無人島の勇者
「う……あれ?」
目が覚めると目の前には川が流れていた、周囲には生い茂ったジャングル、蒸し暑い空気が僕の肌にまとわりついてくる。
「記憶が……そういえば確か俺は飛行機で」
最後に覚えているのは飛行機事故の記憶、エンジンから火が出て確か不時着するとかなんとか。
「もしかして俺は……死んだのか?」
ジャングルの風景、幻想的なそれは単なる南米の景色ではない。もしや飛行機事故の際に魂が異世界に流れ着いたのかもしれない。
「いやそんなことは……まあいい、とりあえず人を探そう」
こうして彼はあてもなくジャングルを彷徨い続けた。
……一時間後
「疲れてきた、食料も無い……」
日頃運動を怠っていた彼は、ジャングルの環境に適応できなかった。蓄積した疲労で足を滑らせ、そのまま地面に突っ伏してしまう。
「くそう……俺はここまでなのか……」
絶望し気力がなくなる彼だったが、ふと彼の鼻腔は肉汁のようなにおいをかいだ。ステーキか?と一瞬思うものの、こんな場所にないと思い、でも一縷の希望を捨てきれずに辺りを探す。
「あった!」
そこにあったのはキノコの群生、地味な外見のキノコだったが肉汁のようなにおいを漂わせていて旨そうだった。
「知らない茸だ、でも……背に腹は代えられない!」
彼は意を決してキノコを口に入れる、口いっぱいの広がったのは匂いとは似ても似つかない苦みのある味だったが、彼は何とか食べた。
「はあ……はあ……くそ!こんなところで死んでたまるか!」
群生地のキノコを食べていく主人公、不味い、滅茶苦茶不味いが今の彼は一種の興奮状態、遭難したという経験もあって脳内物質が全身に回っていた。
「なめるな!いつか必ず!」
決意を固めた主人公だが、辺りはもう夜になっていた。そのため、彼は木の洞を寝床にして朝日を待つことにする。眠る主人公、しかし彼の脳内では今後の不安などが渦巻き、眠りが浅かった。それが功を奏したのだろう。何故なら彼はその夜行性のヒョウのような動物が近づくのに気づけたのだから。
(はっ!なんだこいつ!?)
闇の中に見える双眸、鋭い目つき、間違いなくネコ科の大型猛獣のような危険な生物、しかし彼は工夫をこらす、このまま見守っていても埒が明かない。舐めるなよ、人間を!と。
近くにあった石をふりかぶり投げつける、運が良かったのだろう、ヒョウの頭蓋骨にクリーンヒットしたため、ヒョウは脳震盪を起こす。
「うおおおおおおおお!!」
そこをすかさず、石で殴りつける主人公、執拗に何度も何度も繰り返し、何とかもう生きていないだろうというほどにヒョウの頭を壊すことができた。
「ははっ!やったああ!」
(魔物の討伐を確認、レベルが一から二に上がりました)
「なんだこの声は?」
(まるでステータスを言っているような、そういえばここ異世界だったな、ならばあの呪文が効果を発揮するかもしれない)
「ステータスオープン!」
すると彼の脳内にステータスが浮かぶ、今はレベル1でまともなステータスではないがこのまま上げていけば徐々に強力な存在になれるだろう。
「いよいよゲームらしくなってきたな、いいだろうやってやるよ!」
この日から彼の冒険が始まった。
……三日目
運よく水源を見つけた彼は、そこを拠点に活動をし始める。不味いキノコ、何とか食える雑草のようなもの、そしてヒョウの魔物の肉を糧に活動を始めた。
……七日目
キノコが旨く感じるようになる、徐々にこの世界に適応してきた証拠だろう。魔物に襲われた被害者の所持品を発見、中に魔法の杖があった、どうやら俺にも使えそうだ大切にしておこう。
……十五日目
巨大なゴリラのような魔物を発見、何とか撃退する。やはり魔法は強力だ。しかし魔力が少なくなってきた、そろそろ魔法の充電をしなければ。
……一か月目
暗黒の民の居住地を発見、ちなみに暗黒の民の名前は俺がつけた。とりあえず隠れて暗黒の民を撃ち殺し、そこを奪う。彼らの持ち物は様々だった。より強くなれそうだ。
……三か月後
キノコがとても美味しい、最近料理も始めてみた。暗黒の民はおいしかった。
……一年後
髭も伸びてきた、そろそろ切らねばと思うものの、剃刀がないため実行に移せない。
……一年と半年
暗黒の民のコロニーが崇めてきた、どうやら強力な力を持つ俺を神と崇めているらしい。とりあえず女がほしかったので、頼んだら本当に来た。友好関係を築こう。
……三年後
……十年後
……二十年後
彼は死んだ、末期の彼はまるで老人のように白髪で皺があった。しかしそれで20年も生きてこれたのは奇跡のようだった。何故なら彼が食べていたのはただのキノコではなく、中毒性の高い快楽物質を持つ毒キノコだったからだ……
幻覚に取り憑かれた彼の表情は笑顔のまま固まっていた。