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ザ☆旅行記Ⅶ 奇貨おくべし  作者: 小宮登志子
第10章 巨人VS武装盗賊団
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御落胤の居場所

 前ツンドラ候は、「どうだ」とばかりに身を乗り出した。先ほど、「涙なしでは語れぬ部分を省略する」と言ってた割には、講談をぶつような調子で、楽しそうに語っている。御落胤が今どこにいるかを聞ければ十分だけど、この人には、言っても効果はなさそうだ。

「そこで、天下無双の『子連れマンモス』、義を見て為さざるは勇なきなりと……」

 話にはさらに、熱がこもってきた。「子連れマンモス」は、前ツンドラ候の説明によれば「義憤に駆られ」(御落胤の母親に惚れたのが本当の理由ではないだろうか)、帝国宰相配下の者どもを打ち倒し、御落胤とその母親を奪い返したという。しかし、その時には、母親は、殺される前の「お約束」として、いわゆる鬼畜系エロゲのごとく悲惨な状態となっており、御落胤の背中にも既にハート型の焼印が押されていた。「子連れマンモス」は虫の息となった母親から御落胤を託され、行方をくらましたという。


「それで、その『子連れマンモス』は、今、どこに?」

「うむ、それはな……」

 前のツンドラ候は身をかがめ、わたしの耳元でささやいた。

「今はグレートエドワーズバーグで、冒険者の宿を経営しておる」

 灯台下暗しというか、ありがちの展開というか……

 ブラックシャドウとその仲間が言ってたこと(「あの親子」とか「あのイカレポンチ」とか)と合わせて考えれば、クラーケンの宿のオーナーが「子連れマンモス」、知的障害の息子が御落胤ということになろう。これだけのことを知るために、随分と時間がかかったものだ。

 ちなみに、「子連れマンモス」は御落胤を連れて行方をくらましたあと、追手の追及を逃れながら各地を放浪し、最終的にはグレートエドワーズバーグに落ち着いたとのこと。「逃避行の開始地点に戻ってくるとは、誰も思うまい」という考慮が働いたのだろう。なお、落ち着く頃には、追及の手もかなり弱まって(というか、ほとんどなくなって)いたらしい。


 御落胤がクラーケンの宿にいるなら、このところのブラックシャドウの不可解な行動も説明がつく。仲間の黒ずくめの男の衣服に「金貨の山」が描かれていたとすれば、ブラックシャドウの言う「クライアント」とは、間違いなくマーチャント商会。彼は「わたしの御落胤捜しを妨害するとともに、自身で御落胤を捕まえてマーチャント商会本部まで連れて来る」という契約を結んでいたのだろう(わたしに近づいたのは、妨害相手の近くにいれば妨害も容易と見たからだろうか)。ラブリンスク村に御落胤がいるという話も、最初からウソだったに違いない。クラーケンの宿のオーナー親子が怪しいとにらみ、そこからわたしを遠ざけるとともに、自らが御落胤を確保するため、その方便としての与太話を持ち出したのだろう。

 そうと分かれば、急いでブラックシャドウを追いかけるだけだが……

「まあまあ、隻眼の黒龍がいるなら、そう慌てて行くこともなかろう」

 と、前ツンドラ候。既に死者の弔いは終わり、その場ですぐに酒宴が始まっていた。

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