表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/83

◇◇◇


「うわ……魔物がうようよしている……」


 辿り着いたビルズバーグの森は、以前見た姿とは全く違っていた。

 いつも明るかった緑の森は、今は陰惨な暗さに覆われており、近寄るのも遠慮したいおどろおどろしい雰囲気に変わっている。

 森の周囲には父が言った通り、魔物が彷徨いており、パッと見た感じでも、一般人が手を出してはいけなさそうな強さだと分かる。

 四本足で歩く魔物は、ライオンと狼が混ざったような形をしていて、かなり大きく、威圧感があった。

 牙は鋭く、噛みつかれたら一巻の終わり。そんな気分にさせられる。

 そういう魔物が、一体だけではなく、何体も彷徨いているのだ。

 普通の人なら、皆、一瞬で回れ右をするだろう。これを見て、何とか隙を見て森に入れないかと考えた父がすごすぎる。

 薬のことになると無茶をしすぎる傾向がある父。無事帰ってきてくれて良かったなと心から思った。


「これ……本当に拙いかもしれませんね。この森、本当はもっと明るくて、安全な感じなんですけど別の

森みたいです」


 物陰に身を潜め、小声で言う。

 同じようにしていたノア王子も、眉を寄せた。


「あれは、ブラックウルフと呼ばれる魔物の一種だ。冒険者ギルドのランクで言えば、Aランクに設定されている。あれが外を彷徨いているとなると、中にはもっと大物が潜んでいる可能性があるぞ」

「え……こんな王都に近い場所なのに?」


 Aランクの魔物とは、それ一匹だけで村を壊滅させることができるレベルだ。

 会えば死は免れない。

 凄腕の冒険者でなければ相対することすら不可能な魔物。

 そんな恐ろしい魔物が何匹もいるというだけでも信じられないのに、森の奥にはもっと強力な魔物がいるかもしれないと聞き、絶句する。

 皆が住む近くにある森にこんな危険な魔物が発生するなんて。

 今までになかった事態に驚いていると、ノア王子が言った。


「これは俺が出てきて正解だったな。下手な冒険者なら返り討ちだぞ」

「……そう、ですね」


 ノア王子の言葉を否定できなかった。

 だってどう考えてもAランク冒険者ですら危うい案件だ。Sランククラスの最高難易度任務で間違いない。

 うちの国のギルドに何人ランクSの冒険者がいるのかは知らないけれど、普通は国にひとりいれば御の字の存在。下手をすれば、依頼はしたものの誰も引き受けられる人がいない……なんてことになっていたやもしれなかった。

 そしてランクSの冒険者への報酬は、それこそ信じられないくらい高額になるので。

 偶然ではあったけど、ノア王子が引き受けてくれて本当に助かったと思った。


「助かります。ありがとうございます」


 現状を鑑みれば,お礼を言うより他はない。小さく頭を下げると、ノア王子は嫌そうに言った。


「急にしおらしくなるな。気持ち悪い。それに別にお前のためにやっていることではない。これは国を守る為。つまりは俺の義務のようなものだから、礼などいらん」


 厳しい顔つきで言う彼は、本気でそう思っているようだった。

 その姿に、目を見張った。

 少し前までは、彼が国王になるとか大丈夫かこの国と思っていたけれど、案外、いい王様になるのかもしれない。

 魔物は、パッと見た感じだけでも十体はいるようだ。

 ブラックウルフの他に、トカゲのような見かけの魔物もいる。

 トカゲはブラックウルフよりも大きく、いっそ大型のワニのように見えた。だけど毒々しい赤色をしている。身体からは炎が噴き出していて見た目はブラックウルフより恐ろしい。


「殿下。あのトカゲは?」


 魔物の種類など詳しくないので尋ねる。ノア王子はトカゲを確認し、嫌そうに言った。


「フレイムリザードだな。毒を含んだ炎の息を吐く。あれもAランクに指定されている魔物だ」

「……うっわ、Aランクばっかりじゃないですか」


 直視するのも遠慮したい見かけのトカゲはやはり難敵だったようだ。


「ああ。だからこそ、早めに片を付けてしまう必要がある。放っておくと魔物は増えるぞ。増えて、王都に侵入されては堪らない。今の内に根絶やしにすべきだ」

「そう、ですね」


 それは確かにその通りだ。

 魔物の群れが侵攻して来た時のことを思い出せば、放置という選択はあり得ない。今ここで、全部片付けておかなければ、アルバ侵攻の二の舞……なんてことも十分にあり得る。

 頷くと、ノア王子が言った。


「まずは今見えている魔物たちを片付ける。そのあと、森の中に入って、巣の探索だな。俺があいつらを倒し終えるまで、お前はそこから動くな。いいな?」

「分かりました」


 鋭く命令され、頷いた。

 私が出て行ったところで役には立てないし、かえって彼の邪魔になるだけと分かっていたからだ。どちらかというと、やっぱり私は来ない方が良かったのではという気持ちの方が強かった。

 いや、森の現状をノア王子の他に確認しておく人がいた方がいいのは分かっているのだけれど。こういう時、彼に護衛とか付き人の騎士なんかがいれば、色々役に立つのではと思うが、言ったところで彼が聞くはずもない。

 私が頷いたのを確認したノア王子が、腰から大剣を引き抜いた。

 魔剣は怪しく輝いており、己が振るわれることに歓喜しているように見える。

 身を隠していた場所から姿を現したノア王子は、魔物たちが彼に気づくよりも先に駆け出した。




ありがとうございました。次回は8/5です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に8月10日発売予定!

お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