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座敷わらしだって乙女のようです。  作者: 刄琉
第一章「恋を願ひて叫びし乙女」
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第五幸 「玉砕の決意」

一週間ほど前のことである。人々が賑わうシフの街にシノノメ領主直属の騎士団が急遽来訪した。急な来訪ではあったが、このような辺境の小さな街に騎士団それもシノノメ領主直属であるのが現れたとなってシフの人々は大歓迎ムードの中、果物やら服やらを献上しようと街の門まで集結したらしい。誰もが街の検閲や視察に来たのだと思っていた最中、騎士団の先頭に立っていた騎士団長と思わしき男が手を上から下へと、無言で振り下ろした。それと同時に騎士達は一斉にグレネード(この世界では火薬玉というらしい)を一斉に投げ始めたという。たちまち街は火の海と化し、紅い海と骸だけの世界を作り出した。そこに駆けつけた街役場の人々がどうしてかと尋ねると騎士団長の男はこう言ったという。


「シノノメ領はただいま貧窮傾向にある!ので、この辺境の街まで財政支援などをしている余裕はない!

少しでも多くの領内の維持費、戦費を確保するために、この街を破壊することがシノノメ領の貧窮状態を改善する一つの手立てであるとした!逆らうな!これは領主直々の命令である。もし首が落されたくなければすぐにでも朽ちろ!」と。


その後も長時間にわたり街は燃え、火が完全鎮火したときには街中が灰の大地だったという。また建物だけで無く死者も多々出た影響で遺体の処理も追いつかず、腐敗によって発生した感染症によりさらに多くの者が亡くなった、ということらしい。

俺に説明しつつも涙がこらえきれなかったサクラコは静かに泣き出してしまった。俺は右手で優しくサクラコの頭を撫でていたが、左手には赤い血が滲んでいた。だっておかしいだろ。街の安全、民の平穏を願ってこその領主様が、金銭で困ってるから支出先を潰す。それも物理的に。それほどばかげた話は無い。現にこうやって涙を流している少女だっているってのに。

「その情報さえあれば十分だ。」

サクラコが黙って俺の顔をのぞき込む。目的はできた。まだ生活が安定してない中で感情の思うがままに動くのはリスクがあり抵抗あるが、それでもサクラコのため、俺のために動きたい。

「領主をぶっ倒す」

俺は虚空を仰ぐかのように呟くと、サクラコの手を強く握りしめた。



「これで一安心ですな。領主様ぁ。」

「そうだな。少々派手にやり過ぎたかもしれんが。」

「なぁにをおっしゃいますか、領主様。ただ領の金を食いつぶすだけの連中なんですよ?あれくらいしたところで別におかしくはありませんよぉ。」

「はっ、そうだな。そうだよなぁ!」

派手に笑いを飛ばす男は見た目は至って紳士で、尖った顎に細い目つき、なにより全体を覆う白い肌が特徴的である。一方、その男に仕えるような姿勢をとり続ける小太りの男は赤髪のオールバックで彫りの深い目。いかにも悪男といった顔つきをしている。

「でも今思えば税金の徴収金が少なくなりませんかぁ?」

「所詮貧乏しかいない街だ。そんな街が一つ二つ無くなろうと、税金くらい何の問題も無い。問題だったのはそいつらの穀潰しと都市運営費の無駄遣いだ。これらが両方解決されたんだ。これほど嬉しいことは無い。」

鼻を高く鳴らしたその男はふと従者の男にこう尋ねる。

「地下牢の姫はどうかね?」

「いつもと変わらず牢の隅で座り込んでおります。」

「そうか。静かに暮らしてくれているようで嬉しいよ。」

彼は嬉々とした表情にすり替わる。それは狂気と狂喜の体現。特殊性癖や悪趣味という範疇を超えた、

まさに魔王。一人の姫を幽閉し、それを嬉々として嗜む。彼の紳士っぷりなどまるで蛇の皮のごとくまだらで、真皮などまるごと覆い隠してしまう。まるでなどという比喩表現もいらないほどの独裁者だった。

「我が妹、いえお姫様、あなたはこの私―シノノメ・カザキリに生涯服従さえ誓えばいいんですよ。ふふっ...。フハハハハハハ!」



『フハハハハハハ...!』

声が聞こえる。この声を聞くのも何回目だろう。この声は私にとっての警鐘だった。兄上は、地下牢に来る前には必ずそう笑うのだ。彼が人のことを心の奥底から恨み、妬んでいる証拠なのだろう。日常から人のことを蔑み、自らも人であるにも関わらず自身を人間では無いと思い込ませる詐術。この地下牢に収用されている人は私の他にも大勢いた。ここはシノノメ領内で重罪を犯した者や国家転覆罪がかけられている懸賞金付きの大悪党など様々な囚人が収容されている大規模収容所なのだ。私もその一員だった。私が犯した罪。それは、


―生誕したこと―


私は命を授けられたときから存在を否定され続けた。その理由は私の道化的な能力だった。その能力とは《幸せという印象を与える幻覚を見せる》能力だった。端から見れば幸せな気分になれる良いものなのだろう。だが現実が、実際に生きている世界が反抗した。それは幸せな幻覚を見た後に生まれる現実との差異における絶望感。これこそが人々を不幸にする、そう言われてきたのだ。もしそれを自己で制御できるなら牢屋なんかには入っていない。むしろこの世界の住人は誰もが一つ、特殊能力を持っているものだ。しかしそれは自身の能力を制御できる者のみに限られる。制御できないものは危険人物として捕えられてしまうのだ。私もこの能力を制御できない。人の目を見ただけで快楽な夢へと落としてしまう。

だから私は考えた。ここから脱出できないなら助けてもらえばいいんだと。

だから私は取り憑いた。人々の思念を伝わって、彼に。

だから私は待ち続ける。


「いつまでも、カザリは待ってますから。あなたを信じてますから...!」



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