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前編

「さて、今年もやってまいりました、後宮ドラフト会議のお時間です! 司会進行はわたくし、皇国丞相エイケイ・ゴコクジ。解説は皇族剣術指南役のケンシン・タケダさんでお送りいたします。――タケダさん、よろしくお願いいたします」

「よろしくどうぞ」


 司会のゴコクジの口上に解説のタケダが軽い会釈で応じ、今年もドラフト会議がはじまった。

 

「後宮入りする姫の指名方法は例年通り、一巡目は入札抽選。二巡目以降は逆ウェーバー方式(※注1)となります。それではまず、本年の参加者の皆さまを指名順でご紹介いたしましょう」

「今年は初参加の皇族もおられます、楽しみですね」

「はい。――では、まず指名順1位は当然この御方。ワラキア皇国第7代( みかど)ナリアキラ様。この後宮ドラフトの発案者でもあらせられます。――では(みかど)、ひと言お願いします」

「ん? わし?」


 ゴコクジにマイクを向けられると、『帝』と書かれた立て札の置かれたテーブル席で3人の正妃とリラックスした様子でくつろいでいたヒゲダンディな今上帝は気さくに応じた。

 

「おほん、導入当初は混乱もあった後宮ドラフト会議も、こうして無事、栄えある第四回目を迎えることができた。嬉しく思う。これもひとえに裏方として駆けまわってくれた目の前の丞相をはじめとした関係各位の努力のおかげだ。この場を借りて感謝を」 

「……もう、こんな時だけ調子いいんだから」

「なに、いつも感謝しとるよ」

「やめてくださいよ、柄でもない」


 思わぬ労いの言葉を賜った丞相ゴコクジがテレテレしていると、

 

「こら、そこ、男同士でイチャイチャしない」


 すかさず帝の傍にはべる正妃のひとり(りん)からツッコミが入った。

 

「……失礼いたしました。では正妃さまからもひと言」

「あら、わたくしも? ――では」


 (りん)がマイクを受け取る。

 

「新人ですので一応自己紹介から――去年ドラフト1位で指名いただき、帝の後宮にはべらせていただくことになった正妃三位の(りん)です。――この後宮ドラフトは、際限なく増え続ける帝のお手付きを抑えるため――という目的ももちろんありますが、それだけのために導入されたのではありません。

至高の御方()だけでなく、皇位継承権者全員がドラフトに参加し、それぞれの後宮を持っていただく、というこのドラフトシステムは、皇族男子の皆様に、より皇族としての意識を強く持っていただき、より(まつりごと)への参加意欲を高めていただくことを目的としています。ただの愛人獲得会議ではありませんので、そこのところ誤解のなきように」 

「ご高説、ありがとうございます」


 司会のゴコクジが麟からマイクを引き継ぎ、次のテーブルに向かう。

 

「えー、それでは、続きまして、指名順二位、皇太子キサラギノミヤ殿下です。――ひと言お願いします」

「うむ、苦しゅうない。――去年は指名が重複し、父上に負け、叔父上にも負け、非常に苦い想いをした。今年は独自路線で頑張りたいと思う」 

「ありがとうございます。――では次、指名順3位、ゴシラトリ上皇……」


 そうして、紹介は4位のハルバトノミヤ殿下、5位のチガノミヤ殿下、6位初参加の12歳スオウノミヤ殿下、最後に7位の帝弟(ていてい)ネリノミヤ殿下と恙なく進んだ。

 

「――参加皇族は以上の御7方となります。みなさま、盛大な拍手をお願いいたします!」


 ゴコクジの音頭で、若干ヤラセ臭い大音量の拍手が轟く。

 そして――

 

「では、これより第四回後宮ドラフト会議を開催いたします。みなさま、モニターにご注目ください!」

 

 

 

 ウグイス嬢が、指名を読み上げる。

 

「第四回後宮ドラフト会議。第一順選択希望姫君。今上帝ナリアキラ様。――シズカ・ユミナミ。知恩院学園3年。18歳。生徒会」


 帝の第一希望が読み上げられると、周囲から「おぉ……」とどよめきが起こる。

 ゴコクジがすかさず解説のタケダに話を向けた。

 

「帝の第一希望は複数の競合が予想される今年のドラフトの目玉、知恩院学園3年、生徒会長のシズカ・ユミナミ嬢でした。いかがですか、タケダさん?」

「皇族の子弟も多数在籍する名門知恩院学院の生徒会長にして、品行方正、学業優秀、容姿も性格も申し分なしの万能型の姫君です。今年行われた高校弓道の全国大会でも見事2位の成績をおさめられました。ユミナミ侯爵のご息女ということで家柄も完璧。思想的な偏向もなく、後宮入り後は去年の(りん)さま同様、即正妃としてデビューもありえる逸材です」   

「本人は大学進学を希望しているとの噂でしたが……今秋になって一転して後宮志望を表明。いったい何があったのでしょう」

「……さて。わたしは存じ上げません」


 解説のタケダの歯切れは悪い。


「帝、なにかあれば、ひと言お願いします」

「ノーコメントで」 


 そこでタイミング良く、会場の巨大スクリーンに、自宅で中継を見守るシズカ・ユミナミ嬢の姿が映しだされた。

 今上帝に一位指名されるのも納得の麗しい美少女だ。

 その瞳に涙の膜が潤んでいるのは、いったいどのような感情に起因するものか。

 ドラフト会議には悲喜こもごものドラマがある。

 

 続いて指名順二位、皇太子キサラギノミヤの第一希望が読み上げられる。

 

「皇太子キサラギノミヤ殿下。――シズカ・ユミナミ。知恩院学園3年。18歳。生徒会」


 会場から、やはりどよめきが起こる。

 

