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L_I_M_B_O-②

   


  *    *    *



 最後の臓器を無事に移植し終えた私は、手術室から出てすぐにあるベンチで息を吐いた。

 15時間は経っただろうか。

 患者の容体は安定しているようでありがたい。


 妹のために自ら命を絶った兄。

 成功させなければならないという自負があった。

 なぜなら、その臓器を使って手術をしてダメでしたなんて、笑い話にもならない。


 臓器移植は身内同士のほうが拒絶反応が出ないのでありがたい。

 世界中探したって、あの少年以上のドナーは見つからないだろう。


 惜しむべきは、その方法か。

 

 私は病院の蛍光灯を見上げながら、なぜ兄の少年が自殺という方法を選んだのかと、考えを巡らせる。


 実際のところ、彼は即死ではなかった。

 しかし死が非常に近いところまで迫っており、それは誰の目にも明らかだった。

 助かる見込みなど、ほぼないに等しかった。


 それから、あの遺書。


 病院の屋上から誰かが書き殴った一冊のノートが見つかった。

 勿論、あの少年が遺したノートだ。

 どうやらそこに、彼が自害するに至った動機や理由なんかがざっくりと書かれていたそうだ。

 ……うちの看護師が見つけたらしい。


「……捨てる神あれば拾う神あり」


 ふいに、そんな(ことわざ)を思い出す。


 私はこれから始まるであろう少年の葬儀のことを思い、ただ一人、静かに黙祷した。

 ああどうか、神様ってやつがいるのならば。

 少年をあの世で幸せにしてやってください。


 そして願わくば、手術は成功したと伝えてほしい。


 私はそのまま、眠りに落ちそうになる。

 そのまどろみの中で、蛍光灯の光がぼんやりと滲んでゆくのをみていた。


 ……ああそういや、あの子は天国とやらに行けるんだろうか。

 ……自ら命を絶った人間が行く場所は、地獄だったっけ?

 ……それでもあの子は妹の命を救った。それなら、彼は善い行いをしたことになる。

 ……彼はいったい、どこへ行くんだ?


 リンボ。


 業の深い者が死んで流れつく場所。

 何かの本で、そんな一説を読んだ気がした。


 どんな場所なのか?

 どんな世界なのか?


 少年と話ができるなら、私はぜひともその世界に興味があるのだが……

 

「……ああブラッドリー先生、こんなところで寝ないで下さい」


 手術室から出てきた看護師に話しかけられ、私ははっと意識を取り戻した。

 いけない。またここで寝てしまうところだった。


 私は膝に手をつきながら身を起こすと、手術室の中でいままさに腹部を縫合されている彼の妹に会いに向かった。

 酸素マスクをつけられた表情は白く安らかだ。


 これで君は、お兄さんと一心同体。

 これから先、ひとりでも君はひとりじゃないってそう思ってくれたらいい。


 私は心の中でその少女に向かって呟いた。

 これは祈り。

 医師として、また一人の人間として持つべき、ただの平凡な”俺”の祈りだ。

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