ブラックシャドウ逃亡
ホフマンはバトルアックスを握る手に力を込め、
「『冗談ではない』とは、どういうことじゃ? わしらをたばかっておるのか?!」
「いや、そんなつもりは、まったくない。しかし、事情が大きく変わってしまったのだ。悪いが、パーティーは、ここで解散だ」
「解散? 今まで、わしらを散々振り回しておいて…… それが答えか!」
ホフマンは、怒りのあまり体をワナワナと震わせた。ハンドアックスを構えると、多分、本気だろう、ブラックシャドウとの距離をジリジリと詰めてゆく。
しかし、ブラックシャドウは涼しい顔で、
「クライアントとの契約上、詳細は明かせないが、つまり、そういうことだ」
そして、凍りつきそうな目をわたしに向け、
「君には悪いが、早い話、君が御落胤を連れ帰っては困る人たちがいるのだよ。御落胤は、おそらく、我々の手で保護することになるだろう」
「その人って、もしかして、マーチャント商会の会長のこと?」
しかしブラックシャドウは問いに答えず、背後を振り返った。
すると、突然(といっても、ブラックシャドウと話をしていたので気がつかなかっただけだが)、荷馬車の前方から、2頭の馬が猛スピードで駆けてきた。馬はヒモで繋がれ、そのうちの1頭には、全身黒ずくめの、見るからに怪しげな人物がまたがっている。
「きっと、あいつだよ」
プチドラはわたしの肩に飛び乗り、そっと耳打ちした。説明は不要だろう。黒ずくめの怪しげな人物とは、これまで何度かブラックシャドウとヒソヒソ話をしていた、あの男に違いない。
黒ずくめの男は巧みに馬を操り、あっという間に、馬を荷馬車のすぐ横につけた。
ブラックシャドウは、(背中が空いている方の)馬にサッと飛び乗ると、
「はっはっはっ、私はこれにて失礼するが、武装盗賊団は、君たちで適当にあしらってもらいたい。君たちの無事を祈っているよ!」
ブラックシャドウは、まるで「勝利」を確信したかのような高笑いを残し、黒ずくめの男とともに、いずこかへ走り去ってしまった。
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
荷馬車の後方からは、武装盗賊団がコーラスを響かせて迫ってくる。振り向くと、今はまだ遠くだけど、それっぽい集団が見える。その数は、1000人以上だろうか、多すぎて数え切れないくらい。
ブラックシャドウのヤツめ、本当に面倒なことを押し付けてくれたものだ。




