帝都の政治状況
この辺りで、目下のところの帝都の政治状況について、少し触れておこう。この前に、屋敷に帝国宰相とツンドラ候を招き、わけの分からない大宴会の末、二人に兄弟分(ちなみに、兄がツンドラ候、弟が帝国宰相)になってもらった後の話。
有力諸侯で皇族でもあるアート公、ウェストゲート公、サムストック公など、帝国宰相に反対する勢力は、当初、ツンドラ候を担いで宰相の追い落としを図るつもりだった。ツンドラ候の軍隊は、長年、北方で巨人の国と抗争を繰り広げており、勇猛果敢、帝国最強を謳われている。ツンドラ候の武力を背景とした圧力によって、帝国宰相を追い込もうという計画だったのに、事もあろうに、そのツンドラ候が帝国宰相と手を組んだため、予定がすっかり狂ってしまい、反対に、自分たちが追い詰められることになった。
状況が変ったと見るや、帝国宰相の行動は素早かった。ツンドラ候の名により宴席を設け、反対勢力の元締めのアート公、ウェストゲート公、サムストック公を呼び出した。宰相は、その3公爵と「和解」し、以後、3公爵は、宰相の「弟」として、宰相に仕えることとなった。
さらに宰相は、ツンドラ候を伴ってマーチャント商会の本部に乗り込み、会長から、自分への支持と資金面での援助の約束を取り付けた。資金面での援助とは、(肝心な時に自分を見捨てた)ドラゴニア候を「見せしめ」に征伐する費用を捻出するため。その際に、(ガイウスの推測によれば)帝国宰相は交換条件として、マーチャント商会によるウェルシー侵攻に黙認を与えたのではないかとのこと。
ちなみに、「北方のツンドラ候の領地あるいは巨人の国に、皇帝陛下の御落胤がいる」という、怪しげな噂が広まったのもこの頃ということだけど、ここまでくると、噂の発信源は帝国宰相ではないかという気もしてくる。ドラゴニア候を首尾よく成敗できれば、宰相の政治権力は磐石のものとなるだろう。あとは、御落胤を皇位につけて自分がその後見人となり、支配に正統性を与えるだけだ。これで帝国宰相による支配体制が完成する。
わたしは紅茶を一口すすり、
「ということは、すべてが元通り? それとも、状況としては、前より悪く?」
「ははは…… せっかく皇帝暗殺までしてもらったが、結果的には意味がなかったかも知れないな」
ガイウスは苦笑しながら、
「まあ、仕方がないさ。でも、いずれ、きっとチャンスは来るよ」
前向きというか、なんというか…… 今まで「すべてのエルフの母」を救出できなかった理由が分かったような気がする。
その翌日、帝国宰相の使者が屋敷にやって来た。使者の口上によれば、「本日夕刻、宮殿にて、帝国宰相を交え、マーチャント商会会長と食事会を催す」とのこと。ガイウスの推測が正しければ、宰相は、マーチャント商会会長とわたしの板ばさみになって苦しい立場のはずだけど、どう仕切るつもりなんだか……