11話・魔術講習2
「へ?」
視界には真っ青な空。眼下には小さくなった屋敷。更には王都も見える。そして遥か先には海。
そうか。俺は空に向かって跳んでしまったのか。
身体は重力に引っ張られ大地へと落ちてゆく。まずい、これは非常にまずい。空中を蹴れば戻れるか?いや、さっきの調子だと逆に地面に突っ込むのではないだろうか。
「うわぁぁぁぁああああ!!!」
考えている間にもどんどん地面が近付く。このままでは叩きつけられ、血や内臓を飛び散らせて確実に死ぬ。
くっそぉ、こんな事で死にたくねぇ。
だが、俺にはどうにも出来ない。
あぁ、フェリアとロベルトが見えてきた。何やら芝生が蠢いている。
徐々に伸び、芝生は蔓へと姿を変える。蔓は俺の腕や脚に巻きつき、ゆったりとした落下になる。そのまま地面に降ろされた。蔓は元の芝生に戻る。
ロベルトは腹を抱えて笑っていた。
「はははっ、まさかあそこまで跳ぶとはな。あ、フェリア、ちょっと屋敷に戻ってるよ。アレ必要だろ?」
危うく死にかけた。イメージが強過ぎたのか……ていうかアレって何だよ。
聞く暇も無くロベルトは屋敷に戻っていく。
「移動術に関しては合格ね。鍛錬次第で上手く使える様になるでしょ」
「空中でも移動術って使えるのか?」
「使えるわよ。ただ地上より遥かに制御が難しいからオススメはしないわ」
地上でも制御出来てない俺は……まぁ、慣れだよな。
「次は、防衛術を教えるわ。自分の身を守る為の術を使えないと、衛兵に殺されるからね」
防衛術は人により様々な方法があるという。場合によっては樽やら瓦礫やらを操り身を守る事もあるらしい。
つまりは咄嗟に使えないと話にならない訳だ。しかし、どうやって使うのだろう。
「呪文とか唱えるのか?」
「詠唱は必ずしも必要では無いの。念じれば門が開いてそこから魔力が溢れ出すから」
「唱えないのか……」
詠唱と共に魔術を放つ。ファンタジー小説か何かで読んで、密かに憧れていたのだが……
「私とロベルトは唱えないってだけで、唱える術師も居るわよ?」
「つまりは自由なんだな」
「まぁ、自由だけど唱えてる間は動けないからね」
その間に攻撃されたら元も子もないって事か。それならば、心の中で唱えた方が良いのだろう。
「嬢ちゃん!わりぃ、遅くなった」
屋敷からロベルトが出てきた。手には剣を持っている。
「バートリーの野郎に捕まっちまってよ。芝生を傷付けるな、だとさ」
「屋敷の主でも無いのに何言ってんのって感じだけど、煩いからねぇ……」
「ロベルト、その銃は?」
気になるので聞いてみる。
「ん?あぁ、俺の得意魔術は火だから、魔力を込めると火が出る」
「火?」
火が出る。この庭は芝生。傷付けるどころか全焼するのでは……?
そんな俺の心配を他所にフェリアは話し出す。
「火・水・土・風。これが四大元素。基本的な戦闘用の術の元になってるの。それぞれ得手不得手があるんだけど、ロベルトは火が得意で水が不得意。私は水が得意で火が不得意」
「風と土は?」
「普通?」
普通って何だ……
「他にも雷やら氷やらあるんだが、置いておいて。とにかくだ」
熱気を感じた。ロベルトを見ると、剣から火が……いや、待て。
「剣が火を纏ってる……」
芝生が熱で焦げていく。おいおい、嘘だろ……バートリーに怒られてもしらねぇぞ。
「さて、嬢ちゃん。やろうか」
「えぇ。王都の衛兵相手じゃ、本気出せないもの」
魔術講習、の筈だよな?なんかフェリアもロベルトも真剣なんだが?
巻き込まれたら死ぬんじゃないか。冗談抜きに。焼かれて死ぬなんて最悪だぞ!!
「少年、安心しな。少しぐらい焼けても死にゃしねぇさ」
「いや、安心出来ねぇよ!!」
「ロベルト、あまりからかわないの。大丈夫よ、シュウ」
気がつくと透明な壁が目の前にあった。叩いてみるがビクともしない。
「耐熱性も耐水性も抜群の結界だから安心して」
「わざわざ結界まで張らなくても……」
「さ。改めて、模擬戦闘始めましょうか」
火を纏う剣を使うロベルトと、水の魔術を使うフェリア。果たしてどちらが勝つのだろう。
災害にも匹敵するであろうそれは2人の魔術である。芝生どころか地面まで抉れている。
具体的にはロベルトの剣が火柱を生み出し、かたやフェリアが水流を生み出し相殺。ロベルトが背後に回り込み、火の渦を生み出すがフェリアに避けられる。
気付いたのは火の魔術の方が出が早いという事だ。
一般人から見ると速すぎて視認は出来ない。だが、目に魔力を集中させたら視力が強化されたらしく、2人の姿を捉えられる様になった。
まぁ、それでも速いのだが。
「相変わらず分かりやすいわね。バレバレよ」
「とか言ってるとー」
一瞬だった。火を纏った剣先がフェリアの眼前に迫る。ロベルトは離れた位置に立っている。剣だけを移動させた、のか?
「足元掬われるんだぜ?嬢ちゃん」
「くっ……!」
水の魔術には火の魔術と違い少しだけタイムラグがある。
フェリアは脚を踏み込み、後ろへとー
「おっと、そうはいかねぇぜ?」
先回りされていた。ロベルトはフェリアの背後に移動したのだ。その手には剣を持っている。
後ろに避けると分かっていたから出来る芸当だ。
フェリアは身体を捻り、脚でロベルトを蹴り飛ばすと同時に水流を叩き込むというところで、
「そろそろ終わりにしよう。これ以上庭をメチャクチャにするとバートリーにドヤされる」
終了の合図が掛かった。結界も消え去っていた。
確かに酷い有様だ。どうするんだ、この惨状。
「もう少しで一撃入れられたのに」
「水の魔術は発動までに時間が掛かるからなぁ。今回は分かりやすく水と火だけだったけど、実際はもっと複雑だからな?少年」
魔術師同士の戦闘は、模擬とはいえとんでもない物だと認識したのだった。




