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◇◇◇


 屋敷内で軽く休息を取らせてもらったあと、外神官の案内で、馬車で現地に向かった。

 奇跡を行うなら、対象の場所に近づけば近づくほどいい。そう言われているからだ。

 実際、現地に行った方が、消費する力は少なくて済む。

 あとは以前私がしたように神殿で力を行使するのも手だが、今回みたいに場所が離れているのなら、現地に行った方が確実なのだ。

 少しでも聖女の負担を減らすように。

 100いる力が、50で済むのなら、現地へ向かう意味は十分過ぎるほどある。

 そういうことなのだ。


「つきましたよ」


 一時間ほど経った頃、馬車が停まった。カタリーナ様と一緒に馬車を降りる。

 そこは穀物地帯を見渡せる丘の上だった。


「……酷い」


 思わず声が出た。

 私たちが見たのは干上がった土地。長く雨が降っていないせいか、土地は割れ、そこに生えている小麦の茎は細く、今にも折れてしまいそうな有様だった。

 茶色い大地が寂寥感を誘う。このままでは碌に収穫ができず、小麦の価格が上がってしまうと心配する気持ちがよく分かった。

 聖遠を要請されるわけだし、これはさすがに放置できない。

 聖女の力が及ばないかもという不安があっても派遣すると言わざるを得ない状況だった。

 カタリーナ様も私と同じ考えのようで、顔色を変え、枯れた大地を見つめている。

 その目は覚悟を決めたようで、なんとしても役目を果たさなければと思っているのが伝わってくる。


「聖女様……その、いかがでしょうか。奇跡は行っていただけるのでしょうか」


 ハデスが後ろから声を掛ける。カタリーナ様は頷いた。


「もちろんです。これを助けなくて、何が聖女でしょう」

「っ! ありがとうございます!」


 助かったと言わんばかりのハデスに、カタリーナ様はもう一度頷き、次に私を見た。


「レティ」

「はい、カタリーナ様」

「今からここで、奇跡を行います。あなたも聖女になった暁にはしなければならないことだから、よく見ていてね」

「はい」


 返事をすると、彼女は私たちに少し離れるように言った。

 その通りにする。私の隣にはテオがいたが、彼も私も何も言わなかった。

 成功するのかどうか。ふたりともそれが一番心配だったのだが、今口にするのは違うと分かっている。


「我が神、アイラート神よ――」


 崖の上に膝をつき、カタリーナ様が詠唱を始める。

 それを私たちはハラハラした気持ちで見守った。

 私が見た感じ、この大地に継続的な雨を降らせるには120ほどの力がいる。だが、彼女にそれができるのだろうか。

 カタリーナ様の力の最大値は100くらいで、20足りないというのが私の見立てなのだけれど。

 いや、テオも言っていたではないか。

 カタリーナ様は力の底上げをするべく頑張っていたと。20程度なら増加している可能性は十分にあるし、それなら寿命を削ることなく力を使うことができる。


「私はあなたの忠実なる僕。あなたの言葉を民に届ける預言者なり。

偉大なるあなた。どうかこの祈りを聞き届けたまえ。

あなたの忠実なる僕、カタリーナの言葉に耳を傾けたまえ」


 一拍置き、カタリーナ様はすうと息を吸った。そうして告げる。


「どうかこの地に……っあ」

「カタリーナ様!」


 何の前触れもなく、カタリーナ様が前に倒れた。慌てて駆け寄る。

 テオやリアリム、ハデスも血相を変えてやってきた。


「聖女様! 大丈夫ですか、聖女様!」


 倒れたカタリーナ様をリアリムが介抱する。カタリーナ様はぐったりとして、顔色が酷く悪かった。


「カタリーナ様? カタリーナ様?」

「……う……」


 何度か声を掛けると、彼女は身じろぎし、苦しそうに呻きながら目を開けた。

 そうしてハッとしたように私たちに尋ねる。


「あ、雨は? 雨は降りましたか?」

「え……いえ……まだ、ですが」


 彼女の言葉には、ハデスが答えた。それを聞いたカタリーナ様が泣きそうな顔をする。


「……やっぱり」

「え?」

「何でもないんです。その……今日は私体調が悪いみたいで……明日、もう一度やり直させてもらっても構いませんか?」


 どこか必死の様子でハデスに言うカタリーナ様。そんな彼女を見て怪訝な顔をしつつも、ハデスは頷いた。


「え、ええ。それは構いませんが。……本当に大丈夫ですか。顔色が酷いですが」

「大丈夫です。本当に……レティ。悪いけど、馬車まで手を貸してくれるかしら」

「は、はい」


 ハデスの助けを断り、カタリーナ様が私を呼ぶ。それに返事をし、彼女に肩を貸すと、カタリーナ様はふらつきながらも立ち上がった。馬車へとゆっくり歩いて行く。


「――やっぱり、私では無理なのね」


 馬車に乗り込む直前、聞こえてしまった声に私はたまらず目を瞑った。




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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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