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「魔物、ですか? 相当力の強い魔物なら不可能ではないと思いますが、どうして魔物の話が出てきたんです?」


 まだピンと来ていない様子のふたりに、自分の考えを話す。


「先日、私とノア殿下はビルズバーグの森へ魔物退治に出かけました。森は力の強い魔物の影響で変貌しており、Aクラスの魔物が跋扈する世界になっていた。洞窟の奥には、その森で最も強いと思われるSクラスの魔物がいて、殿下はそれを倒されました。……そうですね?」

「っ! そうだ」


 怪訝な様子で私の話を聞いていたノア王子が「あ」という顔をした。どうやら彼も気がついたようだ。

 テオが「Sクラス!?」と驚愕の声を上げたが、そこが話のポイントではないので無視し、続けた。


「Sクラスの魔物は強い瘴気を撒き散らしていました。その瘴気はとてもきつく、洞窟の外にまで滲み出ていた。あれは、聖職者とか、そんなのは関係なくどんな人間にも見えるレベルのもの。それだけ濃く、毒々しいものだったのです。殿下もご存じでしょうが、瘴気は呪いにも通じます。その殿下の倒された魔物が、死ぬ間際、殿下に呪いを放っていた、もしくは倒したと思ったけれどまだ生きていて、今もなお殿下に呪いをかけ続けている、というのは考えられませんか?」


 私の話を聞いたノア王子が唇を歪める。


「可能性としては十分に在りうる。……なるほど。本来の目的は俺で、母上の方が俺の呪いの余波に当てられたというわけか。逆なんだな?」

「はい」


 ノア王子の言葉に頷く。

 そう、逆なのだ。


「ノア殿下には魔剣の加護があり、呪いを受けても弾くことができます。ですが、王妃様は?」

「無理だな。ガウェインの加護は俺だけにあるものだ。母上に加護はない。呪いが母上に飛んだとしたら、母上は防ぎようがないだろう」

「そんな……」


 私の話を理解したのか、テオが青ざめる。


「魔物の呪いは殿下に向けられたものと推測します。呪いは今も殿下の元にあり、先ほど見たように、今も殿下を食らいつくそうとしているのだと」

「だが、それはガウェインが許さない」


 彼の言葉に同意するように頷いた。今も彼の腰にある魔剣は存在を誇示するようにほのかに光を放っている。


「そうです。今の殿下は、呪われているのに魔剣の加護のお陰で症状が出ていないという状況かと。私やテオが見たのは、殿下になんとか取り憑こうする呪いと、それを魔剣が弾いた場面、と言ったところでしょうか」

「理解した。ガウェインがなければ、俺も今頃、母上と同じようなことになっていたということだな」

「おそらくは」


 ほぼ確実にそうだろう。

 魔物の狙いは、自分を倒したノア王子だった。

 Sクラスの魔物ともなれば、強大な呪いを掛けることができたとしても不思議ではないというか余裕だろう。人の精神を操る、なんて魔物もいると聞いたことだってあるし、人語を操るものだっている。とにかく常識が通用しないのがランクSの魔物なのだ。

 きっと今回の犯人は、あの洞窟の魔物で間違いない。

 だって、キャシーは人に呪われるような女性ではない。

 だけどノア王子に掛けた呪いの余波で倒れているのだとしたらら?

 狙われた理由は、彼の身内だったから。ただ、それだけだったのだ。


「確かにSクラスの魔物ともなれば、人間から呪いを返されたところで、ダメージにもならないでしょう。気にも留めず何度でも呪いを送ることも可能に思えますが……」


 テオが驚愕の表情を浮かべながら言う。その言葉に深く頷きつつも、提言した。


「呪いが今も殿下のもとにあるということは、その魔物はまだ生きているか、もしくは核となるものがどこかに残っていると考えられます。一度、現場に戻って確認した方が良いのではないかと。もし生きているのなら今度こそきちんと倒しきるべきですし、そうでないのなら、死んでも今なお存在している魔物の核を探し、壊す。そうすれば、解いた呪いが復活するなんてことにはなりません。王妃様は無事、回復なさるかと。もちろんこれは私の推測でしかありませんが」

「いや、その可能性は高いだろう」


 ノア王子が目をぎらつかせながら獰猛に唸った。


「……倒したと思ったのだがな、まだ呪いを吐き散らすほどに元気だとは忌々しい。良いだろう。今度こそ倒しきってやる」


 提げた剣に手をやる。


「感謝するぞ、レティシア。手がかりもなく走り回るより、よほどいい。テオドア神官長、俺は今から出るぞ。母上もだが聖女もそろそろ限界だろう。手遅れにならないうちに今度こそあの魔物を――」

「殿下! こちらにおられましたか!」


 ばん、と祈りの間の扉が開く。

 息を乱して入ってきたのは、城に勤める兵士だった。彼はノア王子の近くまで来ると、その足下に跪き、告げた。


「たった今、陛下も倒れられたと報告が……」

「父上が?」

「はい」


 もたらされた一報に思わずテオと顔を見合わせた。

 ノア王子から伸びた呪いは母親だけではなく、ついにその父親にまで向かったのだ。

 国王と王妃が同時に倒れるという事態。

 報告した兵士も動揺しているようだった。

 ノア王子が短く問いかける。


「聖女は」

「陛下が倒れられたということで、陛下の方へ行っていただきました」

「……」


 つまり、キャシーは見捨てられたということだ。

 国に聖女はひとりしかいない。

 国王と王妃では国王が優先されるのが当たり前。

 分かっていたけれど、身につまされた。




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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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