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 己の意思を示すように首を横に振る。私の顔を見たテオが「すみません」と謝った。


「軽率な発言でした。ええと、それで明日のご予定ですが。明日はふたりきりで現場に向かうということですよね。まあ、おふたりなら何があっても大丈夫でしょうけど……」

「テオ、お願い、一緒に来て!」


 情けないと分かっていたが泣きついた。

 約束したから行くつもりではあるが、やはりふたりきりというのは、かなり厳しい。

 できれば事情を知っている誰かに一緒に来てもらいたいというのが本音なのだ。


「テオしか頼める人はいないの!」

「気持ちは分かりますし、実際そうなのだと思いますが、駄目です。僕、明日は重要な会議があるので」

「嘘でしょ。会議よりも私が下?」

「殿下がいらっしゃるので安心ですから」

「どこが安心? ねえ、私のこと放っておくの? ほら、聖女法にもあるじゃない。聖女候補も常に付き人をつけろってやつ。明日、ついてこないと、私はひとりになるんだけど! それは神官長としてどう? 見過ごせないんじゃない?」


 ここぞとばかりに聖女法を持ち出した。途端、じとりと睨まれる。


「たった今、おひとりでご実家から帰ってきた方が、一体何をおっしゃっているのでしょうね」

「う」


 これまた言葉の刃がグサグサと突き刺さる。

 呻く私をじとりと見たテオが、更に言った。


「それに、聖女法によれば、確かに聖女候補は付き人を常に付けるようにと書かれてはいますが、王族が側にいるのならその限りではないとも同時に記載されています。ノア殿下は第一王子。何も問題ありませんね」

「あ、ああああああ……!」


 あっさりと返され、絶望した。

 テオの言う通り、確かに聖女法にはそんな記載があるのだ。ただ、それは但し書きのような書き方で、かなり小さく、読み飛ばしてしまう人も多いもの。

 だからこそ、いけると踏んだのだけれど。


「嘘でしょ。なんでそんなところまで覚えているの」

「残念ですが、これでも僕は神官長ですので。但し書きだろうが、注釈だろうが、聖女法も聖典も一字一句間違えず覚えていますよ」


 当たり前のように返された言葉に項垂れる。

 確かに神官長に読み飛ばしを期待する方が馬鹿だったと思う。誰よりも聖女法に詳しいのが神官長。そうでなくてはおかしい。


「うぐぐ……」

「はい、そういうことですので、明日はおふたりでどうぞ」

「うわああああん! 嫌だアアア!」

「はいはい、自業自得だと思って頑張って下さい。応援くらいはしてあげますから」

「会議をしながら!?」

「はい、会議をしながら」

「それ、絶対に片手間じゃない!」


 テオの私に対する扱いがどんどん適当になっていく気がするのだけれど気のせいだろうか。

 いや、でも、前世でも似たような感じだったかもしれない。

 テオにはわりと塩なところがあって、いつも私は地団駄を踏んでいたような気がする。

 昔と同じような関係性は悪くないけれど、今だけは優しく「ついていきますよ」と行って欲しかった。テオに期待するだけ無駄だけど。


「あ、明日が憂鬱だ……」

「頑張って下さいね」


 テオが連れない。

 どうやら明日は本当にふたりきりで現場に出向かなければならないと知った私は、地面に手をつき、がっくりと項垂れた。


◇◇◇


 どれだけ気が進まなくても、朝は必ずやってくる。

 私はため息を吐きながらも、準備をして部屋を出た。

 ノア王子は、『明日迎えに行く』と言っていた。

 それが何時なのかは言ってはいなかったが、行き帰りや、魔物退治にかかる時間を考えると、多分午前の内に出発するのだろう思う。

 それなら、神殿の入り口で彼が来るのを待っていようかと考えたのだ。

 できるだけ目立ちたくなかった。そういう気持ちももちろんある。

 呼び出しなんてされた日には、ものすごく悪目立ちするのは確実と分かっていた。


「はあ……気が重い」


 父のためには早く解決した方が良いのだけれど、気持ちは正直だ。

 あのノア王子とふたりきりでと思うと、億劫さが勝ってしまう。


「あの人、何時にくるのかな」


 今は朝食を済ませた直後。

 午前中だと推測はしているが、もし来るのが昼前だと、結構な時間を待つことになってしまう。


「うーん」

「早いな、レティシア。やる気は十分と言ったところか。良い心がけだ」

「うひゃっ!?」


 後ろから声を掛けられ、飛び上がった。

 慌てて振り返る。まさかの背後に待ち人であるノア王子が立っていた。

 入り口の方向から来ると思っていたので、全く気に留めていなかった。


「び、吃驚しました。何故こちらから?」


 驚き過ぎてバクバクする心臓を宥めながらノア王子に聞く。彼は後ろを振り返りながら言った。


「お前を借りていくのだから、神官長にも話を通した方がいいと思ってな。先にそちらに行っていた」

「そ、そうですか……」


 当たり前と言えば当たり前だった。

 候補だろうと、私は聖女であり、神殿の管轄下にある。それを王族といえど、勝手に連れ出すなど許されないのだ。

 その辺りをノア王子は分かっているので、先に話を通したということなのだろう。

 私がテオに話すのとは、また別の話なのだ。

 そういう行動を取る、というのが大事なのである。




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書籍版、電子版とも8/10発売です。更新もこれまで通り続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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