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第一話

 気まずい空気が流れていた。

 少女は一人暗い目つきで考え事しているし。俺自身、性別が変わったと言う人になんて声をかけるべきか分からなかったからだ。

 なんともいえないその生温い沈黙は、少女が口を開くことによって破かれた。


「ひとまず自己紹介をしておこうか。ボクは月城司、先程も言ったように元は男だ」


 言い終えた少女、月城は次は君の番だと言わんばかりにこちらを見てくる。


「水杜黒羽……元から男だった」


「ふっ、なんだいそれ」


 言うことが思いつかず、自分の事ながら頓珍漢なことを言ってしまい当然のように鼻で笑われた。

 月城は暫く俺の名前を咀嚼するかのように何度か呟くと、やがて納得したように頷いて話し始めた。


「クロハ君、キミは何故ボク達がこのような状況になっているか知っているかい? ちなみにボクはまったく理解していない」


「月城君と同じでまったく理解してないな、気がついたらここにいた」


 俺の発言を聞いて何故か月城が口元を引くつかせる。


「できればその呼び方は落ち着かないから変えてもらえるかい。司と呼び捨てで構わないから」


「分かった、ツカサ」


 言われたように名を呼ぶと妙に安心したように肩をなでおろしていた。

 正直言うと人を下の名前で呼ぶのは得意ではないのだが、あまり我が儘を言うべき場面でもないだろう。


「脱線して悪かったね。話を戻すけど何が起きているかわからないからとりあえず、辺りを調べてみよう」


「ほかに人がいるかもしれないか」


 俺の発言にツカサは満足そうに頷く。


「見たところここは学校みたいだ。ボク達の着ている服も制服みたいだし、間違いではないと思う」


 ツカサの発言にはまったくの同意だった。

 扉の窓から覗く室内はいくつもの机と椅子が並べられており、前と後ろの壁には黒板が取り付けらていてまさしく教室だと言わんばかりの様子だ。

 反対側の窓を覗けば自身が高い位置、三階にあたる場所にいること、下を見下ろせば中庭らしきところに大きな木が生えていることが分かる。

 よく見ればこの校舎とは別の建物が奥のほうに建っているのが見えた。


「ひとまず移動しよう、この状況を知っている人がっ!」


「大丈夫か?」


 ツカサが歩き始めたと思ったら突然に転んだ。

 足元を見回すが特に躓くような物は見当たらなかった。


「……身長が低くなった所為か歩くのに違和感を感じる。クロハ君は大丈夫なのか?」


「いや、俺は変わらないな」


 例に少し体を動かしてみるが特に違和感は感じられなかった。


「まったく、こんな体にされた上にまともに動けないとかどんな悪夢だ」


「…………」


 そう恨み言を吐きながら、壁に手をついて歩き始めるツカサに着いていくのだった。






 状況が動いたのは廊下の端に階段を見つけ、二階に下りてすぐの事だった。


「音がするな」


 ツカサに言われるまで気づかなかったが確かに物音がする。

 近くの、表札に1-Aと書かれた教室の中からだ。

 扉の窓にはカーテンが閉められていて、様子を伺うことは出来なかった。


「どうするんだ?」


「入るしかないさ」


 迷いなど無いといった様子で扉を開ける様子を見て衝撃を受ける。

 何があるか分からないというのに、なんとなく気づいてはいたが見た目とは大きく違い豪胆な性格のようだった。

 入るのに少し躊躇するものの大人しくカーテンを潜ることにした。

 中に入ってみるとそこは今までと変わらぬ様子の教室の風景、唯一違うのは教卓の近くに立つこちらを驚愕の表情で見ている女性が立っていることだろう。


「な、なんでここにPCの方がいるんですか!?」


「どうやら当たり見たいだぞ、クロハ君」


 嬉しそうに呟くツカサは異様に悪人面が板についていた。

 女性が怯えて話しになりそうにないので、仕方なく自分が前に出て話を切り出した。

 

