8話・再びの王都へ
声の主はロベルトだった。左腕に大きな傷が見える。更にそこから血が流れ出している。顔色も悪い。だが、生きている。
とにかく下へ降りよう。足を踏み込み、屋敷から離脱する。
移動術も中々様になってきたものだ。
「少年……何処にいたんだ?血塗れじゃねぇか……怪我してるのか?」
「いや……これは華蓮の……」
「カレンに何かあったのか……?」
それから俺は華蓮が殺された事を話した。あの惨状を思い出してしまい、つっかえながら話したから上手く伝えられたかは分からない。
「……そうか」
「そういえば、お前の魔術で助けられないのか?ヴァルゴに殺された俺を助けた様に」
答えの代わりにロベルトは強く拳を握り締める。
「カレンの部屋に行く……」
それだけ言うと、ロベルトは姿を消した。俺も後を追う。
華蓮の部屋に戻って来た。静寂に包まれる中、ロベルトはゆっくりと扉を開いた。
噎せ返るような血の臭い。部屋を埋め尽くす肉や骨。一面の赤。其処に転がる華蓮の首。余りにも無惨な光景。
一歩、踏み込んで行く。ピチャリと不快な音がした。
「……ひでぇな」
それだけ呟くとロベルトは華蓮の首に触れたと思った瞬間に、
「……!?」
突然腕を引っ張られ、外へ連れ出された。
「なんだよっ!どうしたんだよ!?」
「……カレンを助ける事は出来ない」
無感情な声だった。俺はロベルトの肩を掴む。
「理由は!?」
「……」
「黙ってんじゃねぇよっ!!」
何度も何度も揺する。ロベルトの目は遠くを見ている様だった。
「……あれはもうカレンじゃない。別のモノだ」
「……は?じゃあ一体」
華蓮じゃない?別のモノ?
だとしたら何だというのか。
「大規模な魔術の構成要素だ」
「……そんな」
殺された挙句に魔術に利用されるというのか。そんな事が許されるのか。
「どうしようもない。お手上げだ」
俺自身に救う手立ては無い。頼みの綱であったロベルトも諦めてしまった。
「くそっ……!!」
誰が殺したんだ。誰が大規模魔術の構成要素にしているんだ。
王都の連中か?屋敷の奴等か?外の人間か?
突き止めなければならない。突き止めて、俺はそいつを殺してやる。
「……同じ気持ちだよ、俺も。少年とな。あぁ、そうだ。少年が居ない間の話、してなかったよな」
静かに怒りを滲ませたロベルトはゆっくりと話し出した。王都での作戦が終わり屋敷に帰って来た後の事だ。
エレナさんとフェリアと共に屋敷を回っている最中に異変に気付いたらしい。
「魔力の気配がしたんだ……俺たちは直ぐに屋敷の皆に避難する様に言って回った」
だが、既に遅かった。屋敷の右半分がとてつもない音と共に爆発し、逃げ遅れた人達が瓦礫に押し潰された。
ロベルト達は爆発の衝撃により屋敷から外へ吹き飛ばされたらしい。
既に屋敷外に出ていた皆は軽傷だったそうだが、ロベルト、フェリア、バートリー、エレナさんは重傷を負った。
それもロベルトの治癒術で何とかなったらしいが、ロベルト自身の傷はまだ塞がっていない。それにロベルトの表情も暗いままだ。
「姐さんとバートリーは隠れ家に向かった。嬢ちゃんは……」
更に屋敷の崩落で混乱している中、フェリアが何者かに攫われたという。
「攫われたって……」
「十中八九、衛兵の仕業だろう……ロズウェルには屋敷の場所が割れていたみたいだ。してやられたよ……」
となると俺たちが王都で作戦を行なっている最中に結界を破り屋敷に侵入し、爆発の起点となる物を仕掛け、結界を貼り直して去っていた人物がいるという事になるのではないか。
「爆発の原因は何なんだ……?」
「……これだよ」
ロベルトは地面に散らばる黒く焦げた破片を手に取る。石の様に見えるが、まさかー
「魔石、か……?」
「あぁ。魔力の暴発に寄る爆発だったんだ」
確かロベルトが言っていた。魔力を込めて砕くと、とてつもない衝撃を生み出すと。
「じゃあ、仕掛けたのは」
「……まぁ、魔術を知らない奴等の仕業じゃねぇわな」
となると、屋敷に居た人間の可能性が高いという訳か。
それも突き止めなければならない。
そしてフェリアも救い出さなければならない。華蓮の様になる前に。
あんな無惨な末路に至る前に。
「行こう……」
「あぁ。どの道此処には居られねぇ」
俺たちは、屋敷を出て王都へと向かうのだった。




