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宴の席で


「結構降ってるわね」


 役目を果たしたのでのんびりとした気持ちで窓から外を眺める。

 強くなった雨は止むことなく、降り続いていた。

 暗い空から落ちる大量の雨粒は決して心地良いものではないはずだが、雨を待ち望んでいた人たちにとっては違う。

 恵みの雨が降ったと大喜びしている使用人たちの声が聞こえていた。


「やりすぎちゃったかしら」

「いえ、二ヶ月降っていないんですから、これくらいでちょうどいいですよ。あ、レティシア様、聖女様たちがお帰りになられたようです」

「……本当だわ」


 窓から外を覗くと、ちょうど馬車が車止めに停まったところだった。

 皆が笑顔でカタリーナ様を迎えている。馬車から降りてきた彼女は安堵の笑みを浮かべていた。


「良かった。お元気そうだわ」


 皆に感謝されているカタリーナ様を窓越しに眺める。

 彼女が無事、戻って来たことが嬉しかった。

 その姿を見られただけで、自分の決断は間違いではなかったと思える。


「テオ、カタリーナ様を迎えに行こう?」

「え? 体調不良はどうなさるのですか?」

「そんなの、寝ていたら治ったとでも言えばいいじゃない。別に熱があるとか、そういう話ではなかったわけだし」

「まあ、確かにそうですけど……分かりました」


 少し悩んでいたようだが、結局テオは頷いた。きっと彼もカタリーナ様の顔を直接見たいと思っているのだろう。

 元気で帰ってきたようだが、直接顔を見ないと、本当の意味で安心できない。

 ふたりで部屋を出て、階段を下りる。私に与えられたのは二階にある部屋だったのだ。大きな中央階段を下りていくと、外神官のハデスと話している笑顔のカタリーナ様を見つけた。

 彼女は私に気づくと、パッと明るい顔をする。


「レティ!」

「カタリーナ様、お帰りなさいませ。無事、お役目を果たされたこと、心よりお祝い申し上げます」


 階段を下りきった場所で挨拶をする。彼女は嬉しげに駆け寄ってきた。


「ありがとう。無事に終わったわ。レティこそ体調は大丈夫なの?」

「はい。どうやら睡眠不足だったようです。聖遠なんて初めてで緊張していましたので、それでなかなか眠れなくて。寝たら治りました」

「まあ」


 ぱちぱちと目を瞬かせ、カタリーナ様は頷いた。


「そうね。レティは初めての聖遠だもの。緊張するのも仕方ないわ。それでね、聞いて! 私、生命力を削ることなく……ううん、殆ど力を削ることなくお勤めを果たすことができたのよ!」

「それはおめでとうございます。きっと昨日は調子が悪かったんですよ」

「そうかしら。でも、レティが言うのならそうかもしれないわね。本当にこんなこと初めてだったの。あんなに大きな奇跡を行ったのに、全然力が減っていないんだもの」


 はしゃいだように言うカタリーナ様に、申し訳ない気持ちになった。

 彼女は自分の力で奇跡を成し遂げたと信じている。

 それが、なんだか酷く申し訳ないことをしたような気持ちになってしまった。

 私が助けたことは、彼女にとって本当に良かったのか、そんなことを考えてしまう。


 ――いや、考えても意味はない。私が、そうしたかっただけなんだから。


 カタリーナ様のため、なんてとんでもない。全ては私が自己満足でやったこと。

 この責任をいつか取らなければならない日が来た時は、黙ってそれを受け入れる。それしか私にできることはないのだ。


「今夜は宴を催します。是非、皆様ご出席下さい」


 この館の主人であるアイングランド侯爵が笑顔で言う。彼も一緒に行っていたのだろう。

 侯爵は酷く満足そうだった。


「いやいや、まるで前聖女様のような見事な奇跡。素晴らしかったですぞ。カタリーナ様がいらっしゃれば、この国は安泰だと感服致しました」

「そんな……私はできることをしたまでです」

「そう言えることが素晴らしい。さあさあ、今夜の宴はもちろんご出席下さるのでしょうな?」

「ええ、そうさせていただきます」

「よかった! それではまた後ほど!」


 がははと大声で笑いながら侯爵が去って行く。

 リアリムが私に遅れてやってきたテオに、興奮気味に報告していた。


「神官長様! 聖女様は本当にすごくて……あんな奇跡初めて見ました!」

「そうですか。さすがは聖女様です」

「神官長様もあの場にいらっしゃれば良かったのに!」

「僕はレティシア様の看病をしていましたから。ですが、聖女様が聖遠を成功なさったことは喜ばしいことです」

「ええ! とても誇らしかったです!」


 目をキラキラと輝かせながら言うリアリム。外神官もリアリムと同意見のようで、彼の隣でうんうんと何度も頷いていた。

 先ほどの奇跡は、かなりの気持ちの変化を彼らにもたらしていたようだ。

 カタリーナ様のためには良かったと思うけれど、こっそり手伝いをした身としてはなんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。

 だがそんな気持ちも、カタリーナ様のはしゃいだ声で吹き飛んだ。


「宴までまだ時間はあるでしょう? 良かったら話を聞いて」

「もちろん、喜んで」


 カタリーナ様が喜んでいるのならいいや。

 今後何か起こったら、その時また考えよう。

 基本私はノリと勢いで生きているのだ。


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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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