3話・作戦開始
奥に座る老人の顔には傷がある。目付きも鋭い。よく見ると身体もかなりがっしりとしている。更にハンマーらしき物を持っているので威圧感が半端ではない。
殴り殺されるのは勘弁だぞ……
「お爺様。お久しぶりです」
「おぉ!フェリア、久しぶりじゃな!ロベルトも元気にしておったか」
「元気っすよ、爺さん」
あれ?意外とフランク?
「ん?その小僧は?」
爺さんが鋭い目付きで俺を見る。警戒、されてるんだろうか。まぁ、そりゃそうだよな……
「彼は、ハヤマ シュウヘイ。ガルシア大陸の外から来た人間です」
「……外から。これは珍しいが……我々に仇なす者ではないだろうな?」
一歩も動けない。この爺さんを俺は恐れている。口を滑らせたら殺される。
「大丈夫です」
「……フェリアがそう言うのなら大丈夫じゃろう」
スッと殺意が消え去る。爺さんはにこやかに笑いながら、
「今からお前さんはワシらの仲間じゃ。宜しく頼むぞ」
握手を求めてきた。傷だらけの大きな手を握り返す。
「宜しくお願いします」
「うむ。シュウヘイと言ったか。お前さん、魔術の心得はあるのか?」
フェリアとロベルトの講習のお陰で、それなりには使える様にはなっている。いざ実践となると不安ではあるが。
「一応は」
「それならば問題無い。衛兵共に対しては魔術が非常に有効じゃからな」
衛兵は魔術への対処が出来ないと、フェリアから聞いていた。上手く撹乱すれば城に近付けるかもしれない。
「懸念すべきは魔獣じゃな」
中心部に居るという魔獣。犬や猫という事はあるまい。となると、まさかドラゴンとか……?そんなのが居たらどうすればいいんだ。
「魔獣の姿は確認出来たのですか?」
「サリーが見ておる」
サリーと呼ばれた女性が此方へやって来る。金髪のショートカットで少年の様な容姿をしている。
「こっそり中心部まで近付いてみたんだけどね。魔狼がウヨウヨ居たよ」
「よりによって魔狼かよ……」
ロベルトの反応はあまり良くない。魔狼というからには多分狼なんだろうけど……
「素早い上に鼻も効くし……まぁ、でも魔狼程度なら問題無いわ」
「何回もやり合ってるしなぁ。臭いは覚えられてるだろうが」
「とにかく行ってみるしかないわね。シュウ、貴方も魔獣との戦いに慣れておいて」
と言われても付け焼き刃の魔術でどうにかなる物なのだろうか。
「少年はとにかく自分の身を守る事だな。戦闘は俺たちに任せろ」
それしか出来ないしなぁ。ロベルトの言う通りにしておこう。それが最善だ。
「あー……そうだったわ。シュウには攻撃手段が無いんだった。今回は私たちが出張るしかないのね」
そう言いながらフェリアはガサガサとそこらへんを漁っている。覗いてみると何やら石を手にしていた。転移結晶とは形が違う。
「それは?」
「これ?魔石よ。丁度切らしてたから補充しておかないとねー」
「魔石っつうのはな。魔力を閉じ込めた石だ。魔力を込めて砕くと、とてつもない衝撃を生み出す。中に込められた魔力と流し込んだ魔力が混ざって放たれるんだ。勿論割らなくても魔獣相手なら撹乱に使えるし、沢山持ってて損は無い」
見ると赤やら青やら様々な色の魔石があるのに気付く。
「すぐ切らしちゃうからいけないのよね。ん〜、でもまだ結構あるから暫くは大丈夫そう」
「少年も持っとけ」
フェリアは両手に抱えた魔石を麻袋に詰め込み、ロベルトはその中から俺に魔石を渡す。白色だが、どんな効果なのだろう。
「さて、そろそろ作戦開始といきましょうか」
そう告げると、皆が動き出す。剣を持つ者、杖を持つ者、棍棒や鉈や斧といった物騒な武具を持つ者。はたまた徒手空拳の者まで。それぞれが外へと向かう。
「皆、衛兵達に見つからない様に上手く中心部に忍び込んで。お爺様も、よろしくお願いします」
「任せておけ。衛兵など相手にならんわ」
爺さんは軽口を叩きながら、ハンマーを振り回し歩いていく。その姿には余裕すら感じた。
「少年。俺たちも行こうぜ」
「私たちは別の道から向かうわ。着いてきて」
不思議と気分は高揚していた。佐久良町にいる時よりも俺は楽しんでいる。普通の生活に飽き飽きしていた俺が望んでいたのは正にこういう世界だったのだ。
【それは危険な思考だよ】
異世界に興味を持った時に神崎に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。確かにそうだ。そんな事は分かっている。
だが、俺はもう少しだけこの世界で過ごしたい。確かにそう思っている。
本当に、救えない馬鹿だったのだ。
気付いた時には既に遅く、
後悔してもしきれない。
そんな未来が待っているとも知らずに、俺は意気揚々と、フェリアとロベルトに着いて行った。




