冒険したい理由(わけ)
「ネオン、何故 蔵の近くにいたんだ!! あれほど、近くに行ったら駄目だと言っただろう!!」
「………」
父様の怒号に、声も出なかった。
「黙っていたら、分からないだろう!! 返事をしなさい、ネオン」
大きくなる声に、小さい身体をまた縮ませてしまった。
その様子を見たリヨンが助け舟を出してくれた。
「旦那様、そのように大きい声で問われるのは逆効果だと思われます。 坊ちゃまが萎縮なされていますよ。 もう少しお優しく問われる方が宜しいかと…」
「あぁ、すまなかった。 確かに、リヨンの言う通りだな。 ネオン、何故 蔵の近くにいたんだい?」
「………って。 ただ、冒険…冒険みたいだなって思ったんだ」
「冒険?」
僕の返事に不思議そうに首を傾げる父様。
「旦那様。 坊ちゃまは、最近 読書の時間にこの本を読んでおられますよ」
そう言って、リヨンは1冊の本を父様の前に差し出した。
「何…少年ダルアンの冒険?」
「はい、そうです。 ダルアンの冒険です」
「でも、この本が一体…」
父様がまた首を傾げる。
その様子を見たリヨンが口を開いた。
「この本では、少年ダルアンが色々な所に冒険に行くのです。 例えば、謎の花を見に隣町まで行ったり、ドラゴンに会いに山に行ったりと、ダルアンは一人で勇敢に冒険に行くのですよ。 きっと、坊ちゃまは、この本の影響で冒険したくなったのでしょう」
「そうなのか、ネオン?」
父様が僕の目を見て、問いかける。
「はい、そうです。 だって、ダルアンはとても楽しそうに冒険しているから…僕も冒険したくなったのです」
「そうか、正直に言ってくれてありがとう。 だが、ネオン…冒険はやめなさい。 外の世界は、危ない。 冒険の前にお前は、このウィルヘルム家の跡取りとしての自覚を持ち、自分自身を精進させなさい。 分かったね、ネオン」
「分かりました、父様」
その返事を聞いて、満足した父様は、部屋を出て行った。
「では、坊ちゃま。 これから、勉強の時間に入ります。 ご準備を…」
「はい、はい」
大嫌いな勉強の事を思うと、溜息が出そうだ。
「はいは、一回で結構です」
「はい」
リヨンに、やる気のない返事をしながら、次はどうやって蔵に近付こうか頭の中で必死に考えていた。
なかなか、進みません…