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「あなたに会えて嬉しかった。でも、私は昔通った道をもう一度歩く気はないの。我が儘なのは分かってる。でも、許して欲しい」
思いを真っ直ぐに告げると、キャシーは唇を噛みしめ、首を横に振った。
「……我が儘なんて言えるわけないじゃない。わたくしは、いつだってあなたに助けられてばかりだったのに」
「そんなことない。私だってキャシーの存在に助けられていたから」
「……」
「嘘じゃないって。キャシーは唯一の親友だもの。あなたがいなかったらきっと、私はもっとつまらない人生だったと思うもの」
大聖女として生きていた頃を思い出しながらも告げる。
キャシーは複雑そうな顔をしていたが、やがて小さく「ノアが可哀想」と呟いた。
「え……?」
どうしてここでノア王子の名前が出るのか。
「キャシー?」
「だってそれって、婚約者を探しているノアにも何も言わないってことよね? あの子、ずっとあなたのことを待っているのに、可哀想だなって」
「いや、あの……あのね?」
途端、渋い顔をした私を見て、キャシーが弾かれたように笑った。
「うふふっ。そういう顔をするってことは、やっぱりノアと恋仲なんかじゃなかったのね」
「恋仲!? そんなわけないじゃない。というか! そう! その婚約者っての! どうなってるのよ!!」
叩きつけるように言うと、キャシーは「言い出したのはノアよ」と秘密を打ち明けるように言った。
「信じられない! キャシーは私がノア王子を鬱陶しいって思っていたこと知ってたよね!?」
いつも突っかかってくるノア王子のことを私はよく親友に愚痴として零していた。それを告げると、彼女も「そうよねえ」と訳知り顔で頷く。
「わたくしもそう思ったのよ? あのレティがノアと恋仲になるとかあり得ないって。でもノアが『死ぬ前に、生まれ変わったら一緒になると約束をした』なんて言うから。もしかして死ぬ前に絆されたのかしら、なんて。だから婚約も良いかしらって思ったのだけれど」
「絆されてない!! もう、なんで皆、そんな勘違いをするの!?」
テオと全く同じ流れに、クワッと目を見開き訴えた。
「いくら死ぬ直前だろうが、約束なんてしていないわ! 私はただ、そういうことがもしあれば、考えてもいい、と言っただけよ! 断じて、一緒になるなんて言ってない!!」
「ああ、やっぱりノアが嘘を吐いていたのね。あの子、本当に昔からレティのことが好きだから。どうあっても今世では結ばれようって、最初から外堀を埋めに掛かっていたってわけね。我が子ながら、相変わらず手段を選ばないわね」
「こっわ!!」
本人に無許可で、嘘を吐いてまで外堀埋めをするとか怖すぎる。
ドン引きしていると、キャシーが笑いながら言った。
「わたくしとしてもね、生まれ変わったレティが家族になってくれるのなら良いかなと思ったのよ。ほら、家族になれば、二度と離れないですむじゃない」
嬉しげに告げるキャシーだが、その目はちょっと怖かった。
なんだろう。私が死んだことで彼女に深い傷でも残してしまったのだろうか。ちょっとイっちゃっている気がするのだけれど。
「キャ、キャシー?」
「だから、ノアに協力してもいいかしらって少し前までは思っていたのだけれど」
「怖いから止めて。お願いだから。婚約も破棄の方向でお願いします」
「それはわたくしがなんとかできることではないから」
「嘘……」
この際だ。身に覚えのない婚約を破棄して貰おうと思ったのだが、あっさり断られてしまった。
「どうしてもと言うのなら、陛下かノアに言ってね」
「……言えるわけないじゃない」
本人か国王に直接なんて不可能だ。
駄目だ、詰んだ。愕然としながらキャシーを見る。一応、釘を刺しておかなければと思ったのだ。
「……あとね、念のため言っておくけど、絶対に私が私だってことはノア殿下には言わないでよね」
それだけは嫌だとお願いすると、キャシーはキョトンとした顔をした。
「……え、あのノアよ。わたくしだって気づいたくらいなのだから、あなたの正体なんてとうに気づいているのではなくて?」
「だから、怖いこと言わないでよ! バレてないから!!」
必死に否定する。
すでにノア王子に正体が知られているとか、恐ろしすぎて、考えたくもない。
ブンブンと首を横に振ると、キャシーは「ふうん」と何か考えるような仕草をし、私に言った。
「……ねえ、レティ」
「……何?」
嫌な予感がするなと思いながらも話の続きを促す。彼女はにっこりと笑い、私に言った。
「ノアには黙っててあげるわ。あと、あなたの正体がバレていないって言うのなら、バレないよう協力してもいい。その代わり、聖女失格の烙印を押されるまでの間で良いから、これからもわたくしと会ってちょうだい!」
良い案を思いついたとばかりに告げる彼女をじとっと見る。
「……落ち零れ聖女候補が私的に王妃と会うの? 怪しいことこの上ないと思わない?」
ただでさえ、落ち零れとして周りからは敬遠されているのだ。そんな私が定期的に王妃と会うなど知られたら、何と言われるか。
だが、キャシーは強かった。渋る私にあっけらかんと言ったのだ。
「レティには空間転移があるじゃない」
「……」
途端、黙っていたテオから厳しい視線が飛んできた。きっとキャシーの一言から、前世でも空間転移を勝手に使って、あちこち移動していたことを察したのだろう。
もう終わった話なので、できれば追及は勘弁して欲しいところである。
「キャシー、キャシー、あのね……」
テオが怖い顔をしているので、それ以上言わないで欲しい。そう言おうとしたが、先にキャシーが口を開いた。
「そうしてくれたら、わたくし、黙っているわよ? むしろノアにレティを取られたくないから、積極的に守ってあげるわ」
「わーい。よろしくお願いしまーす」
ノア王子の魔の手から守ってくれるという言葉に、我ながら現金だとは思うが思いきり反応してしまった。
いやだって、本当に最近接触機会が多いし、どこから正体バレするかも分からないのだ。
彼の母親が守ってくれるというのなら、これ以上心強いことはない。
「話は決まったわね」
にんまりと笑うキャシーは満足げだ。
自分の望む言葉が引き出せて嬉しいのだろう。私としては条件を呑まされた形ではあったが、キャシーと会い続けられることはやっぱり嬉しかった。
「仕方ないなあ」
「ふふ、またあなたと過ごすことができて嬉しいわ」
「私も。短い間だけど宜しくね」
神殿を追い出されるまでの短期間だけの付き合いだけどと思いながら告げると、キャシーは思わせぶりに笑った。
「――ええ、そうね」
ありがとうございました。
別作品になりますが、ゼロサムオンラインにて『王太子妃になんてなりたくない!! 婚約者編』のコミカライズ連載が始まりました。(毎月第四金曜日更新)
先月まで連載していた『王太子妃になんてなりたくない!!』の続編となります。
それに伴い、漫画家さんが、黒木捺先生から鴨野れな先生に変わっています。
本作品の原作はTL小説ですが、ゼロサムオンライン版は全年齢対象となっていますので、宜しければご覧下さいませ。





