キラキラした小箱
アンジェラは、不安で一杯の顔を上げて、わたしを見上げ、
「あの…… 一緒にといいますと、どこまで行くのでしょうか?」
「とりあえずは帝都まで。ここに戻ることはないかもしれないから、貴重品その他、どうしても手放せないものがあれば、忘れないようにね。それと、外は寒いから、防寒着も」
「分かりました。すぐに準備を……」
アンジェラはカウンターの奥へ、小走りに駆けていった。
「さすがマスター」
プチドラは喜んで、机の上を飛び跳ねている。
「別に情けをかけたわけじゃないわ。あの子は働き者だから、国に連れて帰れば、何かの役に立つでしょ」
「そんなこと言って…… 本当に、それだけ?」
プチドラはピョンとわたしの肩に飛び乗り、(どういう意味か?)体を摺り寄せる。
「……ちょっと、どうしたの、プチドラ!」
やがて……
「すみません、お待たせしました」
アンジェラが小さなコートを着て、両手にキラキラした小箱を持って戻ってきた。
「用意はできたみたいね。ところで、その……」
その「キラキラ」は、よく見ると、宝石の輝きだった。小箱には、ダイヤモンド、サファイヤ、エメラルド、ルビー等々、大小さまざまな宝石が散りばめられている。まさか、プラスチックのイミテーションということはないだろう。
プチドラは肩越しに小箱を見ると、少し驚いたような声で、
「マスター、宝石は、すべて本物だよ。品質もよさそう」
生来的に宝石や貴金属を好むドラゴンの鑑識眼だから、間違いないだろう。でも、子供が持つものではないし、たかだか冒険者の宿の収入で、こんな高価なものを購入できるとは思えない。
「アンジェラ、この小箱は何?」
「これは……」
アンジェラは、少し躊躇しながら、
「亡くなった母の形見と聞いています」
ということは、母親が相当なお金持ちだったのだろうか。
疑問は尽きないが、それはさておき、とりあえず、
「中を見せてもらってもいいかしら? 何が入ってるの?」
「それは……」
アンジェラはポケットから小さなカギを取り出し、小箱の鍵穴に差し込んだ。音もなく蓋が開く。小箱に収められていたのは、これまた驚きのキラキラと輝くロケット(装身具)だった。




