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◇◇◇


 任務を達成したことを報告するため、実家に寄る。

 顔を出すと、父は大喜びでノア王子の両手を拝まんばかりに握り、何度もお礼を言っていた。

 あの森で薬草が採れないままでは、営業に影響をきたしてしまう。

 魔物がいなくなったことを父は本当に喜んでいた。


「ありがとう。ありがとうございます。本当に助かりました……!」


 目を潤ませ、ノア王子を見つめる父。それを大袈裟だとは思わない。ノア王子も父の言葉を大人しく受け取っていた。


「何かお礼を……」


 謝礼金は要らないと言われたが、それでも何か渡さなければ気が済まなかったのだろう。

 父がキョロキョロと店内を見回した。それをノア王子が止めさせる。


「別に良い。俺にとってはいつものことだ」

「いいえ! あなたがいなければ、うちは大変なことになっていたんです。何かお礼をさせて下さい。そうだ! よろしければ、うちの薬を持っていってはくれませんか? 実力があるあなたには必要ないかもしれませんが、万が一に備えて」


 良いことを思いついたとばかりに、父が薬棚へと駆け寄る。とっておきの薬をいくつも取り出す父を見て、相当嬉しかったのだなと思った。

 そして、父がなんとかノア王子にお礼をしたいと思っていることも理解した。

 それなら、私がすることはひとつだけ。

 父の気持ちを受け取って貰えるよう、ノア王子に頼むことだ。

 私は父に聞こえないよう、こっそりと言った。


「殿下。申し訳ありませんが、父の薬を貰っては下さいませんか。殿下には必要ないと私も思いますが、父は何か殿下にお礼がしたいのです。その気持ちを汲み取っていただければ嬉しいです。それに、父が用意しているのはうちの自慢の薬ばかり。役に立たないということはないと思います」

「ほう? お前の家、自慢の薬か?」

「はい。効果は保証します。もちろん神官の治癒魔法には遠く及びませんが、それでもうちはこれで何十年もやってきたんです」


 きっぱりと告げる。

 私の言葉に、ノア王子は頷いた。


「分かった。有り難く受け取ろう」

「……良いんですか?」

「当たり前だ。大体、民が好意で渡してくるものを断るような真似はしない」

「……」


 パチパチと目を瞬かせながら、ノア王子を見る。

 彼は穏やかな顔をしていた。気負った様子などどこにもない。本心から言ったと分かる表情だ。


 ――そっか。


 忘れていたけれど、そういえば、彼は昔からそうだった。

 傲岸不遜。尊大という言葉を地で行く第二王子ノア。

 人を煽る天才で、私はいつも彼と小競り合いを繰り返していたし、彼のことを憎たらしいやつと思っていた。それは事実だ。

 だけど全員にそうだったわけではない。

 彼は、いつも民には優しかった。

 国民を守らなければならないものと認識している彼は、戦の折りにはいつだって先頭に立って戦った。そんなノア王子を彼の下で戦う者たちはよく慕ったし、確か、軍での人気は兄王子よりも高かったはずだ。

 民が話し掛けてきた時も、彼はいつも彼らと目線を合わせ、真摯に対応していた。

 無礼は許さなかったけれど、寛大ではあったのだ。

 そういうところは、王子として立派だなと私は思っていたし、それなのに何故私には嫌がらせのように突っかかってくるのかと余計憎たらしく思っていたのだけれど……。


 ――私を見つけた時に、ニヤニヤし始めるのが本当にムカついたんだよね。


 何かイチャモンを付けてやろうという顔をしてやってくる彼を見るたび、イライラが募ったことを思い出す。

 何せ彼は私に対してはいつも攻撃的というかイヤミというか、とにかく苛つく男なのだ。


「……」

「どうした?」


 過去を思い返していると、ノア王子が話し掛けてきた。それに首を横に振る。


「いいえ、なんでもありません」


 本当にどうでもいい、昔の話だ。

 頭の中から過去を振り払う。

 薬棚から薬を取り出す父を見ながら、改めて、私の今はここにあるのだから、と思った。




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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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