「おっと、さっそくの競合です。独自路線を目指すとはなんだったのか」

「皇太子殿下は現在、知恩院学園の3年にご在籍ですからね。手元の資料によると生徒会で副会長を務めておられるとか。ユミナミ嬢とはクラスメイトにして生徒会で苦楽を共にした仲というわけです。意識するなという方が無理でしょう」

「殿下、ひと言お願いします」

「今年こそ負けない!」

「去年は(りん)さま獲られちゃいましたもんね」

「ぐッ」


 同校の一年先輩だった(りん)に淡い恋心を抱いていた殿下である。

 去年の指名抽選は、彼の初恋が破れた瞬間として、彼の記憶のアルバムに苦い想いとともに封印されていた。

 

 そして今年である。  

 この父と子は女の趣味がどこまでも競合していた。

 

「同級生を後宮に指名して父親と競合するとか。実に闇が深いですね」 

 

 後宮たるもの、ドロドロしていてなんぼである。

 続いて指名3位、ゴシラトリ上皇の希望が読み上げられる。

  

「ゴシラトリ上皇。――ユイリ・ロウラ・レイテカレス。レイテカレス王国。36歳。王妃」

「……他国の王妃を一位指名してる老人がいるんですが、それは」

「属国ですからね。外交部が事前交渉で相手側から内諾は得てあるそうです。去年の西方動乱ではあの国、少々オイタが過ぎましたからね。おそらくその制裁も兼ねてのことでしょう」 

「嫌ですね、政治がらみ」

「後宮の姫選びはどこまでいっても政治がらみですよ」


 続いて第二皇子だ。

 

「第二皇子ハルバトノミヤ殿下。――サクラ・ツキノミヤ。清風崋山小学校4年。9歳。帰宅部・読者モデル」


 ウグイス嬢の読み上げる内容に、会場の温度がひんやりと冷える。

 だいぶ間を置いて、ゴコクジがタケダに訊ねた。


「……これは、アリなんですか?」

「殿下いわく『アーリーエントリーだ』だそうです」 

「アーリー過ぎるでしょ。素材型の補強ですか」

「殿下いわく『即戦力として頑張ってもらいたい』だそうです」

「アウト」

「はい。3アウトで退場です。殿下には気をつけて欲しい」

「あ、3アウトまでは大丈夫なんだ」


 続けて第三皇子。

 

「第三皇子チガノミヤ殿下。――シズカ・ユミナミ。知恩院学園3年。18歳。生徒会」

「3人目の競合です」

「チガノミヤ殿下、キャラが立ってないですね」

「そういうことは思ってても言わない」  

  

 そして初参加の第四皇子の番がまわってくる。 


「続きまして初参加の12歳、スオウノミヤ殿下です。まだ後宮がありませんので、本日は正妃ではなくお付きの侍女を伴ってのご参加です。初々しいですね」

「どのような選択をされるのでしょうか、注目です」


 多くの注目が集まる中、第四皇子の希望が読み上げられる。

 

「第四皇子スオウノミヤ殿下。――ミサキ・スギタニ。17歳。侍女」


 読み上げられた途端、スオウノミヤ殿下お付きの侍女が真っ赤になって驚いたように殿下をみた。

 スオウノミヤ殿下も侍女に見つめられて真っ赤になっている。

 

「……あの雰囲気からすると、スギタニ嬢というのはあのお付きの侍女のようですね」  

「ああ^~いいですね。おねショタ。癒されるんじゃあ。このドロドロしたドラフトにおいて、まさにいっぷくの清涼剤。おねショタこそ正義。ショタ皇子×メイドこそ至高」

「スギモト嬢は平民のようですが……帝位につくことはほぼ想定されてない第四皇子ということで問題ないのでしょうか」

「外部の血を入れるのはとても良いことだと思われます」

「推しますね」

「はい」


 そして最後に帝弟(ていてい)ネリノミヤ殿下の希望が読み上げられる。


 ――それが、これまでで一番のどよめきを会場にもたらすことになる。

 

「帝弟ネリノミヤ殿下。――ミサキ・スギタニ。17歳。侍女」

「なんと、まさかの競合! まさかのスギタニ嬢。ドラフト会議はじまって以来の、平民の1位指名競合ですッ!」


 ネリノミヤのまさかの一位指名に、スオウノミヤとお付きのスギモト嬢が固まる。 

 その様子に、“いかにも”な容姿のネリノミヤ殿下がニチャアと笑った。

 ゴコクジによる解説が入る。

 

「去年は(りん)様の競合にこそ敗れはしたものの、スライド一位の指名抽選では競合するキサラギノミヤ殿下に見事勝利して、知恩院学院3年図書委員長ユキ・アヤセ嬢の指名権を獲得、後宮に迎え入れたネリノミヤ殿下です」

「あのもの静かで大人しかったアヤセ嬢がこの1年の間にすっかり――」

「あ、その話題は皇太子殿下のトラウマに触れるのでNGでお願いします」 

 

 その手の噂に事欠かないネリノミヤにたっぷりと愛されてしまったアヤセ嬢の現在の様子は――お察しである。


 おもむろに解説のケンシン・タケダが立ち上がり、刀を抜いた。


「――おねショタにカットインするおじさん死すべし。慈悲はない」 

「ちょっとタケダさん!? 落ち着いて、殿中ですよ!?」

「うるせえ、おねショタにカットインする絶倫の寝取りおじさんなんざ、誰も求めてねえんだよッ!」


 吼える剣術指南役はあっという間に多数の警備員に包囲された。

 

「退けェッ! 貴様らの血は何色だァ!?」

「ここでいったんCMです」 

  

 ドラフト会議は混迷を深めていった。

注1 上位者から順番に指名を行うこと


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後編で完結の予定です

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