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◇◇◇


「ねえ、テオ。大丈夫なの?」


 カタリーナ様と別れ、自室に戻ってきた。付き人であるテオもついてきたので、部屋に入ったタイミングで声を掛ける。

 それだけで察したのだろう。テオは部屋の扉を閉め、困ったように言った。


「正直、難しいと思います」

「やっぱり」


 思った通りの答えが返ってきて、舌打ちをしたくなる。

 今のカタリーナ様の力に、ビドウ州の仕事は合っていないのだ。下手をすると力が足りず、寿命を削る羽目になる。


「どうして止めさせなかったの。聖女の力に見合った仕事を割り振るのが神官の仕事でしょう?」


 カタリーナ様の力がそう強くないことはテオたちだって知っている。それなのに、明らかに彼女の力をオーバーした仕事を割り振るのが信じられなかった。


「……仕方なかったんですよ」


 苦渋に満ちた声でテオが言う。出したため息は酷く重かった。


「ビドウ州の雨不足はかなり深刻で、あちらに派遣された内神官からはこれまでに五度も派遣要請を受けています。その度に断っては来たのですけど、本当に雨が降らなくて。このままでは穀物は全滅。民からも、聖女様に来ていただきたい、どうして来て下さらないのだとかなりの不満が溜まっている状態なのです。それで今回改めて王家の方から命令があって……」

「……そう」


 それは確かに断れない。


「でもじゃあ……カタリーナ様は寿命を使って奇跡を起こさなければいけないってこと?」


 テオに尋ねると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしつつも言った。


「聖女様のお力が足りなければ……そうなります。でも聖女様も自身のお力の底上げをしようと日々努力していらっしゃいますから。もしかしたらギリギリ力が足りるかもしれません」

「……そっか」


 返す言葉が重くなる。

 寿命が削られる感覚を知っているだけに、彼女にそんな目には遭って欲しくなかった。


◇◇◇


 出発の日。

 私は約束の時間の少し前に神殿の外へ向かった。

 神殿の前には聖女専用の馬車が準備されている。これに乗っていくのだ。

 すでに馬車のところにはカタリーナ様がいて、笑顔で誰かと話している。それが誰なのか気づき、自然と苦い顔になった。


 ――げ、どうしてノア王子がここにいるわけ?


 カタリーナ様と話していたのは最近では姿を見ていなかったノア王子だった。

 視線に気づいたのか、彼がこちらを向く。その顔がにやりと楽しげに歪んだ。


「聞いたぞ。お前も此度の聖遠に同行するそうだな」

「……はい。殿下はカタリーナ様のお見送りですか?」


 舌打ちしたい気持ちを堪え、礼儀正しく答える。

 国のために働く聖女を王族が見送りをすることはよくある。

 王族は常に聖女に感謝を忘れず、丁重に接することが義務づけられているのだ。

 私が聖女だった時も、ノア王子がやたらと見送りに来ていたことを思い出す。


「ああ。今回は俺も同行しようと思ってな」

「はあ?」


 思わず声を上げてしまった。

 王子が聖遠に同行? 一体、どういう風の吹き回しだ。

 神官見習いたちに指示を出していたテオを見つけ、説明しろという視線を向ける。私の殺気立った視線に気づいた彼はブンブンと首を横に振った。

 どうやら彼も知らなかったようだ。

 カタリーナ様が華やいだ声で言う。


「ちょうど殿下もビドウ州へ視察に向かう用事があるのですって! それで、良ければ私たちと同行したいって仰って下さったの」

「お前たちと行けば、俺の分まで新たに隊列を組む必要もなくなるだろう。目的地が同じなら一緒に行けば良いと思っただけだ」

「はい。とても素晴らしいお考えだと思いますわ!」


 無駄がないと言われれば確かにその通り。しかも聖女であるカタリーナ様が喜んでいるのなら、同行は決まったようなものだった。


 ――ええ? ノア王子と一緒に行くの? 嘘でしょ。


 身バレを防ぐためにもできるだけ彼とは距離を置きたいのだ。それなのに一緒に出掛けるとか勘弁して欲しい。

 しかし現実は無情。私はしがない落ち零れの聖女候補でしかなくて、彼にどうこう言えるような立場ではない。

 断って欲しいという私の願いも虚しく、ノア王子の同行を許す羽目になってしまった。




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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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