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◇◇◇
「またいつでも来て下さい!」
店の外まで出てきた父に見送られ、神殿に戻る道を歩く。
ノア王子の手には布袋。中には父が見繕った薬瓶が入っている。
父が厳選した薬瓶は五本あり、どれもうちの店ではかなり高価な部類に入る。
最初父は、持ちきれないほどの薬を用意していたのだが、さすがにそれは断った。
最終的に今回の五本に落ち着いたのだけれど、父がどれだけ感謝しているのかがよく分かるラインナップだ。
ノア王子も気持ち良く受け取ってくれたので、私としても嬉しかった。
「ただいま戻りました」
ノア王子と一緒に、神殿に着く。
朝、私たちが出ていったことを知っていた神官見習たちは黙って頭を下げた。
パタパタと足音がする。
音のする方を見ると、カタリーナ様がこちらに走ってきていた。
「レティ! お帰りなさい!」
私を見てホッとした顔をするカタリーナ様。
魔物退治に同行した私を心配してくれていたのだろう。こちらにやって来るカタリーナ様を見たノア王子が面倒そうに言った。
「俺は行くぞ。これ以上疲れるのはごめんだ」
「え、殿下?」
「あの女の相手などしていられるか」
知らん、と言い捨て、ノア王子が神殿を出て行く。あ、と思っていると、こちらに来たカタリーナ様が残念そうに言った。
「殿下、お帰りになってしまったのね」
「ええと、はい。お疲れのご様子でしたので」
「そう、残炎だけど、それなら仕方ないのかしら。それよりレティ、お帰りなさい」
優しい笑みを向けられ、私も笑った。
彼女のこのホッとする笑顔が私は大好きなのだ。
「はい、カタリーナ様。ただいま戻りました」
「魔物退治に同行したんでしょう? 大丈夫だった?」
「はい。殿下にお気遣いいただきましたお陰で何事もなく」
嘘を吐く必要はどこにもないので正直に告げる。
「ただ、残念ながら、聖女の力が目覚める……!なんていう期待していた展開は起こりませんでした」
「そう。それは残念ね。でも、レティが無事に帰ってきてくれたことが何よりよ」
本心から言ってくれているのが分かる言葉に嬉しくなる。
「ありがとうございます。私も何事もなく返ってくることができて良かったと思っています」
笑顔で告げると、カタリーナ様はもじもじと恥ずかしそうにしながら私に聞いてきた。
「あ、あのね、レティ。……その、良かったら聞かせてくれる? 殿下がどのように魔物退治をなさったのか。殿下の勇姿が知りたいの」
「え、はい。それくらいでしたらいくらでも」
王子が戦っていた様子を知りたがるカタリーナ様に頷いた。
洞窟内のことは分からないけれど、森の外や中で戦っていた時のことを語ると、彼女は目を輝かせて聞いていた。
「すごい……私も殿下の戦うお姿を拝見したかったわ……」
「すごかったのは否定しませんけど、魔物はかなりグロテスクな見た目をしていますよ? あまりお勧めはできません」
出てきた魔物たちの姿を思い出し、渋面になる。虫という外見ではなかったから平気だったけど、快いものでなかったのは確かだ。カタリーナ様が興味深げに聞いてきた。
「そんなに言うほど? 私ね、実は魔物って殆ど見たことなくて、想像しかできないんだけど」
「そうなんですね」
「ええ、そういう任務が回ってこないから」
相づちを打ちながらも、私はテオなら、そうするだろうなと思っていた。
魔物が絡む任務は、力を多く使うことが多いから、多分、テオは彼女に回したくないのだ。
それに、魔物系の任務は聖女でなくても代行できるから。
「魔物なんて見ても楽しいものではありませんし、見なくて済むなら見ない方がいいと思います。私、今夜は悪夢を見そうだなって今からうんざりしているくらいですから」
「まあ」
彼らの外見を思い出し、渋面を作りながら言うと、カタリーナ様はコロコロと笑った。
いや、冗談ではないのだけれど、まあ、彼女が楽しそうなのでいいか。
基本、私はカタリーナ様が良ければいいかと思ってしまうのだ。
カタリーナ様に傾倒している? 重々承知の上だから放っておいて欲しい。
「それで、あのね――」
ある程度話し終えたところで、カタリーナ様が窺うように聞いてきた。
首を傾げつつ、返事をする。
「はい、なんでしょう」
「その……レティは今日、ノア殿下の格好良いところたくさん見たわけじゃない」
「……格好良いかは知りませんが、感心するところはあったと思います」
一部訂正しつつも肯定する。
「やっぱり……! そ、その、それで、ノア殿下を好きになったとかそういうのは……?」
「……」
書籍発売一週間が経ちました。
引き続き、元大聖女をどうぞよろしくお願いします。





