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5


 ノア王子は昨日と似たような格好をしていた。そちらの方が動きやすいからだろう。

 革の防具と、あとはマントを羽織っている。マントは当然ながら式典用の煌びやかなものではなく、実用性だけを考えて作られたものだった。

 だがそのマントからは、かなりの魔力を感じる。防御力に優れた逸品なのだろう。


「やはり、護衛は連れて行かないのですか?」


 ノア王子の他に誰もいないことを確認し、尋ねる。

 昨日の彼の言葉からそうだろうなとは思っていたが、彼は今日も一人だった。


「足手纏いになるだけだと言っただろう。それにあいつらは隠密行動に向かない。何せ目立つからな」

「それは……そう、ですね」


 騎士たちは皆、派手な出で立ちをしている。

 銀色のプレートもそうだし、それこそマントだって冒険者たちが使うものより色も形も目立つ。

 いかにも騎士! という感じの彼らは人前に出るのも仕事のひとつだ。そんな彼らに隠密行動。……うん、無理だな。

 深く納得していると、ノア王子は話は終わりだとばかりに言った。


「神官長から許可は得た。どれくらい魔物がいるのかも分からないからな。早めに出るぞ」

「あ、はい」


 厳しい顔つきになるノア王子。

 やはり魔物退治ということで気持ちを引き締めているのだろう。

 ノア王子が神殿の出口に向かって歩き始める。その後ろをついていくと、「ノア殿下!」と彼を呼び止める声があった。

 華やかな声の主は、彼のことが好きなカタリーナ様だ。

 現聖女であるカタリーナ様は、ノア王子と会えたことが嬉しいという顔をしていた。

 そのカタリーナ様がこちらに駆け寄ってくる。後ろには彼女の付き人であるリアリムがいた。


「殿下! おはようございます。まさかお会いできるなんて思いませんでしたわ。神殿に何かご用でもおありですか?」


 キラキラとした笑顔でノア王子に話し掛けるカタリーナの目に私は映っていないようだ。

 なんとなく一歩下がる。

 邪魔しない方がいいかなと思ったのだ。

 基本的に私は恋する乙女の味方なので。

 その相手が気に食わない王子であろうと、ソレがいいというのなら、邪魔はしない。

 人の好みにケチを付けるつもりはないのだ。

 止めておけ、とは思うけど。

 ノア王子と少し話せばすぐに分かる。彼はカタリーナに微塵も興味を持っていない。

 今代の聖女という認識があるだけなのだ。

 絶望的なまでの片想い。だけどカタリーナ様は諦めない。

 何故なら彼女は自分が、元大聖女レティシアかもしれないという希望を持っているからだ。

 ここに私がいるのに。

 それを言わないと決めたのは私だけれど、こういう時は申し訳なくなる。

 そしてより一層、私が元大聖女レティシアであるとは言えないなと思うのだ。


「どちらに向かわれるのですか? よろしければ一緒に――」

「神殿での用事は終わった。俺は今からレティシアと出掛ける」

「え……」


 パッとカタリーナ様が振り向いた。その綺麗な青い目が丸く見開かれている。


「レティと一緒に……?」


 聞いていない、と彼女が呟く。その声に嫉妬が混じっていることに気づいた私は必死に首を横に振った。

 本意ではないとアピールしたかったのだ。


「レティ……。本当なの?」

「あ、あの……偶然というか……その……」


 父のことを説明しようかと思ったが、そうすると芋づる式に私が神殿を抜け出していることも話す羽目になってしまう。どうすればいいのか悩んでいると、ノア王子が面倒そうに言った。


「腕試しに行くだけだ。それにこいつを連れて行くから、神官長に許可を取ってきた」

「腕試し? え、でも、どうしてレティを?」


 私でも良いじゃないかとカタリーナ様の目は語っていた。目は口ほどにものを言うというが、まさにそんな感じだ。


「レティシアは、まだ聖女としての力が目覚めきっていないだろう。だから、だ。少々危険な目に遭えば、力が覚醒するかもしれないかと思ってな。命の危機に瀕したとき、隠された力が発動する……というのは実際によくある話だ」


 ノア王子が言っていることは事実だ。

 そういう報告例はいくつもある。だけど……え、私、命の危機にさらされるの?

 安全なところから見ているだけで良かったのでは……と思い、カタリーナ様がいる手前、そう言ってくれただけだと気がついた。

 彼は私が、カタリーナ様に秘密の外出を気づかれたくないことを察し、うまく話を捏造してくれたのだ。

 そういう気遣いができる人だとは思わなかったから、少し驚いた。


 ――そういうこと、できるんだ。


 実際、カタリーナ様は「そういうことでしたら……」と矛を収めている。

 ノア王子の強さは皆が知るところだから、多少危険な目に遭ったところで無事は保証されていると信じられるのだろう。

 ノア王子が私を連れて行く理由に納得したらしいカタリーナ様は、先ほどまでとは打って変わって笑顔で私の手を握った。


「頑張ってね、レティシア。ノア殿下が一緒にいて下さるのなら絶対に大丈夫だから。私も、あなたが聖女の力にきちんと目覚めることを祈っているわ」

「……ありがとうございます」

「できれば私も一緒に出掛けたいけど」

「お前には聖女としての役目があるだろう」

「そう、なのですよね」


 ノア王子に指摘され、カタリーナ様は残念そうに頷いた。


「仕方ありませんわね。私もそろそろ祈りの間に行かなくては。では、ノア殿下。失礼致します。レティシアを宜しくお願い致しますね」


 丁寧に頭を下げ、カタリーナ様はリアリムを引き連れ、急ぎ足でこの場を立ち去った。

 彼女たちの姿が見えなくなる。はあ、と重苦しいため息が聞こえた。


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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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