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青い獣、ガトウ−①

  


  *    *    *



「おはよう、所有者(ドナー)君」



……目が覚めると、俺は異世界に呼び出されていた。


……目を覚ますと、あたしは見たこともない城の中で座っていた。



……俺をこの世界に呼び出したという小さな少女は、自分の名前を”デルレイ”と名乗った。


……あたしは昔からここに居たのだと、”シェパーズ”と”リバティ”と名乗る男の子たちはそう教えてくれた。



……俺の仕事はこの少女のために、この世界の誰かが持っている聖なる内臓を集めてくることだと、少女の隣にいるやたらと偉そうな子供がそう言った。


……あたしの役目はこの城の主として皆を守ることと、皆がいつまでも幸せに暮らせるようになる道を探すことだと、遅れてやってきた執事みたいな老人がそう告げた。



……転移。


……転生?



……小説家やラノベ作家にあこがれる夢みがちな少年少女が考えそうな設定が、今まさに俺の身に起こっている。


……どこにでもある退屈なアニメや映画のような内容の主人公を、いま、あたしは演じようとしている。



……俺は誰だ?


……あたしは、誰?



「お名前は?」

 デルレイと名乗る少女が問う。


「なんなりとお申し付けください、白亜様」

 ウォルスリーと名乗る老人が言う。



「俺は……ガトウ。蛾灯悠一郎」

 俺はそう答える。


「失敬……白亜・ロキソプロフェンデ・ヴァン・ネフローゼ様」

 ウォルスリーが威厳たっぷりにそう続ける。



 俺は。

 あたしは。


 同じ時、同じ場所で共に命を失った二人。

 あの人もここにいる? あの子もこの場所に?


 知りたくて、理解する時間も惜しんで、ただ言いなりになった。


 この世界の仕組みを知って、順応してなんて、どうでもいい。

 あの二人の世界に続きがあるのなら。

 俺は、あたしは、ただ何も考えずに言われたとおり”敵”と言われた生き物の内臓をひきずり出した。


 そして、会えた。

 そして、見つけた。


 戦場で、銀色みたいに髪を染めた君が手を赤く染めて立っていた。

 透明な鎌を持ったあの人が、あたしをみつめてそこに居た。


「……×××……?」


 その人は、あたしをそう呼んだ。

 違うよ。あたしはそう答えた。


「あたしは”白亜”。さよなら、先生」


 あたしはそう言って、その人に別れを告げた。



 城に戻ると、あたしの本体がガラスケースに入れられて、まるで人形のように寝かされていた。


 ウォルスリーが言う。


「白亜様。敵の中枢がようやくわかりました。あの白い大理石で作られた空中庭園。そこにそびえる城の最奥にある”聖堂”にデルレイという名の少女がおります」


「その少女を殺せば、皆が元の世界に戻れるの?」


「その通り。彼女の能力はこの世界の創生と維持。デルレイの持つ聖臓(オルガン)を奪いさえすれば、この世界は消えてなくなりましょう」


 あたしは”この世界を消す”ということが何の意味をもつのか、よくわからなかった。

 それでも、あたしは元の世界に戻れる可能性があるのなら、どんな事でもするつもりだった。



「この世界から出れば、僕たちは消える。元の世界では僕たちみんな死にかけている。デルレイは、そんな僕たちのために少しだけ”猶予”をくれているのさ。ただ死を待つばかりのこの人生に、ほんのわずかな遊ぶ時間をね」


 立ち尽くす俺に向かい、ヒースローと名乗る少年がそう語る。


「猶予……」

「デルレイを殺せば元の世界に戻れると思ってる奴らもいるけど、そもそも、元の世界の自分がどうなっているのか忘れちゃってるんだよね。違う世界の自分は死にかけている。戻ったってまた死ぬだけさ。ここは地獄なんかじゃない。生と死の境目。デルレイの作った、僕たちの唯一の遊び場だ」


 ヒースローは持っていた傘をひらいて、聖堂の中でそれをくるくると回してみせた。

 あの傘は禁忌。

 雨に濡れれば濡れるほど”切れ味”を増す聖臓(オルガン)だという。


 俺の心臓にも、同じように特殊な力が宿っているらしい。

 この身体に、この臓器に。なぜそのような力があるのかは、誰にもわからない。


 ただひとつ言える事は、俺がデルレイを守ることはこの世界を守ることにつながり、同時にこの世界のどこかにいる”あの子”との世界が永遠に続くということだ。



 ……あたしは。

 あたしはもう白亜だ。もとの自分はもうどこにもいない。

 もとの自分よりも綺麗な顔をしているし、もとの自分よりも綺麗な髪の毛の色になっている。

 まるで、あたしが望んだことがそのまま絵になったかのように。


 この城には三人の人間がいる。


 ひとりはウォルスリー。見た目は執事風のおじいちゃんで、何をするにも品がいい。


 ひとりはシェパーズ。見た目は大学生くらいで、やたらと汗っかきだけど顔はまあまあな人。


 ひとりはリバティ。愛想の悪い少年。あまり話をしてくれない。


 周りの全てが自分の従者になったかと思うと、なんだかとても気持ちがいい。

 反面、いままで経験したことのないことの連続にめちゃくちゃ疲れる現実。


 自分のことを言うときには”あたし”じゃなくて”わたし”を使えだとか。

 フォークとナイフの使い方が違う、だとか。

 風呂に入れるのは一週間に一度だけとか……。


 正直、元の世界に戻れるならばそっちのほうがいい。

 でも待って。元の世界に戻ったら、わたしはどこで何をしていたんだっけ?

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