9話・彼女の居場所
屋敷外へ出て、王都の状況を確認。ゲートを繋げ、内部へ侵入。
そのまま隠れ家へと向かう。
「エレナさんとバートリーは隠れ家に居るんだよな?」
「あぁ。屋敷の崩落と嬢ちゃんが攫われた事はもう伝わってる筈だ」
道中も警戒しながら歩みを進める。
屋敷の場所が割れているのならば、俺たちの動向も監視されているかもしれないからだ。
だが、奇妙な点がある。
衛兵が1人も王都に居ないのだ。
まぁ、本来警備する役目である衛兵が居ないだけで魔獣はそこら中を彷徨いているのだが。
「衛兵を叩きのめして居場所を吐かせたかったんだが……」
「衛兵が居ないんじゃ無理だよな……」
大方、ロズウェルの元に集まっているのだろう。当然其処にはフェリアも居る筈だ。
「嬢ちゃんなら隙を見計らって抜け出せるかもしれねぇが、ロズウェルが手を打ってるだろう」
「厳しいな……」
漸く隠れ家の近くまで辿り着いた。目の前の角を右に曲がれば隠れ家のある通りだ。
前を歩くロベルトが突然歩みを止めた。
「……どうした?」
「誰か居る」
それだけ言うと腰から剣を抜き、ゆっくりと角を曲がる。
「……少年、大丈夫だ」
直ぐにロベルトが戻ってきた。どうやら衛兵の類では無かったらしい。
「誰だったんだ?」
「付いて来い」
再び角を曲がるロベルトに続く。隠れ家の扉の前にサリーと緑色のローブを纏った男が立っていた。
「ロベルトさん、こんにちは」
「おう」
男、というよりは少年と表現した方が正しいかもしれないが、とにかくそいつはロベルトを見るや否や目を輝かせていた。
「シュウ、こんにちは」
「サリー、こいつは?」
「アドルフっていうんだけどね。うちの優秀な術師だよ」
アドルフはサリーの方を見てオドオドしている。本当に優秀なのだろうか。
そこで地面に横たわる物に気付く。
「……これ、魔狼か?」
「えぇ、魔狼です。ロベルトさん、短剣あります?」
「あるぞ」
ロベルトは腰に差した短剣をアドルフに手渡す。アドルフは受け取るや否や、短剣を魔狼の胸の部分に突き刺した。
「……お前、何して」
「少々残酷ですが……仕方ないんですよね」
そう言いながら短剣をグリグリと動かしている。
「……なぁ、ロベルト」
「ん?どうした少年」
「こいつ、大丈夫なのか?」
そう聞いたのは味方と考えて良いのか、という意味なのだが、ロベルトは上手くその意図を汲んでくれた様だ。
「心配するな。心強いぞアドルフは」
「なら良いけど……それにしても」
魔狼の心臓を取り出したかと思えば、今度は血で魔方陣を書いていやがる。
「……こんなもんですかね。皆さん、準備出来ました」
得体の知れない記号やら図形やらで描かれた魔方陣の中心に魔狼の心臓が置かれている。勿論、鼓動は止まっている。
「これで出し抜ければいいんですけど……」
「アドルフ、まさか自信無いのー?」
「あ、ありますよっ!」
サリーに茶化されるアドルフだが、すぐに魔狼の心臓に向かい手を翳した。
「……」
目を瞑り、深呼吸をする。周りの空気が張り詰めていく様に感じた。
アドルフはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「対象は魔狼。媒介はその心臓なり」
心臓が蠢き出す。ドクンドクンと脈を打ち始める。
「我が意に応え、顕現せよ」
血管、骨、肉、皮膚が作られていく。脚が生え、牙が生えたそれは紛れも無い魔狼その物であった。
「……ふぅ、ここまでは上手くいきましたね」
アドルフは魔狼に触れながら、一息ついている。
俺は魔狼の死体と生み出された魔狼を見比べた。全く違いが分からないが、完全に同一と考えていいのだろうか。
「アドルフ。その魔狼はロズウェルの野郎が従えてる魔狼と同じなのか?」
こういう時は本人に聞いてみるのが一番だ。
「えぇ、同一の個体ですよ。中々成功しないんですが上手くいって良かったですよ」
「優秀なんだけど、召喚術に関しては成功率五分五分だからね。まぁ、でも……ようやくこれで」
「ロズウェルの野郎の居場所を突き止める手段が出来たって事だな」
俺はこの時確かな高揚感を感じていた。今なら全てが上手くいきそうな気がしていたのだ。
「では、サリー」
「ちょっと待ってね〜」
サリーが魔狼の眼にそっと触れる。魔狼は身動き一つ取らず、従順なままだ。
「視界共有完了だよ。後はこの子に任せよう」
そう話すサリーの目は薄っすらと蒼く光っていた。
「じゃあ、作戦始動と行きましょう。魔狼の視界はサリーが共有、魔狼自体は他の魔狼達に紛れて動いて貰います」
魔狼はアドルフの言葉をしっかりと聞いている様に見える。こいつ自体に意思があるのかもしれない。
そこが多分ロズウェルが従えている魔狼とは違う点なのだろう。
「この魔狼の思考は人間と同等にまで引き上げられています。先程の召喚の際に掛けておきました」
「でも、この方法は諸刃の剣。少しでも行動に違和感があれば始末される。それで私達の隠れ家が看破される可能性がある」
それはそうだろうな。魔狼達はロズウェルの命令に忠実なのだから、それに反した動きをした時点で消されるのは目に見えている。
「だから突き止め次第、この魔狼の役割は終わりです」
「俺達が居場所を知る為の、謂わば囮だな。だが、忘れんなよ。嬢ちゃんの居場所も突き止めなきゃなんねぇぞ」
そうだ。ロズウェルの件は魔狼に任せるとして、フェリアはどうするんだ?
同じ場所に居るとは限らないし……
「それなら、もう動いて貰ってますよ。キルシュバウム全体に使い魔を放ちました。じきに連絡がありますから」
「流石だな、アドルフ」
使い魔はキルシュバウム全体に散らばり、捜索をしているらしい。見つからない様に不可視の術式を組み込んであるとアドルフは言う。
「言った側から来ました。ご苦労様です」
小さい妖精達がアドルフの側に現れた。妖精達はアドルフに耳打ちをし、消える。
「フェリアさんが捕らえられている場所……は……」
アドルフの言葉が止まる。
「何処だ?おい、アドルフ!?」
ロベルトがアドルフの肩を揺する。アドルフは独り言の様に呟く。
「……見つからなかった?キルシュバウムの果てに黒い穴があっただって……?穴の手前にはフェリアさんが持っていた魔石が落ちていた……?その先には山が見えた?フェリアさんは何処に……?まさか、その穴の中に……?」
妖精達から受け取った情報だろうか。ブツブツと呟いている。明らかに混乱している様子だ。
黒い穴。フェリアの持っていた魔石が落ちていた。穴の先は山。
「……まさか」
「少年、思い当たる事があるのか!?」
その結論に至った瞬間に、俺は屋敷に向かい走り出していた。
「少年!!」
ロベルトの声を無視する。
もし、俺の考えが当たっているのならば、今すぐ佐久良町に戻らなければならない。
フェリアは、佐久良町にいる。




