バートの末路
「くそっ なんでこの俺があんな奴に......。」
王都の路地裏に誰かの悪態をつく声が響く。
「俺があんなもやし野郎に力で負けた? ありえねえ。」
男は明らかに重症だとわかる右腕に包帯を巻き、路地裏に座り込んでいた。先程起きた騒動で反撃をくらい、大怪我をしたため治療費としてただでさえ毎日の浪費で少ない持ち金をすべて取られたので宿も取れずこうして暗くて湿った路地裏に座り込んでいるのだ。
(......大体俺がなにしたっていうんだ。ひょろい新人が来たから突っかかっただけじゃねえか。いつまでも報酬の良くないCランクから上げないギルドが悪い。Fランクから最短でⅭランクまで上がった特別な俺だったらAランクの奴らが苦戦してるような魔物も一瞬で倒せる。
......そう、このバートという男は過去最短でFランクからCランクまで上がった男なのだ。だがそこで調子に乗って横暴に振舞いだしたために素行不良としてランクアップ見送りになっていたのだ。
だがもちろん本人はそんなことには気づかない。
(あいつだ。あいつのせいだ。あんなところにいたあいつが悪い。......そう、俺は悪くない。すべてはあいつのせいだ。俺のランクが上がらないのもあいつのせい......。殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる......。)
バートが一人かってにお門違いの憎悪を燃やしてると、
『監視警戒対象No,1の血中テストステロン濃度が警戒値に到達。マスターを対象とした攻撃衝動の高まりを確認。危険物排除基準第4項に抵触を確認。これより排除行動を開始する。』
「だれだっ!!??」
突然聞こえた無機質な声に反応して周りを見渡すバート。だが周りには誰もいない。当然だ。その声は彼自身の中から響いてるのだから。
「くそっ どこに居やがる。」
そう言ってバートは声の持ち主を探そうとしたが、
『全運動神経掌握完了』
(う、動かねえ!?)
先程の無機質な声がまた聞こえた瞬間、全身が動かなくなった。視界等の感覚はあるが肝心な体は硬直して、声も出せない。
『排除手段検索......高所からの落下を選択。実行開始。』
(うおっ!?)
またあの無機質な声と共に突然体が勝手に動き出し、この王都の中にある一番高い時計塔まで歩き、塔の上に上りだした。
(やめろ......やめてくれ。)
自分の運命を悟ったのだろう、先程までの横暴な思考は無くなりすっかり弱気になっているが、やはり体は止まらない。
『最終確認。対象を殺害する承認を魔導AI[ソフィア]に求む......『承認』......受諾。』
『実行』
(やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!??)
本人の意思とは反対に時計塔の上から飛び出し、頭から真っ逆さまに落ちるバート。
パアァン ビシャッ
墜落した瞬間頭部を含め、体幹部がはじけて地面に緋色の花を咲かす。
『対象の生体反応消失を確認。任務完了。離脱開始。』
素行不良で有名なCランク冒険者が時計塔の下に落下死していたことは次の日の朝巡回の兵士に発見され、動機が不明な自殺として処理された。
次からは諸事情により不定期投稿になると思うので、時々でいいので更新の確認をしてくれるとうれしいです。
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