チャージボア(2)
「ブギャァァァァァァ!!!!」
......目の前にチャージボアが突進してくる。こいつはなかなかいい食材になるらしく、薬草摘みと同様常時依頼が出されている。おまけに遺伝子に成長促進の魔導式でも組み込まれているのか暴食を繰り返して2ヵ月で成獣になる。ほっとくとそこら辺にある野草や薬草を片っ端から食い荒らすのでこうして定期的に食材確保のついでに間引のだ。
......あと少し......もう少し......今だ!!
「えい」
そんな気の抜けた声と共にチャージボアに向けて拳を繰り出す俺。体重差は重力操作でどうとでもなるが少しアッパー気味で顎を打ち抜くことでチャージボアの分の体重を加算、地面にかかる力を増やすことで足裏の最大摩擦力を上げ、こちらが吹き飛ばないように工夫する。魔法に頼らない魔物用の体術も練習するに越したことはないからな。
ベキィ 「ブギャァァァァぁァ!!??」
「えい」 ゴキ
またもや気の抜けた声と共に顎を打ち砕かれて痛みにのたうち回っているチャージボアの首目掛け手刀を振りぬく。人外のレベルに強化改造された一撃はそれだけで分厚い肉と脂肪の守りを通り抜け、首の骨をずらし対象を絶命させる。
「あと10匹か......。」
もうすぐ昼だ。桃花はチャージボアの運搬で今はいない。さっきからちまちまとサーチ&デストロイしているが......つまらなくなってきたな。なんというか、芸がない。索敵の高効率化を狙って魔素感知や赤外線視と超音波分析、におい成分や触覚で感知する風向きを分析するなどの五感の上位機能を統合して構築した高精度なレーダー機能を使ったチートじみている索敵をしている以上そんな文句を言う筋合いはないのかもしれないが。
こう、特訓とわかってても淡々と処理している感じでつまらないのだ。下手なFPSゲームの方がかっこいい感じもして面白かった。
......拳ではなく爪を使ってみるのも一興か?......。
今の俺はドラゴンの筋繊維をベースに作られた筋肉の上にさらに収縮力強化などの強化魔導式を動きの全てに自動的に起動しているため、このサイズでドラゴンの前身の筋肉をまとめた以上の出力を出している。よってどんな倒し方でもヌルゲーになってしまうのだが少しは刺激があるだろう。
ここからはそのようなコンセプトでやっていこうと決めた俺は手を作り替え始めた。
まず、爪と指先の材質を生体で最も強いドラゴンの歯と同じ材質に変換する。指の骨格を削除して戦闘機の約六倍の速度を誇るカメレオンの舌の構造を参考にを骨のあった場所に筋肉を可能な限り収縮させて保持、普段は硬化して骨格の代わりをさせる。他の組織も伸縮自在な生体素材に変換する。これで任意のタイミングでその収縮を解き放ち、中距離の対象を音速を越えて貫く柔軟性抜群な指の完成だ。これはエクステンドフィンガーと呼ぼう。
ホラー映画で化け物とかが爪や指を伸ばして攻撃するシーンを見たとき便利そうだなぁと思っていたので再現できて少し感激。
試しにそこら辺の木をめがけて発射してみる。
パァァァァァン ドシャァァァァァ「......。」
とても刺激的な結果になった。......貫くことは知ってたけど衝撃波で木の幹が丸くはじけて倒れるとは思わなかった。人に使ったら爆散すること間違いなし。
もうちょっと速度を落として発射。
ヒュパンッ
......おっいい感じ。生じる摩擦熱で貫通したところが焦げているけどまあ許容範囲でしょ。人に使ったら貫通したところが焼かれて血は止まるし綺麗に死にそう。
......まて、なぜそう人を相手にすることが前提なんだ? 落ち着け落ち着け。
......なぜか人殺しに傾いてしまった思考を元に戻した俺は新しい体の検証も終えたのでこれを使ったチャージボアの乱獲を開始した。
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「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
「ブギャァッ『グサッ』......。」 ドサッ
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これはひどい
さっきの一番元気に突進してきたチャージボアの断末魔の叫びを聞いたのだろう。一気に6匹ぐらい順番に押し寄せてきた。もれなく外傷を抑えるために口から頚椎を破壊、天国行きである。
「お父さん......なにしたの?」
俺のところに戻ってきた愛娘である桃花にもあきれた声で聞かれてしまった。
「あ~これはだな、その......ちょっと新しい技を開発して......ちょっとやりすぎた。」
「どういう技?」
「それ」
説明も面倒なので桃花と通信を開いて情報を送る。
「えっ......なにこれ便利。......お父さんッ!!」
「はいっ!?」
唐突になんだ。びっくりしたじゃないか。
「あの使用許可を頂戴♪」
「おう、いいぞ。」
どんなことかと思ったらそんなことか。全然問題ない。
「やったぁ~」
それに可愛い娘を喜ばせるのは父親の義務だからな!
「そういえばお父さんは何を目指しているの? 宇宙人?」
エクステンドフィンガーの動作確認をしている桃花が唐突にそう聞いてきた。
「ん~そうだな......生命が人型を保ちつつ進化できる限界?」
厳密に言うと原子レベルの存在は生命と言えないのかもしれないが。
そう桃花と雑談しながら残りの4匹を狩り終わった俺たちは約束通り2匹ずつ担ぎながらギルドに戻った。
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