俺は悪くなくね?
「んふふ......やっぱり生のシキ様が一番......」
上機嫌に抱きついて胸に頬擦りしてくるクレア王女に対して、当事者である詩輝は両手を上げて微動だにしない。
異世界に来てチートな肉体を手に入れ、いくら王女を狙っていたとはいえ、元はただの医学部志望で陰キャな詩輝に何か気のきいたことができるわけがない。
「おいシキ」
底冷えするようなドスの利いた声がアレンの口から聞こえてくる。
「ハイ」
ギギッと音がするかのように顔を盛大にひきつらせながら首を回す詩輝。
「てめえ俺の娘に何をした。」
「いや何m......」
「私の心を奪いました♡」
話を遮って空気を読まずに嬉しそうな顔で火にガソリンを注ぐクレア王女。
「ほう......そこら辺じっくり話をしようじゃないか。付き合ってくれるよな?」
「......そうだな取り敢えず誤解は解いておきたいしな。」
そうして執務室に繋がるベランダに出る二人。
「まずこれを観てから話をしようじゃないか。」
「何だ? 言い訳か?」
「いいからいいから。」
そう言ってとある動画ファイルをアレンに渡す。するとアレンも馴れた操作でファイルを開き、
(......。)
中身を見て次第に顔から表情の消えていくアレン。わりと怖い。もちろん中身は俺がクレアに襲われているときの視界だ。
「だいぶ手遅れな気がするのは俺だけか?」
「ここまでお前に入れ込んでいるとはな......。一発殴らせてもらってもいいか? 父親として。」
「こっちにも責任はあるし一発くらいなら」
あれだな娘はやらんって奴だな?
「......いや、止めておこう。一応娘の命の恩人だ。それにどうせ効かないだろ?」
「まあな」
「だが責任はとってもらうぞ。」
「何でだ?」
「あんなクレアを腹の黒い貴族どもに渡せるとでも? 親にもお前への好意を隠そうとしないんだぞ? 他の男に入れ込んでいると言われて変な噂をたてられるのは落ちだ。」
「ちなみに何をしろと?」
「何でもいいから俺がお前の立場を上げる口実になる功績を大量に打ち立てろ。あと三年以内に俺の娘に相応しい男になれ。」
俺のnMSの能力を使えばできない話ではあるが......何をするか......
......というか俺、何も悪くない気がするんだが? 下心があったとはいえ王女治しただけだし?




