第11話 若者達の戦い
ゴードン、ゲイル、ヴェルニカの3人は、カイルの代わりに、正規兵の多い激戦区の地点の防衛を進んで志願した。
3人とも今までの戦場ほどの余裕はなく、一人倒すだけでも今までの倍以上の時間がかかり、体力の減りもまるで違う。3人はここに来て初めて本物の戦場というものを体感していた。
相手の動きを、呼吸を、考えを全て把握して、一瞬の油断もなく殺す。
少しでも気を抜けば、刎ねられるのは自分の首となるという緊張感。
ただの1対1の勝負であればもう少し余裕があったであろう。だがここは戦場であり、1人倒して終わりというわけではない。
倒しても倒しても次が来る。
戦っている相手以外の人間からの横槍が入る。
前までの余裕のあった戦場とは違い、一撃一撃に自分の命を懸けなければならない。
その状況の緊張感は今までの人生で一度もなかったことであろう。
それでも3人は一切の油断もなく、戦い続ける。
実力ならばまだまだ3人より強い兵もいるが、こと闘志だけに限ればこの戦場で最も高かったであろう。
現に3人が生き残れている理由の一つがその闘志の高さでもあるだろう。
もし、前までいた場所の時ほどの闘志で戦っていたならば、最低でも1人はもうこの戦場に立っていなかっただろう。
その誰よりも高い闘志の理由は、見たからである。
意識を失い、生きているのか疑いたくなるほどにボロボロになりながら運ばれて来るカイルと、カイルのお陰で生き残り、なんとしてでもカイルに生きて欲しいと願っている者たちを。
3人はその時、とてつもない敬意をカイルに感じた。
自分たちはこの頼もしい後輩のように、出会って少ししか経っていない仲間のために命を賭して戦うことができるだろうか。
本人は皆を救うためなどとは全く考えていなかったが、3人の瞳には、死ぬ気で仲間を守った英雄に映っていた。
そんな後輩の頑張りを無駄にしないためにも、3人はすぐにアーロンに直談判に行き、カイル抜けた穴を埋めるために代わりに激戦区への志願をした。
(カイルは命をかけて仲間を守った、なら俺らはあいつが守ったものを死んでも守り通してやる)
人間、気持ちや意識、想いの変化で、大幅に変わることができる。
3人は今までとは比べ物にならないほどの速度で成長していく。
先ほどまでは実力が均衡していた正規兵相手に、優位に立って戦えるようになり、少しずつ余裕が出てくるようになっていった。
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その頃エリックは一つの部隊の指揮を預かっていた。
「あんなガキに俺たちの指揮官なんて、アーロン大将は何を考えているんだ」
皆がいい顔をするわけがなく、エリックに対する陰口がはびこる。それでもエリックは顔色一つ変えることなくニコニコとしている。
「すみません、至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします」
笑みを浮かべつつ、ぺこりと頭を下げるエリックに皆が不満げな顔をする。
こんなガキに何ができる、ここまでは皆、そう思っていた。
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エリックの指揮のもと、戦った部隊は敵兵を圧倒していた。
エリックはアーロンの指示を理解した上で、的確に指揮をとる。
アーロンの軍の者は良くも悪くも言われたことだけを忠実に行うが、エリックはそれに、自分の策を取り入れる。
さらに大元で指示を出すアーロンもエリックにだけは、少し自由度の高い指示を出しているのが、なおさらエリックの策に拍車をかける。
敵と戦いつつ、エリックはずっとカイルに対して怒りの感情を抱えていた。
エリックは、カイルがゴードン達が考えているように仲間を守るために戦ったわけじゃなく、ただ強い奴と戦いたかっただけだと理解している。
それはどうでもいい。
仲間を守ろうが、守る気がなかろうが、出会ったばかりの仲間に対しての感情はほとんどない。
でも一つ許せないことがある。それは、自分の命を軽く見過ぎていることだ。
あいつは死戦のような場所に喜んで向かって行こうとする。
その姿はまるで、無意識に死に場所を探しているように見えて仕方がない。
(死にたいということは今の仲間やアーロンさんに全く執着がないってことです、それだけが本気で許せないんです)
そうは言っても、カイルが仲間達に執着していないのはしょうがないと思っている。
自分もカイルのことを友だとは思っているが、カイルの抱えているものを背負ってやれるほどの信頼を得ることはできていないと思っている。
それでもアーロンに執着する気持ちがないことが許せない。
あの人がどれだけカイルのことを肉親のように大切に思っているかエリックには手に取るようにわかる。
だが、カイルがその気持ちをまったくわかっていないのか、またはわかっていて、それでも死にに行こうとするのかはわからない。
それでも、アーロンがカイルを守ろうと思っているのに、死んでも生き残ろうという気概がないことそのものがエリックの神経を逆撫でする。
その怒りを推進力に変え、エリックは敵を蹂躙する。
カイル不在の状況で成長していく若者たち。
もはや敵軍が無視できないほど、その雰囲気は大きく、強くなりつつあった。カイルが復帰してからもその勢いは衰えることもなく、ヒロユス王国の若者たちの台頭を予感させる戦いとなりつつあった。