やっぱりあの人
地上で手を振っているのは、身長2メートル30センチ以上、白髪混じりのオールバックに口髭と顎鬚を伸ばしたマッチョマン。果して……
「お~い、降りてこい。わしじゃ、ピョートル・ミハイロビッチじゃ!」
思ったとおり、前ツンドラ候だった。話によれば、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜、灰色のマントの集団が灰色の馬を駆り、巨人の国の領内に侵入しているという知らせを受けたので、近隣の村々が自警団を集めて迎撃に出たとのこと。そこで、「ケンカが三度の飯より好きな」前ツンドラ候も、「助っ人」として、巨人の側に参戦したという。
「実戦は久しぶりじゃ。さすがのわしも、始めのうちは少し緊張したよ」
前ツンドラ候は額の汗を拭った。今は、「久しぶりに、いい汗をかいた」という感じだろうか。隻眼の黒龍は、数人の巨人と話をしている。どんな話かは分からないが、会話は弾んでる様子。時折、巨人の豪快な笑い声も聞こえてくる。互いに武勇を讃えあっているのだろうか。
でも、こうなると、必然的に……
「この戦いの死者をねんごろに弔った後、勝利を記念して酒宴を催すことになるのじゃが、どうかね、この前のように、パァーっと、派手に」
やっぱり、思ったとおり。でも、今は、ブラックシャドウの行方も気になるし、あまりゆっくりしてはいられない。
「ありがとうございます。でも、今は御落胤捜しが何よりも優先されますので、今回は、ちょっと……」
「御落胤? そうか、御落胤か」
前ツンドラ候は腕を組み天を仰いだ。そして、「あー」とか「うー」とか、頭を上下あるいは左右に動かして、しばらく、うなり声を上げていたが、
「おお、そうじゃ! 御落胤じゃ! 危ない、すっかり忘れておったわ!」
前ツンドラ候は巨体を揺らしながら、パンと掌を合わせた。
「あの、忘れていらっしゃったというのは?」
「うむ、実は、その後の御落胤の足取りが判明していたのじゃ。いやぁ、わしとしたことが、はっはっは!」
笑い事ではないと思うけど、それはそれとして……
話によれば、前ツンドラ候は、わたしたちがクルグールスク村を出発した後も、巨人たちのネットワークや自身の過去の地位に基づくコネクションを利用し、情報を集めてくれていたらしい。その結果、御落胤の居場所が判明したが、わたしに連絡する方法がなかったので、「次に顔を合わせた時に話そう」と思っていたらスッカリ忘れてしまい、今、御落胤の話が出たので思い出したとのこと。
「その後の御落胤つまり、戦士『真正!? 子連れマンモス』一行の旅は、話し出せば長いが、全部聞くかね?」
「いえ、結論の部分だけで結構です」
「そうか、それは残念じゃのう。涙なしでは語れぬ話なのじゃが」
前ツンドラ候は、さも残念そうに言った。果たして、御落胤はいずこに?




