初依頼
周りが皆一様に静まり返ったのを見て、俺は正気に戻った。
(うん。このやっちゃった感、視線がなかなか痛いね。) だが後悔はしていない。テンプレのためのコラテラルダメージなのだ。仕方ない。
ちょっとした惨事を起こしてしまった責任を少し感じた俺は気絶した件のおっさんを引きずって酒場の隅にポイした後、壊れたテーブルや椅子を腕を使って外見的に元に戻しながら中身をnMSをこっそり通すことで修復。これで魔法を使ったとは思われないはずだ。最後の仕上げとばかりに下敷きになった可哀想な冒険者たちを椅子に元通りに戻して終了。占めて1分の早業である。
そして何もなかったかのように人がいつの間にかいなくなっていた「依頼」の受付に立ち、
「すいません~この依頼を受けたいのですが~。」 安心させるためにフードをとって間延びした声を意識しつつ固まっている受付嬢に話しかけた。
「......ヒィッ。」 怖がられてしまった。
「大丈夫か?」
「な、殴らないで......。」 失礼な、人を何だと思っている。
「別に殴るつもりは皆無なのだが......。ただ依頼を受ける手続きをしに来ただけだ。というより早くしてくれないか。」
「......はっはい! この依頼を受けるんですね、わかりました! 依頼内容は薬草を30本以上の採集で増えた分報酬は増額されます! 頑張ってください!」 何やらまくしたてながら依頼書に書き込んでこちらに返してきた受付嬢さん。
「じゃ、行きますか。」
「......うん!」 少し間をあけているのが気になるが......まあいいか。というかこいつさっきから「うん!」しか言ってない気が......。
冒険者を出た俺たちはそのまま新しくできた身分証を出して門を通過、......薬草を取り始めると思ったか?
そんなわけない。俺はnMSで生物無生物関係なしに創り出すことができるんだぞ? そんなめんどくさいことするわけないじゃん。
というわけでそこら辺を桃花と散歩して時間をつぶした後、冒険者になったクリーチャーシリーズの一体が取った記録から薬草をそこら辺にある土を使って構築して終了だ。数は......70本ぐらいでいいか。依頼達成に必要なものはそろったしいい感じに時間を潰せた。さあ戻ろう。
ギィ......てくてく、「依頼達成してきた。」 さっきの受付嬢さんに依頼達成を報告しに行った。ちなみに件のおっさんはまだ酒場の隅で寝ていた。
「はっ?」 なぜか大口を開けて固まった受付嬢さん。......薬草口に突っ込もうか?
「......。」ドサッ とっとと処理してほしいので無言でカウンターに依頼の薬草70本を載せる。
「......なんでこんなに早く大量に丁寧に採ってこれるんですか?」
「......適当に群生していたので桃花と手分けして取ってきた。」
「ふつうこんなに群生しないんですが......。」 案の定疑われた。
「何か問題でも?」 笑顔でごり押してやる。するとさっきの惨状を思い出したらしく、おとなしく数えだした。うんうん、素直が一番だね。
「......全部で7000ルーアです。どうぞ。」
微妙な表情をしながら報酬金を渡してきた。......なんか俺悪役っぽい。ちょっと可哀想になったので少し小さな声で、
「手段は言わないがやましいことはしていない、安心しろ。」
「えっ」
「ところでおすすめの宿はあるか?」 急遽話題転換
「えっとさっき......。」 ムウ、手ごわいな、笑顔でごり押すか。
「おすすめはありますか?」
「いえ、さっき......。」
「おすすめは?」
「いえ......。」
「おすすめは?」
「......では、ギルドを出て左にまっすぐ行くと2階建ての小鳥亭という宿屋がおすすめです。......決して騒ぎを起こさないように。」
「そんなに危険物扱いしないでくれよ......桃花、いくよ。」
「それはお父さんがあんな事をしたからだよ?」 うっ、痛いところを突かれてしまった。というかやっとまともに話し始めたか桃花よ。
「お父さん......?」 ほらそっちも危ない人を見る目をしない!
「こいつの親をやっているだけだ、気にするな。」
「変なことはしてませんよね......?」
「断じてしていない。」 なんか打ち解けてくれたみたいなので一安心。だが謎の疑念を抱かれてしまった。
「じゃあな。」
「またね~バイバイ」 桃花も手を振って俺たちはギルドを出た。
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