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私は貴方が羨ましい


 「ゼロ、喉が渇いたわ。」

 そう言えばそばに控えたメイドが洗練された所作で紅茶を淹れてくれる。

 周りから仕えられ、労働の類をする必要のない生活。

 王女として当たり前の日常。 



 ......強いて言うならば、そのメイドが狂おしい程愛しい婚約者から送られたメイド型戦闘人形であり、一皮剥ければ金属の装甲と骨格がよく見える人外であるということぐらい。




 ......十分おかしいですね。

 普通の王女にメイドに扮した一騎当千の戦闘人形は居ません。

 クレアは読んでいた書物から顔を上げて、件のメイド、ゼロに声をかける。


 「ゼロ、貴方が人形なのは前に見たから知っているのだけど、人と何が違うの?」

 「私はマスターにより作られたオートマタです。マスターの助手機体である桃花様の素体をベースに外見の性別を変更する機能を付与されています。構造上はそこまで人とは異なりませんが我々は全身の骨格人で言うところの骨がアダマンタイトを主成分として作られており筋肉はドラゴンの筋肉を基に作られています。中枢となる頭脳はマスターが開発された特殊な粒子で構成されており実体がないため例え両断されたとしても迅速な復活が可能となっております。近日、動力源が搭載されたためどのような環境下でも......。

 「あ、もういいから、止まって。」......了解しました。」


 一つだよくわかりました。

 ゼロは一切呼吸をせずに話しています。

 そして今、聞き捨てならない言葉が出てきました。

 『アダマンタイト』

 この鉱物は希少なだけではなく、その耐久性と重量から精錬、加工共に非常に困難な金属です。

 確か鍛冶師の業界ではこれを鍛えて剣を作れれば間違いなく歴史に残るとすら言われています。

 それを骨格に使っている......?

 私は別にシキ様ではないので細かいことは知りませんが、人体の構造程度は知っています。その骨格程の体積を賄う量となるとドラゴンの素材も加えると......一体当たり白金貨数十枚はかかりますね......。それを大量に使えるとは......流石ですシキ様。


 それにしても......

 「シキ様も貴方達も寿命はないのよね?」

 「その通りでございます。」

 

 「そう......。」

 シキ様の傍に永遠にいられる。そんな貴方達が羨ましいですね。

 病気は治っても寿命は避けられませんから。

 「......私も貴方達のように死なない体が欲しい。」

 

 そう願ってしまうのでしょう。

 王女の地位に生まれ、何もかも与えられた状況でさらに手の届かないものを望む。

 これはいけないことなのでしょうか。



 そんな私のつぶやきに、ゼロは答える。

 「左様ですか。......この世界に満ちた魔素は情報を実行するための願望器。望みを捨てなければ......いつか報われる日は来るでしょう。」



 人形ではない、対等な人として、




 「どうかマスターと同じ時を共有してください。我々には不死ゆえに置いて行かれるマスターの孤独を癒すことはできません。」




 我々は作られた魂無き人格。どう願ってもマスターの支配下にあるのですから。



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