「知っている事があるなら、全部話せ」


「何でも話しますから許してください!!」


「……クロハ君、女性をそう脅す物ではないぞ」


 女性には若干泣かれ、ツカサからは呆れた目を向けられた。

 あまり納得はいかなかったが、ツカサに促され大人しく後ろに下がるのだった。


「気を取り直してだ。キミは一体何者なんだい? ボク達のことも知っていた様子だったし」


「私はこの学園の一般教務員の役割を任せられているNPCのトリアです」


 妙にややこしい言葉が出てきた。


「NPCっていうのは?」


「あなた方PCのサポートを任されています。容姿や性格は元となった人物をコピーされて生み出されています」


「何のためにどうやってボク達をここに呼んだ?」


 矢継ぎ早に質問を重ねるツカサに、戸惑うことなく回答するトリアを名乗る女性。


「便宜上神様の力による物です。目的はここの地下にある学園迷宮を攻略していただくためです」


「元の世界に帰るにはどうすればいい?」


「単位を集めて卒業資格を得てもらうことです。単位は主に先程言った学園迷宮の攻略で得られます」


 そこまで聞いてツカサは大きくため息を吐いた。


「PCにNPC、迷宮攻略、まるでゲームだね」


「ゲーム?」


「あれ、クロハ君はあまりゲームはしないのかな?」


 意外そうな顔でこちらを見てくる。


「小さい頃には、最近は全くだ」


「変わってるね」


 妹がよくゲームをしていたが、俺は興味がわかなくて全く手を出していなかった。


「所でお二人は何故このようなところに? 本来この時間、PCの皆さんは体育館で説明を受けているはずなんですけど」


 聞き捨てならない言葉を放ってくるトリアにまたツカサがどういうことかを訊ねる。


「言葉通りです、本来この学園にやってきたPCの皆さんは全員体育館に呼ばれ、そこでここに呼び出した神様直々に先程話したような説明が行われます」


 現在も説明が体育館では行われているはずだとトリアは続ける。


「俺達は三階の廊下で倒れていたが」


「現在ここにいるのが証明ですね、しかし一体何故? 他におかしなことはありますか?」


「それはあるとも、ずっと言うのを控えていたが我慢の限界だ。何故ボクがこんな少女の姿になっているのか、一体何の嫌がらせなんだい!?」


 怒りを微塵も隠さない様子のツカサだったが残念の事に迫力はあまり無かった。

 俺も髪の色とか目の色とか変わっているのだが、今は黙っておく。

 今のところは実害を感じなかったというのもある。


「姿が変わったですか? ありえません。転移の際に姿を変えるなどというシステムは無いはずです。それが事実ならば完全なイレギュラー、私には対処しようがありません」


「誰なら対処できる」


「神様、もしくは上位NPCです。しかし神様は体育館の説明が終わった後、卒業までに会うことは難しいでしょう。上位NPCも学園迷宮の探索を進めない限りは登場してきません」


 ならば急いで体育館にとツカサが動き始めるがそれにトリアが待ったをかける。


「体育館は現在外からの干渉は不可能となっています」


 扉が開くときにはすでに神様は退場した後でしょう、言葉を続ける。

 つまり結局は言われたままに学園迷宮を探索しなければならないということだ。


「学園迷宮について教えてくれ」


「この学園の地下にある、所謂ダンジョンといわれるやつです」


 あまり聞きなれない単語に思わず首を傾げてしまう。


「あまりゲームをやらないと言ってましたっけ。詳しく説明しますね」


 学園迷宮とはPCに襲い掛かる敵性生物、所謂魔物と呼ばれるものの巣窟である。

 学園迷宮は大体地下に行けばいくほど魔物が強くなる。

 一定階層ごとに所謂ボスが存在し、そのボスを倒すことによってその階までのショートカットが出来るようになる。

 主にPCは魔物を倒し、得られる素材やポイントを装備を充実させて学園迷宮の最奥を目指す。

 ポイントを使用することによって学園内の各設備を使用できる。

 学園迷宮についての説明を纏めてみると大体こんな感じらしい。


「典型的なハクスラだね、それで死んだらどうなるのかな?」


「この学園からの退去と、相応のペナルティだそうです。詳しくは私は知りません」


 勝手に呼び出して失敗したらペナルティとは随分な言い草だった。


「言っても無駄か、ポイントとやらはどうやって確認するんだ」


「忘れてました。最初に説明しておくべきでしたがポケットに学生手帳が入っていませんか?」


 ブレザーのポケットをまさぐってみると、内ポケットの中にそれらしき物が見つけることが出来た。

 中を開いてみてみると、どうやらタブレットのようになっているみたいだった。


「それは学園手帳です。それを使えば現在のポイントの確認や自身の体の状態、学園の地図など様々な事を調べることが出来ます」


 本人以外使えませんが再発行には時間が掛かるのでなくさないようにしてください、とトリアが続ける。

 実際に弄ってみるとポイントのところには1000と書かれていた。

 他にも自身の身長やら力の強さなども確認できるみたいだった。


「私が説明できるのはここまででしょうか、おそらくこれ以上は別のNPCの方に訊ねた方がいいと思います」


「何処に行けば出会えるんだい?」


「武装課に行くことをおすすめしますよ、そこで武器の扱い方なども学べるはずですから」


 物騒な名前だった。

 おそらくは学園迷宮の説明のときに少し出ていた装備を作ってもらえる場所なのだろう。

 場所を確認するとどうやら一階に存在するようだった。


「分かった、そこに行ってみよう」


「困ったことがあればまた気安く声を掛けてください。学園のNPCトリアは主に学園迷宮の説明と学園生活でのサポートを任されていますから」


「そのときは頼むよ」


 俺とツカサは教室を出て、扉を閉めると再び中の様子は伺えなくなった。


「どうするんだ?」


「言われたとおりに武装課に行くしかないさ、他のNPCと話すのも重要だろう」


「確かにな」


 ツカサが歩くのを追う形で、俺達は武装課に向かうのだった。


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