ずつ確認しながら並べていく。

 父がにこにこと笑いながら言った。


「いやあ、本当にまたあの森で薬草が採れるようになって良かったよ。一時はどうなることかと思ったけど、あのSランク冒険者様のお陰だね」

「そうだね」


 その通りなので素直に頷く。

 実は父は、運悪く、魔の森が復活した時に、薬草採取に行っていたのだ。

 森は戻ったはずなのにどうしてと驚き、慌てて帰り、後日もう一度確認に戻ったところ、何事もなく普通の森に戻っていたらしい。

 何かの見間違いかと父は首を傾げていたらしいが、私から魔物が復活していたと聞き、そういうことだったのかと納得していた。

 今度こそ倒したから安心してと言っておいたが、どうやらその後、森に強い魔物が現れることはなくなったらしい。

 薬草も今まで通り採取できると喜んでいたので何よりだと思う。


「そういえば、昨日聞いたんだけどね」

「うん?」


 薬瓶の数を確認していた父が思い出すように言った。


「どうしたの?」

「エルフィンの王子様が近くうちの国へ来るって話だよ。お前も聖女候補なんて大層な役割をいただいているのだろう? もしかしてお会いする機会があるかもしれないね」

「エルフィンの王子?」

「うん。聞いていないのかい?」

「……」


 知らない。

 少なくともテオからは何も聞いていない。

 父は首を傾げ、「デマだったのかな」なんて言っているが、噂というものは馬鹿にできないものがあることを私は知っている。

 城の兵士から話が漏れて……ということも十分にあり得るのだ。


「エルフィンの王子、か」


 長く聖女を戴いていない国の王子が、一体なんの目的でルイスウィークに。

 胸が騒ぐ。

 なんだか波乱が起こりそうな、そんな気がした。




これで第二部は終了です。

また書きためてから、第三部を始めたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に8月10日発売予定!

お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