14話・1日の終わり
「おかえりなさい……修平さん」
「……ただいま」
黒い腕、耳触りな嗤い声。何だったんだ、あれは。あんなモノが扉の先にいるなんて、思わなかった。転移結晶は砕けている。
「その様子、だと……」
「……あぁ、佐久良町に戻れなかった。途中で黒い腕に掴まれた」
「……黒い、腕ですか……?途中で……?」
華蓮は俺の言っている事が理解出来ない様な、想定外だと言わんばかりの顔をしている。
あの腕は華蓮も知らないモノなのか。
「腕だけじゃなくて声も聞こえたんだ。気味が悪かった」
思い返すと鳥肌が立つ。
華蓮は本棚を漁り始めた。黒い腕について書かれた本があるのだろうか。
やがて、ある本を手に取りパラパラとページを捲る。
暫くして、その手が止まった。
「……修平さん。あれは呪術の類です。私が創り出したゲートに干渉した様ですが……今朝までは佐久良町に帰れていたので……」
「ついさっき干渉されたって訳か?可能なのか?」
「魔術に割り込む事は可能です。でも修平さんがゲートに入り込む、その瞬間を狙うのは……難しい、筈です」
俺を狙う誰かがこの屋敷か近辺にいるのかもしれない。だが、何の為に?
「とにかく、このゲートは破棄しなければなりませんね」
華蓮が扉に手を当てると、殻が割れる様な音がしてゲートがあった場所は只の壁に戻っていた。
こうなってしまっては現状、佐久良町に戻る手立ては無いという状況になる訳だが……キルシュバウムに来てまだ1日なのだ。暫くは異世界生活というのも悪くないだろう。
「すみません。帰れなくなっちゃいました……」
「大丈夫だよ。帰れる様になったら教えてくれ」
気が付けば日が暮れている。腹も減ってきたし飯でも食べよう。いや、一旦部屋に帰るか。
華蓮の部屋を出て、部屋に向かう。
これから暫く異世界での生活を余儀なくされたが、特に何をしようという目的は無い。
目的が無いまま日々を過ごしていくというのは退屈だ。
「あ。シュウ、カレンとの話は終わった?」
そんな風に考えながら歩いていたら、フェリアが部屋の前に立っていた。
「待ってたのか?」
「えぇ」
そのままフェリアは扉を開けて中に入っていく。続いて俺も入る。
部屋の中にあるソファーに2人腰掛ける。
思えば色々あった。気が付いたら王都にいて衛兵に殺されかけて、フェリアとロベルトに助けられ、キルシュバウムやガルシア大陸、魔術の事を知り、講習を受けた。
そして華蓮に出会い、佐久良町との繋がりを見つけるも、黒い腕……華蓮が言うには誰かが仕掛けた魔術により、佐久良町には帰れずに終わった。
たった1日でこれだけの出来事があったのだ。
「カレンとは何を話してたの?」
「ん?あぁ、元の世界に帰る方法を教えて貰ってた」
「そうなんだ」
「華蓮は何度か帰ってたらしいんだけど、俺が実践したら失敗した」
クソッタレの魔術のお陰でな。
「帰れなかったんだ」
「帰れなかった上に、暫くはキルシュバウム暮らしだよ」
それはそれで悪くないが、真衣子達が心配しているだろうから出来るだけ早く帰れる事を望む。
「じゃあ、明日王都に行きましょう」
「何しに」
「敵情視察」
お堅い事を言うフェリアに更に問う。
「何の為に」
「私達の目的の為に」
「目的って?」
ソファーから立ち上がり、窓から見える王都の城を眺めフェリアは言う。
「……現在の王政打倒が私達の目的よ」




