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under ground  作者: 七瀬
第1章 侵食
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1話・月宮絵梨奈

 佐久良町の外れにその建物はある。元はホテルだったのだが、今はマンションに改装されている。俺の家からも見える程の高さがあるが、耐震性は抜群らしい。内装も豪華。各部屋も広い。屋上にはプールまである。まさに地上の楽園である。

  そんなマンションの最上階に俺たちは居た。下のフロアとは違い、部屋は1つしか無い。神崎の話によると此処はパーティー等で使っていた部屋だという。何部屋かで区切られてはいたが、壁を全部取り壊して大きな空間にしたらしい。

  厳かな扉が目の前にある。神崎は軽くノックをした。

  返答が無いのを確認するや否や、ノブに手を掛ける。

  扉はゆっくりと開いた。鍵は掛かっていなかった様だ。

「入って大丈夫なのか?」

  不法進入で捕まるのは避けたいので聞いておく。

「大丈夫。彼女には今日家に行くと言ってあるから。さぁ、入って」

  (彼女……?)

  問題は無さそうだが、ちょっと引っ掛かる。

  とにかく言われた通り中に入る。広い空間にこじんまりとしたベッド、客人用の机や本棚が複数ある。

  部屋の主は丁度真ん中にあるソファで眠っていた。

「彼女が起きるまで待とうか」

  まるで人形の様な見た目だ。黒い髪は腰辺りまであるだろうか。歳は俺たちよりかなり下だろう。幼さの残る顔は幸せそうだ。

  神崎は彼女の事を話した。名前は月宮つきみや 絵梨奈えりなというらしい。中学2年生で、異世界についての調査を行っているそうだ。

  代々月宮家はそういったオカルトの研究家の家系だった様で、絵梨奈も両親の後を継いでいるのだという。

  勿論中学生だ。学校にも行かねばならない。神崎が言うには無遅刻無欠席らしい。

「僕なんかより優秀だよ、彼女は」

  そう語る神崎の目は、何処か寂しそうだった。


  暫くすると、絵梨奈が目覚めた。

  俺たちをボンヤリ眺め、第一声。

「おはよう、ございます……?」

  澄んだ響きと年相応の可愛らしさを併せ持つ声だ。

  絵梨奈は立ち上がり、ふらふらと何処かへ行く。顔を洗いにでも行ったのだろう。

「絵梨奈さん、寝起きはいつもああなんだよ。まぁ、直に状況を把握するだろうさ」

  トコトコと絵梨奈が戻ってきた。改めて俺たちを眺める。

「先程はボンヤリしていました。私、月宮絵梨奈と申します。貴方方は綾人さんが話していた葉山修平さんと加藤真衣子さんですね?」

「ああ」

「そうだよ」

  絵梨奈はソファに腰を下ろす。

「綾人さん、お2人には何処まで?」

「全く」

「なるほど……」

  神崎と短い会話を交わし、絵梨奈はまた何処かへ行く。

  数分後、ノートを持って戻ってきた。

 表紙には【異世界】の文字が見える。

「話を始める前にお茶を淹れましょうか」

「絵梨奈さん、僕が淹れるよ」

「ではお願いします」

  絵梨奈はノートを開く。1ページ目には新聞記事が貼り付けられていた。

「これは今から2年前の新聞記事です。佐久良町で不可解な現象が起きたというニュースが記されています」

  まず『海に大きな穴が!』という見出しと写真が目に入る。海に突然巨大な穴が開き、その中は何も見えなかったと書かれている。確かに写真の穴の中には何も無い。あるのは暗闇だけだ。

「この穴の中は完全な空洞になっていて、内部には何も無い、と思われていました。ですが……」

  今度はとある雑誌を取り出す。表紙には『佐久良町の海に現れた巨大な穴は異世界への入り口だった!?』と物凄い胡散臭さで記されている。オカルト雑誌の様だが、見たことは無い。

「この雑誌の海に現れた穴についての記事は私の父が書いたものです。父はこの穴の淵まで近付いたそうですが、危うく取り込まれそうになったと言っていました」

「取り込まれる……?」

「引き摺り込まれるという表現の方が正しいかもしれませんね」

  底の見えない穴に引き摺り込まれそうになりながらも、記事を書いたのか。好奇心かはたまた探究心か。

「穴は3日で消え去りました。父はあの穴は異世界への入り口だと疑いませんでした。実際はその雑誌の様に、世間には受け入れられていません。書店にも並ばない雑誌ですからね」

「絵梨奈さんのお父さんは世界各地を飛び回っているんだ。年に1度帰ってくるか来ないかだけど、面白い人だよ」

  寂しそうな絵梨奈を見兼ねてか、神崎がフォローに入る。

  絵梨奈は雑誌を棚に戻し、再びノートを開いた。

「私と綾人さんは異世界の研究を行なっています。成果は余り得られていませんが、漸く掴めそうなのです」

「最近になって不可解な現象が相次ぐ様になってね。関連性があるんじゃないかと、目下調査中なのさ」

「その異世界とやらとあの黒い幕は関係あるのか?」

「黒い幕……?」

  絵梨奈は知らない様子だ。

「絵梨奈ちゃん。下校中にね、黒い球が現れたの。それが大きく広がって幕になった」

  真衣子が分かりやすく説明する。

「黒い球……ですか。これは新しい現象ですね」

  と言ってノートに書き加えていく。

  その後、異世界の存在が確認されている事。だが、その内部構造は判明していない事。不可解な現象が頻繁に起きるのは異世界への道が生まれるサインであるという事を教えてくれた。

  つまりは佐久良町に異世界が生まれる日も近いという事であろう。ただ、いつ生まれるかの絞り込みは出来ないという。

「生まれた場所は空間が歪んでいるので分かるのですが、いつ生まれるかは不確定なのです。明日かもしれないし、1か月後かもしれません。更に異世界は外部からは干渉出来ません。内部に入るには取り込まれるしかないのです」

  外部からの干渉が出来ない……異世界に取り込まれればに入れるって訳か。

「とにかく予測が難しいんだ。だから出来るだけ情報を集めようと思ってね。君達にも協力して貰いたいんだけど、どうかな?」

  神崎の誘いに俺は、

「協力する」

  乗った。何故なら異世界に興味が湧いたからだ。

「……あまり危険な考えは起こさない様にね。で、真衣子さんは?」

「修平を止めるのが私の役目なんだろうけど……無理そうだし、協力するわ」

  諦められてしまった。

  という訳で、俺と真衣子は異世界の調査を行う事になったのだった。

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