「真正!? 子連れマンモス」の秘密
前ツンドラ候は、「どっこいしょ」と地面に腰を下ろし、
「涙なしでは語れぬ部分を省略するとしても、『結論』に入る前に、多少、前置きがあってな」
「前置きでしたら、必要な範囲でお願いします」
早くブラックシャドウを追いかけたいのに、なんだか、長い話になりそうだ。
「うむ、それでは、最初から核心に触れることにする。つまり、御落胤とその母を連れて村を出た『真正!? 子連れマンモス』のことじゃが、驚くなかれ、その正体は……」
「あの~、それは、ひょっとして、『実は帝国宰相が送り込んだエージェントだった』というオチでは?」
すると、前のツンドラ候は、「オオ!」と声を上げて立ち上がり、
「確かにその通りじゃ! しかし、どこでその話を!? この話は、帝国政府でも、トップシークレット級の超極秘事項なのじゃぞ」
「形容詞過剰のようですが…… それはさておき、わたしも独自に調査くらい(実際のところは、ブラックシャドウと黒ずくめの男の話からの類推だけど)しますから」
「そうか、なるほどな。う~む、息子の目は節穴ではなかったということじゃな。さすがじゃ。今までは、わしよりも、さらに輪をかけたバカ息子とばかり思っておったが、なかなかやりおるわい」
前ツンドラ候は、ウンウンと何度もうなずき、ひとりで納得している。こちらとしては、それよりも話を先に進めてほしいのだが。
「え~っと、どこまで話したかな……」
「例の『子連れマンモス』(長ったらしいので『真正!?』の部分は省略しよう)の正体のところまでです」
「そうそう、それ…… いやぁ、年を取ると、忘れっぽくなって、いかんわい」
年だけの問題だろうか。ともあれ、前ツンドラ候の話によれば、実は、その「子連れマンモス」とは、御落胤の身柄を確保するために、帝国宰相から派遣されたエージェントだった。「子連れマンモス」は一介の流れ者のフリをして、巧みに御落胤の母親(クルグールスク村一番の美しい娘)に近づき、結婚という平和的な形で、怪しまれることなく御落胤を村から連れ出すことに成功。グレートエドワーズバーグ(当時はセントピーターズバーグ)で帝国宰相の配下の者に御落胤とその母親を引き渡して任務完了……のはずだった。
ところが……
「実はな、最終段階に至って、その『子連れマンモス』が、帝国宰相を裏切ったのじゃ。」
前ツンドラ候は、急に声を小さくして話を続けた。「子連れマンモス」は、一度は御落胤とその母親を引き渡した。しかし、帝国宰相配下の者との雑談の中で、その後の御落胤と母親の運命を聞かされ、慄然とする。
前ツンドラ候は、大きな顔をわたしに近づけ、
「なんと、母親は、最終的には殺されて港に沈められる予定、そして、御落胤は、ひと目でそれと分かるよう焼印を押され、帝国宰相の手の者の中でも特に信用できる者のところへ里子に出される予定だったのじゃ」




