奇妙な光景
ブラックシャドウは、わたしの姿を見ても、特段驚いた風はなく、
「ほお、無事だったのか。しぶとさは、話に聞いていたとおりだな」
「マーチャント商会会長から話があったのかしら? そう簡単にくたばりはしないわ」
「しかし、ひとりということは、ホフマンはくたばったかな?」
「ええ、見事な最期だったわ。あの時、どうして自分だけ逃亡したのか、弁明があればどうぞ」
「弁明? ないよ」
ブラックシャドウは凍えるように冷たい眼でわたしを見下ろしている。武器に手をかけるでもなく、一定の距離を保ち、わたしと向き合っているだけ。
なんだか、奇妙と言えば、奇妙な光景だ。ブラックシャドウとわたしは、今は御落胤をめぐって敵同士。ブラックシャドウにとっては、魔法使い(実際にはプチドラの魔法だけど)が相手だから、理論的には先手必勝、魔力の発動前に決着をつけなければならない。悠長に構えてはいられないはずだが……
わたしはプチドラに視線を送り、小さな声で、
「プチドラ……」
「あいつをやっつける?」
「そうじゃなくて、とりあえず索敵。できる?」
「一応ね。索敵範囲はマリアに全然及ばないけど、クラーケンの宿の周辺くらいまでなら、なんとか」
「それで十分よ」
なぜ索敵かというと、ブラックシャドウの態度に違和感を感じたから。彼には黒ずくめの男という仲間がいた。わたしがブラックシャドウに気を取られている間に、背後から毒を塗った吹き矢で一撃という可能性もある。
ところが、プチドラは索敵を終えると、首を横に振り、
「敵対的な意志を持っているのは、ブラックシャドウ以外にいないよ」
ということは、こちらが(多分、圧倒的に)有利なわけだ。ブラックシャドウの落ち着き払った態度は、単なるブラフだろうか。
「どうしたのかな? さっきから固まったまま動かないようだが……」
ブラックシャドウは、ニヤリと口元を歪めた。
「実は、用があるのは、あなたではないのだ。今日は、店のオーナーに話があってね」
ブラックシャドウはゆったりとした足取りで、わたしの脇を通り過ぎ、オヤジの背後に回った。
オヤジは、相変わらず、呑気にタバコをふかしながら、
「あんたもかい…… 今日は妙な客ばかりだな」
「用件は、言わなくても分かるだろう。元同業者のよしみだ。素直に従うなら……」
「断る!」
オヤジは、突如、鬼のような形相になって、ブラックシャドウをにらみつけた。




