巨人の話
プチドラは、ズシンズシンと去り行く巨人たちを見送りながら、
「よかったよかった。やっぱり、巨人だけあって、スケールが大きいね」
なんだかよく分からないが、すこぶる上機嫌。
「プチドラ、一体、何を話していたの?」
「いや、別に、大した話じゃないんだけど……」
プチドラによれば、巨人とは世間話(といっても、巨人なので、ひとっ走りの距離が数十キロみたいなスケールの大きな話とのこと)くらいしかしなかったらしい。でも、それなりには得るものがあったようだ。巨人のうち、ひとりは、クルグールスク村の住民で、どういう理屈なのかよく分からないが、前ツンドラ候(巨人の国ではピョートル・ミハイロビッチ)と戦って引き分けた隻眼の黒龍のこと、それ自体を誇りに思っているという。
ともあれ、巨人が言うには、何やら怪しげな荷馬車が巨人の国の領内に侵入してきたので、職務上、念のために尋問を、ということだったらしい。ちなみに、3人の名は、イワン・イワーノビッチ・イワーノフ、セルゲイ・セルゲービッチ・セルゲーエフ、ニコライ・ニコラエビッチ・ニコラーエフで、国境警備を担当しているとか。
それはさておき、
「結局、どうなったの? 領内の通行は許してくれる?」
「うん、『前ツンドラ候の知己だったら、フリーパス』だって」
なんと! 三度の飯よりも喧嘩が好きな単純バカでも(失礼……)、意外とあなどれないかも。
「それと、もうひとつ、巨人たちが言うには、ちょっぴりおかしな話なんだけど……」
プチドラは話を続けた。それによれば、「御落胤を捜しにラブリンスク村に行くところだ」と言ったところ、「そんなことは有り得ない」と、妙な顔をされたらしい。巨人の話によると、ラブリンスク村は、「村」とは言いながら、実際は小さな砦で、巨人以外の居住者はいないという。なんとも不可解な話だが、
「マスター、やっぱり、この辺りでパーティーを解消しない?」
と、プチドラ。わたしとしても、いい加減、ブラックシャドウに振り回されるのに飽き飽きしてきたところだ。でも、こうなれば、「毒食わば皿まで」みたいな精神で(ちょっと違うか?)、とにかく行き着くところまで、行ってみよう。
わたしは荷馬車に戻り、
「話はついたわ。巨人の国の領内は自由に通行しても構わないんだって」
「ほぉ、それはよかった」
ブラックシャドウはニコリともせずに言った。この男、一体、何を考えてるんだか。内心、「うまくわたしを利用できた」と、ほくそ笑んでいるのかもしれない。でも、そのうちに、きっと、必ず、なんとしても、ひと泡吹かせてやろう。
「それでは、ラブリンスク村まで、先を急ぐとしようか」
ブラックシャドウは言った。わたしもホフマンも無言。でも、荷馬車は静かに動き出した。一体、行く先には何があるのだろう。不安とともに、期待も少々。




