アレンの受難
「敵襲!! 陛下、お逃げに!!」
深夜、城に魔法使いの集団が攻めてきたとの知らせを受け取った俺は、即座に妻と子供達を俺の寝室に集めた。
最重要人物である俺の部屋は城の奥の方にあり、比較的安全なのだ。
「......騎士達が押されているようです。陛下、どうされるつもりですか?」
と、シキにもらったクレアの執事またはメイドをしている自称人形のゼロが聞いてきた。
閉鎖された部屋の中から何でわかるのかは聞かない。どうせ理解できないからな。
......しかし押されているか......不味いな。
こういうときも調子を崩さないゼロの声にありがたいものを感じながら、俺は言った。
「国王たるもの、敵襲程度で簡単に逃げおおせる訳にはいかん。いざとなれば潔く自害でもして見せよう。」
俺の覚悟を決めた言葉に悲しげな顔を見せる妻のエレナ。
すまんな、と俺は心の中で謝る。
「左様ですか。ではクレア様、あなたは生と死、どちらを望みますか?」
「......シキ様と結ばれるまでは死にたくないですね。」
相変わらずおかしな愛情をシキに向けて堂々と死にたくない宣言をしている娘に少しばかり緊張がほぐれる。
「了解しました。......ご家族は?」
「できれば守って。」
できれば!?
そこは絶対に、とか言うものだろう!?
愛しい娘の言葉に固まるエレナと俺、あとカール。
「了解。この身が朽ちるまでお守りします。」
......おい、俺の覚悟を返してくれ。
とぼやいた瞬間、それは来た。
頑丈に作られた寝室を容易く貫き、風穴を開ける光線。
扉の穴を跨いでくる襲撃者たち。
どうやら騎士達は全滅したようだ。
彼らの中から一人が進み出て、
「アレン国王、その命もらい受ける。」
そう言い、先程の光線が再度放たれた
俺の命もこれまでか......と思った瞬間、
『防御魔導式起動。陽子シールド展開』
視界に突如文字が浮き上がり、一瞬だが光線を散らした。
それで十分だった。
瞬時にゼロが間へ飛び込み、かざした腕から魔法を放つ。
放たれた魔法は向こうの凶悪な光線を飲み込み、射線上の一切を消滅させる。
助かった......と安心した俺は目の前の物に驚愕する。
ゼロのメイド服は溶けるように落ち、その下の皮膚もドロリと溶け落ちたのだ。
俺はその下に見えたものに戦慄した。
下に見えたのは赤銅色の板と、それにおおわれた緋色の肉らしき何か、そして所々に見える白銀色の骨だった。
血色は一切なく、露になったのは人に似たヒトでない『何か』。
ゼロの面影が消えた顔は、少し皮膚の残る顎を動かして声を発す。
「魔素の深刻な不足を確認、推定戦闘可能時間は5分。戦力不足を補充するため援軍を要請。運動器官のリミッター解除。」
「--戦闘開始--。」
ゼロの人間味溢れる声とは違う、無機質な声と共に『何か』は消えた。
放たれる魔法は全て残像の残る手足にかき消され、一人、また一人と襲撃者たちの首や胴がねじ切れ、飛んでいく。
後方から次々と来る襲撃者と『何か』の戦いは拮抗していた。
俺もどこかで安心しきっていた。
が、
急にゼロであった『何か』の目から光が失われ、崩れ落ちたのだ。
そこに殺到する魔法。
すぐに『何か』の頭部は爆散した。
守ってくれるものがいなくなった俺達に殺到する殺意のこもった魔法。
しかし天は俺たちを見捨てていなかったようだ。
突如として現れた光線に術者は消し飛び、魔法は強制終了される。
次は何だ? と上を見ると、
夜空には数多の人影が映り、落ちてくる。
そのほとんどは異形のものだったが、俺はその中に見知った二人を見つけた。
おとぎ話の神のような力を軽々とふるい、少し人間なのかも怪しいゼロの製作者、とその娘。
「シキ......なのか?」
「ご名答。というわけで助太刀しに来たぞ。ちょっと後ろにいる奴の指示に従ってくれ。」
そう言われて後ろを向くと何人かの同じ顔をした青年達が近づいてきた。
「助太刀はありがたいが......これは何のつもりだ? それにこの者たちは......?」
降りてくるロープで吊るされた座席に座らされ、しっかりと体を固定されていく何をする気だ?
シキによると俺達を避難させるためのものらしい。そしてこの青年達は配下だと。
恐らくこのもの達も人形なのだろう。
顔が全員同じなのを含め、雰囲気が薄い。
「ぬおっ!!??」
突然座席が急上昇したことで途切れる思考。
見る見るうちに遠のいていく地面から目を離し、上を見ると......
巨大な箱が、こちらに口を開けながら宙に浮いていた。
軽い衝撃と共にガチャン、と音を立てて箱の内部に固定される座席。同時に全身の固定も解かれた。
同時に下に空いていた扉が閉まって、暗い空間に閉じ込められるアレン達。
すぐさま明かりがつき、二人の人影が現れる。
「「ドールキャリアーにようこそ。」」
なんでか知らんが、下で戦っているはずのシキとトーカがそこにいた。




