追いつかれそう
ホフマンは、チッと舌打ちして御者台に飛び乗り、
「とにかく荷馬車を出す。立っていると危ないぞ」
そして荷馬車は急発進、わたしは荷台の上でよろめいて倒れ、
「ムギュッ!!!」
と、プチドラを下敷きにしてしまった。哀れ、プチドラは悲鳴を上げた。
ホフマンは少しでもスピードを上げようと、ラバを何度も鞭でひっぱたいている。でも、荷馬車だから、スピードには自ずから限度があろう。
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
後方からは、不気味なコーラスの声が、ますます高くなっていく。距離は、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜や、灰色のマントも確認できるくらいまで詰まっている。もう数分もすれば、武装盗賊団に追いつかれるだろう。
ホフマンは何度も後ろを振り返り、ブツブツと文句を言いながら、鞭を入れる手にさらに力を込めている。でも、ダメなものは、やはりダメだろう。
そろそろ頃合かもしれない。わたしはプチドラを抱き上げ、
「追いつかれないうちに、逃げましょうか」
「でも、マスター、このドワーフはどうするの?」
「どうもしないわ。武装盗賊団に追いつかれて捕まったら、ブラックシャドウの仲間ということで、血祭りに上げられるかもね。でも、わたしには関係のないことよ」
「でも、いくらなんでも、それは……」
プチドラは、「う~ん」と首をかしげた。
でも、先日、3体の巨人と話をしたとき、ホフマンやブラックシャドウは、巨人と話をする(実際に話をするのはプチドラだけど)わたしに近寄ろうとしなかった。その時は「なんと薄情な連中だ」と思ったけど、もし、今、自分だけ隻眼の黒龍に乗って逃げ出した場合、ホフマンの目には、わたしはどのように映るだろうか。
武装盗賊団は、そんなことを考えているうち、荷馬車のすぐ後ろまで迫ってきていた。
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
テーマソングの例の不気味なコーラスが、やかましく響いてくる。武装盗賊団に肉薄され、今は、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜、灰色のマント、灰色の馬の姿がハッキリと見える。




