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根城-④



   *    *    *



 シェパーズが用意してくれたシャツとトラウザーズに着替えて、俺は鏡の前に立った。

 サイズが若干大きかったため、ついでにサスペンダーも借りておくことにしたが、慣れていないせいか、つけるのにかなり手間取ってしまい、案の定シェパーズにその様を笑われることになった。


「まだやってんのかよ」

「うるさいな、もう着替え終わったよ」

「ま、悪くはねーな。ついでだからポマードでもつけとくか?」


 ニヤニヤとどこからか取り出したポマードの瓶を見せつけながら、シェパーズがからかう。

 ヘアワックスならともかく、ポマードはやばいだろう。

 俺は首を振って否定する。シェパーズは「なんだよ」とつまらなさそうだった。


「お前、名前は?」


 シェパーズが言う。俺は自分の名を教えてやった。


「言いにくい名前だな……悪いけどここじゃあ親につけられた名前なんて何の意味も持たねえからな。呼びやすいようにコーマって呼ぶことにするぜ、いいな?」

「なんでコーマ?」

「お前、所有者(ドナー)だろ? つまり元の世界の身体はいま意識がないわけだ。そういう昏睡状態のことを”コーマ(Coma)"っていうんだよ。お前にピッタリだ」

「ちょっと待て。元の世界に身体がある? それってどういう……」


 俺が問い詰めようとした瞬間、部屋の外でウォルスリーの大きな声がした。


「シェパーズ! 仕事だ! 城門正面より敵襲!」


 先ほどまでのおっとりとしたウォルスリーとは違い、なんだかビリビリとして切迫感のある声だった。

 敵襲? と俺はシェパーズに尋ねる。


「このタイミングで来たか。まあ、お前がここに居るっていうのがヒースローにばれたんだろうな」

「ヒースロー? 誰?」

「お前みたいな所有者(ドナー)の臓器を狙ってる連中だよ」


 シェパーズはそう言うと、首をポキポキと慣らしながら部屋を出て行こうとする。


「お前はここで待ってろ」

「待ってよ! 君が戦うの?」

「当たり前だろ。悪いが間違っても加勢しようだなんて思うなよ。相手はお前の臓器を狙う荒くれだ。何の力もないお前に出てこられても迷惑なだけだからな」


 そう言い残し、シェパーズはドアを勢いよく閉めて出て行ってしまった。

 この世界のことが何もわからない俺はただ呆然とするしかない。

 部屋にある窓から外を見てみた。

 雨が勢いを増しているが、跳ね橋の向こうに何百という炎の光がゆらめいているのがかすかにみえた。

 あれが敵なのだろうか?


 シェパーズは敵の狙いは"俺"だと言った。

 俺の臓器を敵が狙っている? 一体どういうことなんだろう。

 誰か落ち着いて説明をしてほしい。俺はどうにもやりきれない気持ちを抱え、シェパーズが使っているであろうベッドに座って頭を抱えた。


 ここは一体どこなんだ?

 俺はなぜここに居るんだろう?


 妹のいる病室に戻りたい。

 元の世界に。

 そう強く願って仕方ない。


 そう思った時だった。

 うつむいている俺の視界の隅に、誰かの靴が見えた気がした。


「シェパーズ?」


 顔を上げた俺の目の前にいた男。

 シェパーズではなかった。

 男の着ているコートはびっしょりと雨で濡れていて、俺の顔を見るなりにっこりと笑って「やぁ」と言った。


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