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under ground  作者: 七瀬
第2章 王都攻略
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6話・一ノ宮華蓮

 佐久良町に帰ってきた。木から降り、携帯を確認すると、1日半経っているのが分かった。あちらの時間の流れは現実世界と変わらないらしい。

 メールやら電話やらの通知が沢山来ているが、殆どが真衣子と美鈴からだった。連絡をしてやらねばならない。

 が、取り敢えず裏山を降りてからにしようと歩き出した時、人を見つけた。

(あれ……?)

 なんか見覚えがある。あのパーカーは多分、華蓮ではないだろうか。

 てっきり屋敷に居ると思っていたのだが。声を掛けてみる。

「華蓮」

「……!?」

 華蓮はビクッと震え、ゆっくりと振り向く。

「あ……修平、さん」

「よぉ。此処に居るって事は、ゲート直せたんだな」

「……えぇ、直せました。ちょっと座標を間違えて……空中になってしまいましたが……」

 なるほど、それでか。

 そうだ。先程あった事を伝えておこう。

「屋敷の華蓮の部屋に入ったら、真っ暗でさ。んで、黒い腕が現れたんだ。この魔石で無事に切り抜けたんだけど、その後急に引っ張られる様な感覚がして気付いたら此処に来てた」

 華蓮は俺の目を見ながら聞いていた。

 そして、ゆっくりと口を開く。

「引っ張られる感覚は……ゲート特有の物ですよ。最初は結構キツイですが、慣れてしまえば気にならなくなります」

 あれはジェットコースターに乗っている様な感じだった。但し速度は別だが。

「そうか。で、佐久良とキルシュバウムは繋がってるって事で良いんだな?」

 現に転移してきたからそうなんだろうが、一応確認する。

「えぇ。お屋敷の私の部屋に繋がっていますよ」

「あと佐久良からキルシュバウムに戻るにはどうすれば?」

「その魔石を使って下さい。ゲートはこの場所で開けと念じれば開きます」

 と、華蓮は空中に手を翳した。

 すると、先程の場所に黒い穴が現れた。

「と、こんな感じです。では……私はお屋敷に戻りますね」

 魔石を穴に近付けると、華蓮の姿は消えた。穴も既に消えている。

「魔石……無くさないようにしないとな」

 と、そういえば皆に連絡をしないとだった。

 携帯を取り出し、真衣子に電話を掛ける。

「もしもー」

『もしもし!修平!?何度も連絡してるのに何で出ないのよ!ていうか、何処にいるの?』

 大声で捲し立てられる。耳が痛い。

「後で詳しく話す。明美と神崎と絵梨奈に喫茶店に来る様に伝えてくれ」

『分かった。美鈴ちゃんには電話したの?』

「これからするよ。じゃあ、また」

 電話を切り、山を下ろうとしたが鞄を持っていないのに気付く。屋敷の部屋に置いたままだった。

 財布は……大丈夫だ。ズボンのポケットに入っている。服は学生服しかないので着回していたが、洗濯はしているのでこちらも問題は無いだろう。

 わざわざ取りに行くのも面倒だし、このままでいいか。どうせ戻るし。

 暫く歩いて中腹の辺りで小さな矢倉を見つけた。立ち止まって眺める。何だか分からないが妙に懐かしく感じる。

(……っつ!)

