4話・渇望
佐久良町中心部。一ノ宮財閥の建物ごと抉られた地面。そこに現れた黒い穴から黒い柱が空に向かって伸びた。
「何だあれ……」
柱というよりは竜巻に近いかもしれない。渦を巻きながら高く高く伸び、空を黒く染めていく。
「まずい。ここに居たら呑み込まれる……!」
「修平さん、真衣子さん。ここから離れましょう」
そう声を掛けられても俺は目を離せずにいた。自分が住んでいる町でこんな物が見れるとは思っていなかった。心が躍る。
「……修平?」
真衣子が俺の顔を覗き込む。そこで我に返った。
「ごめん。ボーッとしてた」
「早く行くよ」
真衣子に手を引かれて穴から遠ざかる。黒い柱はさっきより太くなっている様に見えた。
佐久良町の西に戻って来た。ここからでも柱は確認出来る。
「……あの柱は、何なの?」
真衣子が神崎に尋ねる。
「あれは基点だよ。あの柱が現れた事でアンダーグラウンドへの道が開いてしまったんだ」
アンダーグラウンドへの道、だって?あの柱がか?
「私と綾人さん、それと各所の情報をもとに調査した結果、あの穴はアンダーグラウンドへの入り口で間違いありませんでした。そしてあの柱。あの場所をアンダーグラウンドは選んだ。異世界と佐久良町を繋ぐ場所として」
そこで絵梨奈は一息ついて、
「このままだといずれ佐久良町は異世界に成り代わります。止めなければいけないのですが……現状その方法は分かりません」
と続けた。
「あの柱と穴が異世界に繋がってるのなら両方消せばいいだけなんじゃないのか?」
「すみません、言葉足らずでした。柱を消し穴を塞ぐ、異世界化を回避する手はこれだけです。ですが……」
「その方法が分からないって事ね」
柱と穴を消す方法か。そういえば神崎は黒い幕を何らかの方法で消していたが……
「その手は使えないよ、修平君。あの方法は効果範囲が狭くてね。というかそれ以前に近付いたら……」
引きずり込まれる、か。近付けもしないとなるともしや詰みなのでは……?
「……あの穴って2年前は?」
真衣子が不意に呟く。2年前の海に開いた穴。3日で閉じたらしいが、放っておけば閉じるという可能性は無いだろうか。
「確か……」
絵梨奈は携帯を取り出し何やら調べ出した。直ぐにとある記事を見せる。
「ここには船が呑み込まれるのを見た、と書かれています。それにその直後に穴は閉じた、と」
なるほど。そういう事か……!
ならば、話は早い。
「何かを呑み込めば閉じるって事だな?」
「えっ!?ちょっと、修平!?」
そう理解した瞬間、俺は再び佐久良町中心部へと向かっていた。
全速力で走ったからか、かなり息が上がった。穴の開いた一ノ宮財閥の建物跡へと戻って来た俺は、ゆっくりと黒い柱へと近付く。
もう少しで触れるというところで後ろから肩を掴まれた。そのまま後方に投げ飛ばされる。
「……っつ!」
顔を上げると、神崎が立っていた。その目は氷の様に冷たい。
神崎は無言で俺を見下ろしていたが、暫くして口を開く。
「……手荒な真似はしたくなかったんだけどね。こうでもしないと止められないと思ったんだよ」
手を差し出しながら神崎はそう話す。俺は手を掴み立ち上がる。
痛みで目が覚めたと言えば覚めたが、異世界への興味は全く尽きない。
「真衣子さんの事も少しは気にかけてあげなよ。君が居なくなったら彼女は……いや、それは君自身が分かってるよね?」
「分かってる」
「だったら、無責任な行動はしない事だ。この柱と穴は異物を呑み込めば消え去る筈だよね。じゃあ、こんな物でも良い訳だ」
神崎は地面に転がっている石を手に取り、柱へと投げ入れた。
やがて渦を巻いていた柱の動きが止まり、収縮していく。それに伴い穴も小さくなっていく。
「君が異世界に行く必要すら無かったんだ。勿論僕たちもね」
穴は完全に塞がり、後に残ったのは何もない地面だけだった。
異世界への道は消え去ったのだ。




