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「今の聖女であるカタリーナ様には『テオは厳しい』と煙たがれていますけどね。彼女はあなたほど力が強くない。簡単に生命力を使うような状況が来るんです。だからせめて力の最大量を増やさせようと修業をさせるんですけど……まあ、あまり上手くいっていなくて」

「そっか……」


 決められている力の最大量を増やすというのは並大抵の努力ではできない。

 テオは厳しいところがあるから、彼女もきっと苦労しているのだろう。

 でも、なんとか聖女のためと頑張っているテオの話を聞くのは楽しかった。


「レティシア様」

「? 何」

「改めてお願いします。僕に協力させて下さい。僕は今度こそ、あなたが望む生を生きて欲しいんです。あなたが聖女になりたくない。一国民として終わりたいというのなら、僕にできる限りで協力します」

「テオ」


 キッパリと告げたテオの顔に迷いはなかった。だからこそ、彼が本気で言ってくれているのだと分かってしまう。


「あなたは、前世で十分過ぎるほど国に尽くしてくれた。それこそ言葉通り命を張って。いくら今世のあなたが前世よりも強い力を持っていたとしても、関係ない。二度も国に尽くせとは、僕は言いたくないんです。しかもあなたは聖女になることを望んでいないんでしょう?」

「……うん」

「だから協力させて下さい」


 彼の言葉が嬉しかった。

 そして神官長であるテオが味方になってくれたことをとても心強く感じた。


「ありがとう」

「いえ、これは僕自身のためでもありますから。……で? 話は戻りますが、先ほどはどちらへ行っていたのですか? わざわざ空間転移までして」

「ええと、家に帰ってたの。ほら、お父さんたち、何も知らないから。私が帰ってくると思って待っていたとしたら申し訳ないって思ったし」

「なるほど、確かにあなたのご家族に改めての連絡はしていませんでしたね」


 納得という表情をしたテオを睨む。


「神殿のそういうところ、本当どうにかした方がいいと思う」

「善処します」


 これは特になにもしないやつだなと気づき、苦笑した。

 神殿とか城とか、こういうところは本当に動きが遅くて困る。

 彼は肩を竦め、思い出したように言った。


「ああそういえば、ノア殿下のことはどうなさるのです? 殿下は、あなたと結婚の約束をしたとおっしゃっておられましたが――」

「それ!!」


 テオが言い出したことに、秒で反応した。

 そう、まさに私はそのことについても彼に相談したかったのだ。


「私、結婚の約束なんてしていないから!」

「え、でも、殿下は……」

「確かにプロポーズはされた。でも私、考えるとしか返事はしてない。愛し合っていたとか、もう何もかもが大嘘なんだから!」


 ここぞとばかりに私は、ノア王子のでまかせをテオに語った。

 私は彼と婚約などした覚えがないこと。当然、愛し合ってなんていなかったことを切々と語る。

 話を聞いたテオは納得したように頷いた。


「はあ……どうりで。おかしいと思ったんですよ。確かにノア殿下があなたを好きなことは皆、知っていましたけどね、どう見てもあなたの方はそうではなかったですし。むしろ蛇蝎の如く嫌っていませんでしたか?」

「そうそう! だって、あの王子、常に私に喧嘩売ってくるから……って、テオも殿下が私を好きなことを知ってたの?」

「はい、有名な話でしたから」

「……嘘でしょ」


 がーんとショックを受ける私に、テオが気の毒そうな顔をしながら言う。


「知らないのはレティシア様だけでしたよ。あの方、あなたに自分以外の男が近づかないよう、かなり根回ししていらっしゃいましたからね。大聖女の任が終わったあとは、問答無用で結婚する流れに持ち込まれていたと思います」

「え……私、退任したあとは旅をしたり、きままな暮らしをしたりしようって思ってたんだけど」

「無理だったと思いますよ。元々王族関係者と神殿関係者は、退任後もあなたをこの国に引き留めようと考えていましたし。王族と結婚してくれるのなら万々歳だと、皆、殿下に協力的でした」

「……」


 ぽかんと口を開ける。

 初めて聞かされた事実に、呆然とした。


 ――え、私、あのまま生きていても、ノア王子の嫁にされてたの?


 何も言えなくなった私に、テオが更に言う。


「そういう前提を皆、知っていましたので、生まれ変わった殿下の話を信じたのです。対外的には睨み合っていたけど、実は愛し合っていた。転生したあとの約束は取り付けてあるから彼女と結婚する、と言われれば、まあ信じますよね。少なくとも殿下の方の気持ちは皆、知っていたわけですし。死ぬ前に約束したなんて言われれば、僕も、死ぬ前だから絆されたのかなって普通に納得しました」

「絆されてなんてないから! 考えるとしか言ってないから!」


 実は絆されかかっていた自覚はあったのだが、言質を取られるような約束は断じてしていない。ギリギリ回避していたはずだ。

 力を込めて無実を主張すると、テオは「なるほど。知らないうちに外堀を固めておこうという、殿下のいつもの作戦ですね」と頷いた。

 なんだ、いつもの作戦って。

 あの人、私の知らないところで何をしているの。怖すぎるんだけど。



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お尋ねの元大聖女は私ですが、名乗り出るつもりはありません
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