 ズキッと頭が痛む。思い出せそうで思い出せない。靄が掛かったままだ。

「……行くか」

 そう呟き、この場を後にした。


「いらっしゃい。って修平か。奥の個室だ」

「ありがとう、マスター」

 喫茶店に入るなり席を案内してくれたマスターに頭を下げつつ、個室の扉を開く。真衣子、明美、神崎、絵梨奈が待ってくれていた。

「……皆、久しぶり」

 一瞬の静寂。そして、

「修平!!」

「うおっ!!」

 真衣子が抱きついて来た。人目も憚らずに涙を流しながら。

「馬鹿!心配したのよ……急に居なくなるからっ……!」

「……ごめん」

「とにかく無事で良かったよ、修平君」

「何処行ってたのー?真衣子、大変だったんだからね」

「詳しく聞かせて下さい、修平さん」

 口々に喋り出す3人を諌めて、席に座る。マスターがいつもの珈琲を持ってきてくれた。

 一口飲んでから、俺はアンダーグラウンドではなくガルシア大陸・キルシュバウム王国の話を始めた。

 隣町との境にある踏切に立っていた女の子を助けようとして転移したところから、ゲートを伝い佐久良町に戻って来るまでをだ。

「……信じられないわね」

「証明ならある」

 そう、写真を携帯で撮ったのだ。屋敷の部屋と部屋からの王都の写真だけだが、画像を見せれば信じざるを得なくなるだろう。

「写真があるのなら信じない訳にはいかないわね。キルシュ……バウムだっけ?」

「ああ。ガルシア大陸キルシュバウム王国だ」

「ロズウェルという王が支配していると君は言ったけど……」

「フェリアさんって可愛い?」

 矢継ぎ早に質問されててんやわんやだ。そんな中、絵梨奈がポツリと呟く。

「修平さん……そのキルシュバウム王国とは直接関係ないかもしれませんが……一ノ宮華蓮という子をご存知無いですか?」

 それは予想外の質問だった。


「華蓮?絵梨奈、知り合いなのか?」

「はい。私の数少ない親友です。急に連絡が途絶えた物ですから気になりまして……」

「いつから?」

「2年程前から、でしょうか」

 親友だったとは驚いた。幸いにして俺はあちらで華蓮に会っている。

 その事を伝えると、絵梨奈は安心した様だ。

 しかし、2年程前というのが気になるが、今は突っ込まないでおこう。

「ところで修平君、ちょっといいかな?君はゲートを伝って帰って来たそうだけど……」

「華蓮が言うにはこれが必要らしい。原理は分かんねぇけどな」

 ズボンから魔石を取り出す。皆は物珍しそうに眺めている。

「こんな石でねぇ。で、修平はキルシュバウムに戻るの?」

「うーん……」

 フェリア達に協力したいのは山々だが、俺は高校生だ。学校に通わなければならない身分なのである。

 学生生活をほっぽり出してキルシュバウムに行くか、学生の本分を全うするかの2択。

「すまん。暫く休学するって伝えといてくれ」

 結局俺はキルシュバウムに戻る事を選んだ。

 あの時、黒い穴に飛び込もうとしたのは間違いなく異世界への憧れからだったからだ。行ってみたいとそう思ったからだ。学校とどちらを選ぶか。そんな物は決まっていた。

「それはいいけど、修平君。前に危険だと忠告はしたよね」

 神崎が苛立ちを募らせる。

「分かってるよ。実際危険な目に遭ったしな」

「だったらー」

「だったら何だよ」

 自分でも驚く位に低い声が出た。神崎は一瞬怯んだが、絞り出すように話し出す。

「今、君を動かしているのは異世界への渇望だ。日常ではなく非日常を望み始めているんだよ」

 その通りだ。つまらない日常より刺激的な物を求めた。それ故の行動だ。

「君が居なくなって真衣子さんや明美さんや妹さんがどれだけ心配したと思ってるんだい?」

「……さっき謝っただろ」

「その言い方は無いんじゃない?」

 明美が口を挟む。無性に苛立つ。こいつらの話を聞くだけ無駄だ。


 一刻も早く、キルシュバウムに戻らなければ。


 俺の頭にはそれしか選択肢が浮かんでいない。席を立つ。

「とにかく俺はフェリア達を手伝う。止めようなんて思うなよ」

「どうして、手伝いたいと思ったんだい?」

 神崎のその問いに、俺はこう返す。

「……どうしてって、面白そうだからに決まってるじゃねぇか」

 そう。面白そうだから。

 フェリア達の存在そのものが。

 彼女達が目指す目的が。

 あの世界の全てが。

「……面白そうだから、ね。なら僕は止めないよ」

「……は?」

 何だこいつ。止めないだと?さっきと真逆の事言ってるじゃねぇか。

「いやいや勘違いしないで欲しいんだけどさ。止めるのは、僕の役目じゃないってだけだよ」

 パンッと乾いた音が響き、頬に痛みを感じた。

「……真衣子?」

「頭冷やしなさい、馬鹿」

 スウッと頭の芯が冷えていく。徐々に冷静になっていく。

「……すまん」

 だが、俺はー

「俺はキルシュバウムに戻りたい。かといって別に佐久良に帰って来なくなる訳じゃない。あっちが一段落したら戻って来るから」

「……まぁ、そう言うだろうとは思ってたわよ。だから、1つだけ約束」

 真衣子がそっと抱き付き、耳元で囁く。

「私の元に必ず帰って来る事。いいわね?」

 その声は震えていた。


「お前ら、人の店で何してんだ」

「うわぁあぁあぁあ!!」

 俺と真衣子が抱き合っているのをマスターが扉の隙間から見ていた。

 直ぐに離れて席に座る。全く心臓に悪い。

「そういう行為は然るべき場所でしろってんだ。ったく」

 それだけ言って去っていくマスターであった。

「そうだ、修平君」

「ん?」

「一ノ宮財閥の噂、知らないかな?」

 そう言いながら携帯の画面を見せる神崎。ゴシップ記事を纏めたサイトの様だ。そこにはこう書いてあった。

「一ノ宮財閥は裏の顔を持っている……非人道的な実験を行なっているとの噂が……何だこれ?」

「昨日、この記事がサイトに上がってね。僕もこの噂については知らなかったから驚いたよ」

 だが、噂は噂だろう。非人道的な実験だなんて行なっている筈が無い。一ノ宮先輩や華蓮が加担しているなどとは考えられない。

「このサイト、ガセネタだらけで有名なとこよね?」

「あたしも知ってる!」

 ある意味で有名なサイトらしい。上げられている記事は9割方ガセだが、中には真実も混ざっていると神崎は話す。

「だからこの噂が真実の可能性もある訳だ。一応調べておくよ」

 それは勝手にすればいい。俺は別に興味無いし。

「修平さん、そろそろ戻るのですか?」

「ん?あぁ、そうしようと思ってた」

「そうですか。私達の心配は要りませんから、存分にあちらでの使命を全うして下さい。待っています」

 ほんと良く出来た娘だ。俺は絵梨奈の頭を軽く撫で、個室の扉を開けた。

「じゃあ、行って来る」

 それだけ言って俺は喫茶店を後にした。

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