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第17話 嗤う悪魔

ゲイルの雰囲気の変化にセインは警戒を高める。


「猫かぶってやがったか、それとも」


「死にやがれェェェ」


ゲイルは先程のセインと同じ様に剣を投げる。


「殺されかけて気が狂ったか」


セインは事も無げに剣を弾く。

ゲイルはセインに近づくと、ゴードンの死体から剣を奪い取る。


ゲイルはそのまま剣術など御構い無しに本能のままに斬りかかる。


「さっさとくたばりやがれェ」


「なかなかいい動きすんじゃねぇか」


ゲイルは剣だけでなく、パンチやキックの他にも唾を吐いたり、砂による目潰しなども交えた剣術にとっては邪道な動きでセインに向かっていく。

だがセインの動きには余裕があり、少しずつゲイルの傷が増えていく。

だが、恐怖を覚えているのはゲイルではなくセインの方であった。

なぜならゲイルはまるで命を諦めたかのようにわざと避け切れる斬撃をあえて避けずに受けることで相打ち覚悟のような攻撃を繰り返していた。

普通の人間であれば傷を負うのは嫌忌するものである。それは意識とは関係なく本能的に発生するものである。ゲイルはその本能を当たり前のように、まるで死ぬことを厭わないと言わんばかりにねじ伏せていく。


(いや、これは死ぬことを厭わないんじゃない。死なないために傷ついているんだ)

ゲイルは普通の攻撃ではセインに攻撃できないことを把握し、わざと攻撃をくらうことで、肉を斬る間に、その分剣速は遅くなり、その隙をつき攻撃していた。

現にどんどんゲイルの攻撃はセインに届くようになってきている。


さらに恐ろしいのはセインの顔である。

攻撃が当たるようになった今ではこちらが先ほどのように積極的に攻められなくなったこともあり両者ともに傷が増えることがなくなりつつあるが、先ほどまではセインの攻撃の方が圧倒的に当たっていたので、明らかにゲイルの傷の量は常人のそれではない。


そんな状況であるにもかかわらず、ゲイルは嗤っていた。

左頬が裂け、左目が破裂し、鼻が削ぎ落とされている。戦い前の優しい雰囲気の整った顔を思い出せないほどに欠落した顔で、ニヤニヤと裂けた頬から歯茎をチラつかせながら嗤っている。

その姿に、セインは恐怖を感じてしまう。


ゲイルは嗤いながらゴードンの死体を蹴り上げて相手の視界を塞ぐ。


「クソが」


セインは仲間の死体を雑に扱う行為に激怒する。

大きく視界は塞がれてしまったが、剣先までは隠しきることはできず、剣の軌道を予想して、攻撃を防御する。


しかし、攻撃はセインの予想を凌駕する。


「なっ」


剣を警戒していたセインに向かって、ゴードンの死体の腹からヴェルニカの使っていた槍が飛び出してくる。

予想だにしていなかった攻撃に驚きつつ、避けようとするが、避けきれず腹に突き刺さる。さらにゲイルは怯んでいるセインの左腕を、ゴードンの腕ごと斬り飛ばし、槍を引き抜きながら、ゴードンの死体ごと蹴り飛ばす。


セインはなんとか受け身をとって体勢を整えたが引き抜かれた槍の傷や無くなってしまった左腕からは大量の血が吹き出していた。

本来なら把握できていたかもしれない攻撃。だが、ゲイルの雰囲気に飲まれつつあったセインにはいつもと同じように頭を働かせることが難しくなっていた。


「ぐはっ、クソが、仲間の死体を雑に扱ってんじゃねぇぞ」


その言葉にゲイルは理解不能と言いたげな表情をする。


「どうせもう死んでんだよ。俺の命を救うために使われるならあいつらも本望なはずだろう。第一、あいつらを殺したのはお前だろうが」


そう言って嗤うゲイルの顔はもはや先ほど震えていた者とは別人と言っても過言ではなかった。死神の様な雰囲気は、先ほど3人を逃したカイルに近い、いや、上回るかもしれないものであった。


「その発想は気にいらねぇ、地獄まで詫び入れさせに行かせてやるよ」


「詫びることなんてないもねぇよ。お前ェの方こそ地獄にすら行けねぇぐらいボッコボコにしてやるよ」


ゲイルはゴードンの剣とヴェルニカの槍を使い、セインは片手剣だけを持って戦う。両者ともに傷を負っているので動きが鈍く、特に腹に穴が空き、片腕のないセインには先ほどのような動きができず、ゲイルが若干有利の戦いとなっていた。


しばらくすると、セインは時間内にゲイルを殺しきれないと判断して、撤退を決め、大きく後退して、馬のところに行く。


「作戦失敗か、まぁ2人は殺れたし上出来か」


「待てや」


ゲイルはセインに向かって槍を投げる。当たったらセインを仕留められるし、躱したとしても投擲の延長線上にいる馬にあたると判断したセインは片手剣で弾く。するとすぐにもう1つの物体が飛んできた。どうせ剣も投げつけてくると想定していたセインは難なくその物体を斬りつけるが、それは剣ではないと、斬った感覚で把握する。それは剣のような棒状のものではなく球体、それはヴェルニカの首であった。

頭を斬ったことにより血や脳髄が吹き出し、セインの視界を塞ぐ。

セインはとっさに横に跳ぶ。

すると、セインの先ほどまでいた場所に剣が通過し、馬に突き刺さる。

馬は断末魔の鳴き声を上げると倒れ伏し動かなくなる。

これにより逃げる足を失ったセインに生存する道はなくなった。


「マジかよ、ここまでやるか」


ゲイルはニヤつきながら、先程までセインが使っていた短槍を拾い上げる。


「逃がすわけねぇだろ」


ゲイルは悪魔の様に嗤う。


「散々いたぶってくれたな、オイ、ただで死ねると思うなよ」


「まぁもう死ぬことは確定したが、ただで死ぬと思うなよ」


死の確定した状態でもセインは武人として無様な姿を見せるわけにはいかないと自分を奮い立たせる。


「ファウスト国師団長、朱嵐のセイン、参る」



********************



ゲイルを救出に来た部隊はこの地獄を見て驚愕する。


「あははははは、死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェあはははははは」


笑いながら、心底楽しそうにすでに死んでいる敵兵を何度も何度も斬りきざんでいる若者がいた。

死体の表情は恐怖に彩られていて、とてつもなく悲惨な行為を行われただろうと容易に想像できるものだった。


若者は傷だらけであったが、あまりにも血まみれの状態であるため、その血が自分の血なのか返り血であるのかすらわからないほどである。

その血に濡れた姿はまるで悪魔の様で、誰もゲイルを止めるものはおらず、意識を失い倒れるまで、この惨劇は続けられた。



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