5話・不意の帰還
騎士ヴァルゴの死体を残し、俺たちは隠れ家へと戻った。その間、サリーが衛兵の視界を盗み王の居場所を突き止めようとしたらしい。
だが、王都南側まで来たところで視界が途絶えたのだという。
「殺された可能性が高いけど断定は出来ない。王の居場所については王都南側だと推測されるけど、これもまだ不確定だね」
手掛かりは得たが、罠かもしれないし迂闊には動けない。取り敢えずはまた情報を集めなければならない。
そういう結論になり、俺とフェリアとロベルトは隠れ家を出て、屋敷に戻る。
その道中、
「フェリアは、その……王族なのか?」
気になっていた事を聞いてみた。
「そうよ。ルーカス・アルシオン……先代の王の娘だから、私」
フェリアは俺の方を見ずに答える。
「フェリア・アルシオン。それが嬢ちゃんの名だ。本来なら俺みたいな庶民が関わる事の無い人間なんだ。だけどー」
ロズウェルの非道な振る舞いにより、国は廃れた。かつては賑わっていたであろう王都も、今や死の臭いが蔓延している。
「全ては2年前、ロズウェルが現れてから……そこから狂い出した。お父様を処刑し、その臣下も同じ様にされた」
王の姿を見る事が出来るのは、王直属の騎士と衛兵だけらしい。
民衆の前には一切姿を現さず、反抗する者を無造作に処刑する。
そんな奴が王であっていい筈がない。
「……こんな国、やっぱり壊すしかないのよ」
唇を噛み締めながら、フェリアは呟いた。
結界が張られた森を抜け、屋敷の門を潜ると、誰かが立っているのが見えた。
赤髪の長髪、腰に下げたナイフ、何処かの傭兵みたいな出で立ちをした人だ。性別は多分、女性だろう。
「なぁ、フェリア。あの人は誰だ?」
「やっと帰ってきたのね」
「前に言ったろ?屋敷の主だよ」
ご厄介になっている身なので、挨拶はしておかないとな。ちょっと怖いけど。
そっと後ろから近づき、声を掛けてみる。
「あの……」
「……!」
屋敷の主は振り向くと同時に腰から抜いたナイフを突き付けてきた。
じっと鋭い目で射抜かれる。明らかに敵意が滲み出ている。
(どうにかしてくれぇ!)
此処に来てから災難に遭い過ぎている気がしないでもないが、俺は別に悪い事をしている訳ではないのだ。
理不尽という物だ、全く。
見兼ねたのか、フェリアが溜息を吐いた。
「姉さん。敵じゃないから」
「……へ?」
間抜けな声を出した屋敷の主はナイフを腰に戻し、俺を見つめる。フェリアに似た端正な顔立ちだ。まぁ、断然こちらの方が大人だが。
「あ、あはは……いやー、ごめんね。あたしってばついつい……ていうか、フェリアもロベルトも久しぶり」
「全く……」
「お久しぶりっす、姐さん」
先程の敵意は綺麗さっぱり消え去っていた。
「で、フェリア。誰なの?」
「えっと……その……キルシュバウムの外から来た……」
そこからは俺が引き継ぐ。
「葉山修平といいます。宜しくお願いします。フェリアのお姉さんで、いいんですよね?」
「なんか珍しい名前だね。シュウと呼ぼうかな」
フェリアと呼び方が被っている辺り、やはり姉妹といったところか。
「で、キルシュバウムの外から来たって本当?どの辺りかな?サグワルド?それともマリガルン?」
流石にガルシア大陸の外から、とは言えないな。出来るだけ怪しまれたくは無いしここは……
「東の果てから、です」
バートリーの時と同じく誤魔化しておこう。
「ふーむ……まぁ、いいや。フェリア達と一緒に居るなら問題ない問題ない。あ、自己紹介が遅れたね。あたしはー」
一息ついて、
「エレナ・アルシオン。よろしく」
エレナさんは笑いながら手を差し出した。
「ーってな訳で色々な国を回ってたんだけどね」
エレナさんはロズウェル打倒の協力を求めて、度々キルシュバウムを離れて旅をしていたそうだ。
「取り敢えず2国増えて、同盟を結んだのは5国になった。ガルシア大陸の中心の国の王が好き勝手やってるのが気に入らないらしくて」
大陸の中心の国だというのは初めて聞いたな。そんな国の王が平気で人を殺す様な奴なのだ。協力は取り付けやすいのだろう。
だが、中にはロズウェル派の国もあるという。あんな奴の所業を肯定する人々が居るのはどうしても解せない。
「因みに増えたのは何処?」
「リュートとアラム」
俺には全く何処にある国だか分からないが、フェリアとロベルトはその国の名前を聞いて顔を見合わせた。
「心強い味方が増えたわね」
「リュートには竜人が居るしな。アラムは……よく知らねぇけど」
王政打倒に関しての準備は2年前から水面下で着々と進んでいた。
「今までは様子を見ながらだったし、王都に潜入するのも控えてたけれど、ようやく動けそう」
「姉さんは暫くキルシュバウムに居るの?」
「うん、そのつもり」
だが、問題がある。ロズウェルの居場所が割れていない事だ。
これについては、暫く時間が掛かりそうだな。
「そういえば、フェリア達どっか行ってたの?」
「王都の中心部に」
「成果は?」
「ロズウェルが南側に居るらしいって事が判明した位」
それすらも怪しいが。
「進展無しと考えるべきね。さて、屋敷の皆はどうしてるかしら〜?」
エレナさんは俺たちを置いて屋敷へと入っていく。
俺たちも後に続いた。
エレナさんはフェリア、ロベルトと共に屋敷を回っている。久々に帰ってきた事もあり、様子を見たいのだろう。
そんな中俺は、華蓮の部屋の前に立っていた。
ゲートはどうなっているか、確認をしておきたかったのだ。
軽くノックをする。
(……あれ?)
何の反応も返ってこない。
もう一度ノックしてみる。だが、結果は同じだった。
ドアノブを回す。鍵は掛かっていない。
ゆっくりと扉を開き、部屋に入る。扉が閉まる。
「なっ……!」
その瞬間、辺りが闇に染まる。何も見えない。何も聞こえない。
やがて深い深い闇の中に、幾つもの腕が現れる。そして不気味な笑い声が響く。
あの時と同じだ。
(くそっ……!何か、何か無いか……?)
ポケットを漁る。硬いものに手が触れる。多分ロベルトから貰った魔石だ。
腕は俺を掴み、闇へと引き摺り込もうとする。
魔力を門から魔石へと流す。魔石が輝き始める。
(一か八かだ……!喰らいやがれっ……!)
閃光が轟く。その閃光は矢となり無数の腕を射抜き、射抜かれた腕は叫び声をあげながら霧散していく。
効き目はあったらしい。
だが、それが間違いだったのかもしれない。腕が消えていくのを眺めていると、突然身体が前方へと引っ張られた。それももの凄い速度で。
(何だっ……!止まらねぇっ……!)
堪らず目を瞑る。
その直後、フッと身体が止まった。
いつの間にか白い光は消え、辺りは木に囲まれていた。
「ここは……って、やばいっ!!」
身体が宙に浮いていた。いや、地面から数メートル程度だが。
このままでは落ちて怪我をするだろう。近くに生えている木の枝を掴む。太いので落ちる心配は無いだろう。
「……ふー、危なかった」
改めて周りを見渡す。というか見渡さなくても、ここは知っている場所だ。
そう、ここは佐久良町の裏山。
俺はキルシュバウムから帰還したのだった。




