13話・ゲート
一ノ宮華蓮。彼女は確かにそう言った。という事は、だ。
「一ノ宮財閥の……」
「よくご存知ですね……私は一ノ宮財閥の次期当主です。分家ではありますが……2年前に財閥から逃げ出して……気が付いたらキルシュバウムにいたんです。そこからは屋敷にお世話になってます」
あれ?一ノ宮先輩は次期当主じゃないのか。その辺も詳しく聞けないままだったな。
「少年、なんか込み入った話みたいだから俺たちは部屋に戻るよ」
「また後でね」
気を使ってくれたのだろうか。フェリアとロベルトはそれぞれ部屋に戻っていった。
「修平さんは……いつ、此処に?」
「今日来たばかりだ。気付いたら王都に居て衛兵に襲われたんだ。で、フェリアとロベルトに助けてもらったんだ」
「そうなのですね……」
一度言葉を区切る。
「私も同じく王都に居ました。隠れていたところをフェリアさんとロベルトさんに……」
華蓮も俺と似た様な状況だったらしい。それが2年程前の事で、屋敷に迎え入れられてから魔術の研究をしているのだという。
そんな中、1月前にある物を作ったそうだ。
「ゲートの応用でキルシュバウムと他の場所を繋げないかと思いまして……右側の本棚を動かしてみて下さい」
ゲート。確か、王都からこの屋敷に連れてかれた時にこの言葉を聞いた覚えがある。空間と空間を繋ぐ魔術、それがゲートなのだろうか。
取り敢えず言われた通り、右側の本棚を動かしてみる。力を込めると音を立てながら少しずつズレていく。
そして、木の扉が現れた。
「これが……ゲートか?」
手作り感満載じゃないか。こんなので佐久良に戻れるのか?
「いえ……この扉は私の趣味、です。ゲートっていうのは……魔術の一種なんです」
ふーむ、中々味があるな。佐久良町の喫茶店にも似た様な扉があったが、良い趣味をしている……などと感心している場合じゃない。
「その、ゲートって魔術で佐久良町とキルシュバウムを繋げたのか?」
「……!?」
華蓮は目を見開いている。何かおかしな事を言っただろうか。
「修平さんは……佐久良町から来たのですか?」
「あぁ。それがどうかしたのか?」
「いえ。私も佐久良町から来たので……まさか、同じ所からとは……あ、この扉ですが……佐久良町の山に繋がっています」
そう言って華蓮は扉を開く。
本来なら扉の外にはキルシュバウムの景色が広がる筈だが、そこにあるのは暗闇だった。
あの黒い球体や柱を思い出す。今も佐久良町に現れているのだろうか。
皆は飲み込まれていないだろうか。
帰れるなら、帰ってキルシュバウムの事を伝えなくてはならない。
「ちゃんと繋がってるんだよな?」
念の為もう1度聞いてみる。華蓮はコクリと頷く。
「実証していますから……確実です。ですが万が一、緊急事態に陥った時は……これを」
手渡されたのは綺麗な青色の結晶だ。微かに光を放っている。
「これは?」
「転移結晶です。これに……魔力を込めればキルシュバウムに戻れます」
「なるほど」
その転移結晶とやらをズボンのポケットに仕舞い、暗闇へと脚を踏み入れる。
「修平さん……行ってらっしゃい」
華蓮のその言葉が聞こえたと同時に扉は閉められ、辺りは真っ暗になった。
はてさて、無事に佐久良町に戻れるのだろうか。暗闇の中をひたすら歩く。歩いていればそのうち何処かに辿り着くだろうと思ったからだ。結構歩いた気もするが、実際はそんなに進んでいないのかもしれない。
(……)
微かに青い光を放つ転移結晶をポケットから出し目の前に翳す。
(何も無い、か)
どうやったら辿り着くのか聞いてなかったなと今更になって気付く。
(もう少し歩いてみるか。それで駄目ならキルシュバウムに戻ろう)
俺はまだ淡い期待を抱いている。
時間がどれ程経ったかも分からない暗闇の中で。
佐久良町に戻れやしないかと。
だが、その期待は打ち砕かれる。
「……!?」
何かが俺の腕を掴んだ。振りほどこうとしたが強い力で掴まれているらしく離れない。気が付けば脚も掴まれている。
転移結晶を翳す。
淡い青の光が照らしたのは、黒い腕。
無数の腕が蠢いている。
「……くそっ!離せよっ!」
嗤い声が暗闇に響く。酷く不快な声。
「煩せぇよ……!離せっつってんだろ!!」
脚、腰、腕、肩、そして首まで掴まれた。身動きが取れない。
(魔力を……!)
転移結晶に意識を集中する。身体の中の門を開く。
その瞬間、声が一層大きくなり腕の力が増す。あと少しで俺は闇に飲み込まれるだろう。
気には留めずに、魔力を転移結晶へと流す。転移結晶は周囲を照らせる程に光を放ち、そしてー
「……戻れた」
華蓮の部屋に戻ってきたのだった。




