冒険者デビュー
「......さすがに王都というだけあって、でかいな。」
空中では分かりづらかったがやはり王都というだけあって、でかい。そして俺たちは今王都に入る人達の行列に並んでいる。
「......長いね、お父さん。」ローブをまとって深くフードを被った桃花が小声で俺に言う。
「そうだな......。」
長い、長すぎる。かれこれ一時間は待たされている。......思考で時間をつぶそうにも今の体では思考スピードが桁違いなので一瞬で終わり、時間がつぶれない。
「......。」
「......。」とうとう話すこともなくなって押し黙り始めた俺たちにようやく警備の人たちの検査が回ってきた。
「そこの君たち、フードをとって顔を見せてくれないか?」 別に反抗する理由はないのでフードを取る俺たち。
「ずいぶんと珍しい容姿をしている......まあいい。それで、身分証の類は持っているか? 無いなら通行料を払ってもらう決まりなんだが。」
「俺たちはこれから冒険者に登録するつもりだから身分証はまだない。いくらだ?」
「2人なので合わせて500ルーアだ。」
「わかった」
......言い忘れていたがこの世界の貨幣は100刻みで、日本の一円が銅貨一枚、1ルーアに相当する。そっから銀貨一枚が100ルーア、金貨一枚が1万ルーア、白金貨一枚が100万ルーアといった感じだ。
「冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行ってあそこの曲がり角を右に曲がるとある。」 丁寧に道まで教えてくれた。こいつは良い奴なんだろう。まあ行き方はクリーチャーシリーズの送ってくる情報でわかるんだが......。
「ありがとうな。」
「ああ、頑張れよ。」 うむやはり良い奴のようだ。
「じゃあ行くぞ。桃花。」
「うん!」
並ぶのに結構時間を取られてもう昼過ぎになってしまった。とっとと登録しに行きますか。
町に入った途端、活気のある声が2人を包んだ。
「一本銀貨一枚だよ~」 やはり異世界定番の串焼きも売っていた。
「オイオイ、つれないな~」
「あんたとなんか絶対いや!」 ナンパに失敗している男もいた。
そんな活気のある道を通って俺たちは冒険者ギルドの前に来た。
「スゥ......。」ギイ 興奮する心を落ち着けながら俺はゆっくり扉を開けた。
まあ定番と言ったらなんだが、酒場で荒くれものといった格好の冒険者が結構たむろしていた。
その先にある受付に視線をやると、「買取」、「登録」、「相談」、「依頼」、「情報」と書かれたプレートがあり、受付嬢がそれぞれの受付に3~4人いて冒険者の応対をしていた。肝心の顔は......美人とはいかずまあまあだったが。まあ仕方ないので「登録」の受付に向かった。特にテンプレもなかった......くそう。
ちょうど誰もいなくなっていたので、受付嬢のうち一人の前に来た。
「登録しますか?」受付嬢が聞いてきたので、
「ああ、俺たち2人の登録がしたい。」
「そうですか、ではこちらの紙に必要事項の記入を可能な限りお願いします。字は書けますか?」 そういって二枚の紙をポンと出してきた。紙はそこまで貴重じゃないらしく一枚10ルーアだとのこと。
「ああ、問題ない。」
「うん!」
と2人で答えて必要事項の記入をした。記入事項はそんな大したものではなく出身地、性別、名前、得意な戦闘スタイルを書き込むだけだった。出身地は......スルーするか。桃花もそうしているし。戦闘スタイルは大剣っと。記入をした紙を受付嬢に渡した。
「確認します......出身地は無記入ですが、そう登録させてもらいますよ?」
「ああ」
「うん!」
「では、こちらの魔道具に手を置いてください。......もういいです。こちらが冒険者カードになります。」 示されたものに手を置いたら淡く光ってカードが出てきた。
(nMSに干渉された様子は無し、オートマタも問題なし......何をやっているんだ?) 正確には体組織の特徴を割り出し紙に書いた必要事項と照合、独自の言語でカードに記録することで、存在と照らし合わせをするというハイテク魔道具なのだが......
(正体がばれたわけではなさそうだし、問題ないか。)
「次にギルドの規則を説明します......。」
長いのでまとめると、前にクリーチャーシリーズが持ってきた情報とおんなじで要は、金をある程度納めろ。じゃないと除名する。いざこざには限度の範囲内で勝手にやれ。ということだ。
「じゃあまず依頼を受けるか。」
「うん!」 というわけでかFランクの依頼書の張られているかべを見上げると......なんというかやはり定番の子供をあやしてくれとか、薬草を取ってくれとかだった。......まあ一番簡単な薬草の依頼の紙を取って今度は「依頼」のところに並んだ。ここはまあ、人が大量に並んでいたのでおとなしく後ろに並んだ。
ガッ 「いてえじゃねぇか!」
暇なのでボケーとしてただけの新人にひどい言い草だ。視線をやると、予想通りなんともガラの悪そうなおっさんがこっちをにらんで脅し文句を並べ始めた。
(テンプレキたぁぁぁぁぁぁ!!!!)もちろん詩輝は聞いていない。
「この落とし前、どうしてくれるんだ? ん?」だそうだ
「痛いんですかぁそうですかぁ~大変ですねぇ~」もちろん適当にかつ徹底的にあおるに決まっている。
「っこのがきぃ、調子に乗りやがって。どっちが上かわからせてやるよッ!」(チョロいな)一瞬で沸点に達し殴ってきた......ので嬉々として同時にその拳めがけて20%の力で殴り返す。
「ぐっ、あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ」 耐えた、と思った瞬間腕が耐えられずに肘の骨をを皮膚の外に突き出しながら吹き飛んだ。先にいる酒盛りをしていた冒険者にかまわず、だ。……ちょっとグロい。
......結果、ちょっとした大惨事になった。
まず酒場でおっさんの射線上にいた木のテーブルが一つひしゃげて、こちらを向きながら面白そうな顔をしながら見物していた冒険者達は仲良くおっさんの下敷きになった。もちろんおっさんは右腕に重傷を負って血を流しながら気絶している。周りにいた人は全員真っ青な顔になっていて先程と一転して誰も笑っていない。
(やっぱ圧倒的って気持ちいねぇ~)......否、一人だけおかしい思考をしながら笑みを浮かべている者がいた。
......のちに「怪物」の異名で呼ばれることになる男がSに軽く目覚めた瞬間であった。
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